「75歳を過ぎてからの夫婦ふたりの生活費は毎月いくら必要なのか」「自分たちの年金と貯蓄だけで老後をやっていけるのだろうか」と不安を抱えていませんか?
2026年3月に公表された総務省の家計調査によると、75歳以上の無職世帯では平均して毎月約2万7000円の赤字が発生しており、多くの家庭が貯蓄を取り崩して生活しているのが現実です。さらに、年齢を重ねるにつれて日常の生活費だけでなく、慢性疾患による通院費や住居の維持費、介護費用が想定外に膨らみ、家計を急迫するリスクも高まります。
ですが、公的保障の仕組みを正しく理解し、事前にリスクに備えておけば不安を恐れる必要はありません。
本記事では、75歳以上シニア夫婦のリアルな生活費データから、後期高齢者医療制度の負担割合(1〜3割)、そして万が一の医療費負担を抑える高額療養費制度の具体的な活用法までわかりやすく解説します。
将来のお金の全体像と守りを固める術を理解し、安心して長寿時代を生き抜くための確実な一歩を踏み出しましょう。
1. この記事の3つのポイント
-
75歳以上夫婦の生活費と月2.7万円の赤字実態:総務省の最新データから、実際の収支バランスと貯蓄取り崩しの現実が明確になる。 -
年齢とともに増加する隠れた支出:日常の生活費だけでなく、持ち家の維持修繕費や将来の介護費用など、膨らみやすいコストを事前に把握できる。 -
後期高齢者医療制度と高額療養費制度の仕組み:所得に応じた自己負担割合(1〜3割)や毎月の上限額を知り、医療費リスクに正しく備えられる。
2. 【75歳以上 後期高齢シニア】夫婦ふたりの生活費はいくら必要?毎月の支出を読み解く
総務省「家計調査(2025年)」によると、75歳以上の無職・二人以上世帯(平均世帯主年齢80.8歳、持ち家率96.0%)の家計収支は以下の通りです。
2.1 【75歳以上 後期高齢シニア夫婦】無職世帯:毎月の収入と支出
実収入: 25万2798円
- うち社会保障給付(主に公的年金給付): 21万1289円
実支出:28万23円
消費支出: 24万8460円
- 食料: 8万33円
- 住居: 1万6257円
- 光熱・水道: 2万4312円
- 家具・家事用品: 1万547円
- 被服及び履物: 5142円
- 保健医療: 1万7213円
- 交通・通信: 2万6294円
- 教育: 142円
- 教養娯楽: 2万2322円
- その他の消費支出: 4万6198円
非消費支出: 3万1563円
- うち直接税: 1万1663円
- うち勤労所得税: 519円
- うち個人住民税: 3206円
- うち他の税: 7938円
- うち社会保険料: 1万9894円
- うち公的年金保険料: 1966円
- うち健康保険料: 1万494円
- うち介護保険料: 7352円
毎月の家計収支
- 実収入:25万2798円
- 実支出:28万23円
- 家計収支:▲2万7225円(赤字)
- 黒字率:▲12.3%
- 平均消費性向(※1):112.3%
- エンゲル係数(※2):32.2%
収入の大半を年金が占める世帯では、生活費を年金だけでまかなえず、毎月約2万7000円の不足分を貯蓄の取り崩しで補っている実態がうかがえます。
特に夏場は光熱費が膨らみやすく、家計への負担がさらに増加する点に注意が必要です。
3. 元FP会社職員の視点:毎月約2.7万円の「赤字」とどう向き合うか?
重要なのは、赤字額そのものよりも『予期せぬ支出(突発的な医療費・家電の故障等)』でこの取り崩しペースが急加速しないかです。
まずは固定費のうち、大手キャリアのスマホ契約を見直す、子育て期に加入した保険を見直すなど、月5000円〜1万円の『家計の削りしろ』がないか確認してみましょう。
4. 高齢になるほど増えやすい支出項目とは?
家計調査で示される平均額だけでなく、年齢を重ねるにつれて発生しやすい隠れた費用をあらかじめ想定しておくことが重要です。
- 住居の維持費・修繕費: 持ち家率が高く毎月の「住居費」は少なく見えますが、固定資産税、老朽化に伴う修繕費、マンションの管理費・修繕積立金などの維持費は継続して発生します。
- 医療費の積み重ね: 慢性疾患などによる定期的な通院や服薬が日常化し、少額でも毎月継続的な支出となります。
- 介護・生活支援サービス: 将来的な介護サービスの自己負担分や、食事宅配、家事代行、タクシー利用などの生活を支える費用が増えやすくなります。
また、介護保険サービスを受けた際の自己負担額を抑える方法については、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
生命保険文化センターの調査では、夫婦2人の「最低限の日常生活費」は月23万9000円、「ゆとりある老後生活費」は月39万1000円とされています。
どのような老後を目指すかで、必要な資金は大きく変わってくるでしょう。
5. 【75歳以上 後期高齢シニア】厚生年金・国民年金の平均額はどのくらい?手取り額に注意
2026年度(令和8年度)の年金額は引き上げられ、増額分は6月支給分から反映されます。
75歳以上の平均的な年金受給額(2024年度末時点の月額)は以下の通りです。
※この記事では、民間企業などに勤務していた方が受け取る「厚生年金保険(第1号)」を「厚生年金」として解説します。
5.1 【年金リスト】75歳~90歳以上「厚生年金・国民年金」5歳刻みの平均年金月額
厚生年金(国民年金部分を含む)
- 75歳~79歳:15万1377円
- 80歳~84歳:15万7689円
- 85歳~89歳:16万5486円
- 90歳以上:16万4027円
国民年金
- 75歳~79歳:5万9346円
- 80歳~84歳:5万8454円
- 85歳~89歳:5万9066円
- 90歳以上:5万5633円
夫が厚生年金、妻が国民年金を受給する場合、75〜79歳世帯の額面合計は約21万円になります。
ただし、ここから所得税や住民税、介護・医療保険料が天引きされるため、資金計画は必ず「手取り額」を基準に立てる必要があります。
6. 【75歳以上 後期高齢シニア】老後資金はいくらある?平均貯蓄額と金融資産の内訳
年金だけでは不足する生活費を補う役割を担うのが貯蓄です。
総務省「家計調査 貯蓄・負債編 2025年〔二人以上の世帯〕」によると、世帯主が75歳以上の無職世帯の平均貯蓄額は2392万円です。
貯蓄:2392万円
金融機関:2383万円
- 通貨性預貯金:763万円(31.8%)
- 定期性預貯金:775万円(34.5%)
- 生命保険など:396万円
- 有価証券:449万円(18.4%)
- 貸付信託・金銭信託:10万円
- 株式:223万円
- 債券:45万円
- 投資信託:171万円
金融機関外:9万円
負債:24万円
資産の約6割を預貯金が占めていますが、物価上昇が続く環境下では実質的な資産価値が目減りするリスクがあります。
運用や自宅の活用(リバースモーゲージなど)を含め、「資産寿命」を延ばす視点が求められます。
7. 新NISAで運用中の元FP会社職員の視点:75歳からの新NISAは「増やす」ではなく「守りながら崩す」
75歳以降のシニア世代における新NISA活用は、現役世代のような『資産の最大化』ではなく、『インフレ(物価高)対策』と『計画的な取り崩し』が主目的となります。
預貯金だけで資産を保有していると、物価上昇によって実質的な購買力が目減りしてしまいます。リスクの低いインデックスファンド(全世界株や債券混成型など)で運用を続けつつ、毎月の生活費の赤字分(約2.7万円)を自動で売却・現金を補填する『定期売却サービス』を活用するなど、年齢に合った運用を選択することが大切です。元本を大きく減らさずに長持ちさせる仕組みを作りましょう。
7.1 「75歳からの資産取り崩し」でやってはいけない2つのミス
ミス①:一括でまとめて売却・現金化してしまう
「相場が良いから」と保有投資信託を一括売却すると、その後の上昇相場の波に乗れず、長期的にはインフレ負けするリスクが高まります。毎月の赤字分(約2.7万円)だけを定期売却する仕組みをセットしましょう。
ミス②:医療費リスクを理由に「過度な元本保証(預貯金のみ)」に偏る
「減らすのが怖い」と全額を普通預金に置くと、年1〜2%台の物価上昇が続いた場合に10年で実質的な購買力が大きく低下します。
「緊急予備資金(1〜2年分の生活費+医療費予備)」のみを預貯金で確保し、残りは低リスクインデックスで運用しながら崩す「二刀流」が防衛策になります。
8. 働くシニアが増える背景:年金以外の収入を求める理由とは
老後の生活を支える収入の柱は公的年金ですが、年金だけでは家計を維持しにくいと感じる人が増えています。
総務省の統計(2024年)では、65~69歳が53.6%、70~74歳が35.1%、75歳以上でも12.0%の人が就業しています。
75歳以上の後期高齢者でも、仕事を続けている人は一定数います。その背景には生活費を補う目的だけでなく、健康維持や社会とのつながりを保ちたいという考えもあります。
8.1 高齢者が働く理由とは
同調査では、高齢者が仕事を続ける理由についても分析されています。
理由①家計のため
ここまで見てきたように、後期高齢シニア夫婦の家計は平均すると毎月赤字となっています。公的年金は老後生活の基盤となる収入ですが、医療費や日常生活費を含めた支出をすべて賄えるとは限りません。
不足する生活費を補う方法としては、貯蓄を取り崩すだけでなく、「働いて収入を得る」という選択肢もあります。特に物価高が続く現在では、数万円程度の収入でも家計を支える効果が期待できます。
理由②高齢者のライフスタイルにフィットする働き方
近年は、「週に数日だけ」「体力に合わせて無理なく働く」といった柔軟な働き方が増え、自分の生活スタイルに合わせて仕事を続ける人が多くなっています。
高齢期は体力や健康状態に個人差があるため、誰もが同じ働き方を選べるわけではありません。大切なのは、フルタイム勤務にこだわることではなく、自分に合った無理のない範囲で収入を確保することです。
短時間勤務や、これまでの経験を活かせる仕事、地域での軽作業など、自身に適した働き方を選ぶことで、家計だけでなく生活全体の安定にもつながります。
理由③「支出抑制」と「資産寿命」への効果
高齢期の就労には、収入を得ること以外にもメリットがあります。家計全体を見たときにも、さまざまな効果が期待できます。
たとえ毎月数万円の収入でも、赤字を減らすことができれば、貯蓄を取り崩すペースを緩やかにできます。その結果、老後資金をより長く維持する「資産寿命」を延ばすことにもつながります。
理由④健康面への影響
実際には生活費を補う目的で働く人が多い一方、仕事を通じて生きがいや人との交流が生まれ、社会とのつながりを保ちやすくなるという面もあります。
働くことで生活リズムが整い、外出する機会も増えるため、健康維持に良い影響を与える可能性があります。
結果として、医療費や介護費の増加を抑えることにもつながる可能性があり、その間接的な効果も決して小さくありません。
9. 健康状態が家計を分ける分岐点にも?
75歳を過ぎると、年齢だけでは暮らしの実態を判断しにくくなります。例えば同じ夫婦世帯でも、以下の状況によって家計の構造は大きく異なります。
- 夫婦ともに自立して生活している世帯
- どちらか一方が要介護状態にある世帯
- 配偶者を亡くし、実質的に単身に近い生活を送る世帯
健康状態が家計を分ける大きな分岐点となり、介護が必要になれば医療費や外部サービス費など新たな負担が発生します。
また、実質的に単身生活になった場合でも、住居費や光熱費は想定ほど下がらず、かえって家計負担が重くなるケースもあります。
10. 【75歳以上 後期高齢シニア】1割・2割・3割はどう決まる?医療費負担割合の仕組み
75歳になると、すべての人が後期高齢者医療制度へ加入します。この制度では、前年の所得に応じて医療機関で支払う自己負担割合が決まります。
基本となる自己負担割合は1割ですが、医療費の増加に対応するため、2022年10月からは一定以上の所得がある人を対象に2割負担が導入されました。
10.1 負担割合と判定基準
- 1割:現役並み所得者、2割該当者に該当しない方
- 2割:一定以上の所得がある人:下記1、2の両方に該当する場合
- 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の人がいる
- 同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。(1人の場合は200万円以上、2人以上の場合は合計320万円以上)
- 3割:現役並み所得者
- 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上のかたがいる場合(注)一定の基準・要件を満たす場合、窓口負担割合が1割又は2割になるケースがある
なお、自己負担増を緩和する特例措置は2025年9月末で終了しており、今後は2割負担となる人が増える可能性があります。
医療費の自己負担が増えれば、その分だけ貯蓄を取り崩すスピードも速くなります。老後資金を長持ちさせるためにも、自分がどの負担区分に該当するのかを定期的に確認しておくことが大切です。
11. 【75歳以上 後期高齢シニア】高額療養費制度はどこまで使える?自己負担額の仕組み
後期高齢期になると医療費が増えることへの不安も大きくなります。その負担を軽減するための制度が「高額療養費制度」です。
入院や手術などで医療費が高額になった場合でも、一定額を超えた自己負担分は後から払い戻される仕組みとなっており、急な医療費への備えとして重要な制度です。内容を理解しておくことで、医療費に対する不安も具体的に考えやすくなります。
11.1 自己負担には上限がある仕組み
高額療養費制度では、1カ月に支払う医療費について、所得区分ごとに自己負担限度額が定められています。
以下は70歳以上を対象とした自己負担限度額です。
例えば、一般的な所得水準の後期高齢者(住民税課税世帯)であれば、自己負担額はおおむね数万円程度に抑えられます。仮に医療費総額が数十万円になった場合でも、実際の支払いは上限額までとなります。
この制度により、高額な医療費が家計へ与える影響は一定程度抑えられる仕組みとなっています。
11.2 所得によって負担額は変わる
自己負担の上限額は一律ではなく、世帯の所得状況によって細かく区分されています。
- 低所得世帯(非課税世帯):より低い上限額が設定
- 一般所得世帯:標準的な上限額
- 現役並み所得世帯:上限額は高め
このように所得に応じた仕組みとなっているため、自分がどの区分に該当するかを確認しておくことが重要です。
11.3 入院だけでなく通院にも適用される
高額療養費制度は入院や手術だけが対象ではありません。外来診療や継続的な通院についても対象となります。
後期高齢期には慢性疾患などで長期間通院や服薬を続ける人も多く、医療費が毎月積み重なりやすくなります。そのような場合でも、一定額を超えた分は高額療養費制度の対象となるため、継続的な医療費負担を軽減できます。
11.4 「すべてが対象」ではない点に注意
一方で、高額療養費制度ですべての支出が補償されるわけではありません。対象となるのは保険診療の範囲内であり、次のような費用は原則として対象外です。
- 入院時の食事代
- 差額ベッド代
- 先進医療にかかる一部費用
そのため、制度でカバーされない費用も含めて医療費全体を考えておく必要があります。
11.5 医療費は「備えられる支出」として捉える
高齢期の医療費は不安を感じやすい支出ですが、高額療養費制度によって自己負担額には上限が設けられています。そのため、完全に予測できない支出というわけではありません。
大切なのは、「どれくらいかかるかわからない」と漠然と心配するのではなく、公的制度を踏まえて実際の自己負担額を把握しておくことです。
そうすることで老後資金の見通しも立てやすくなり、将来の家計設計にも役立てることができるでしょう。
12. まとめにかえて|長寿時代を見据えた家計管理のポイント
後期高齢シニア夫婦の多くは、年金収入に加え、貯蓄を取り崩しながら生活しているのが実態です。
長い老後を安心して過ごすためには、「いくら資産があるか」だけでなく「その資産でどれだけ長く生活を支えられるか」という資産寿命の意識が欠かせません。
現在の家計状況を正しく把握し、公的制度を上手に活用しながら、無理のない範囲で就労や資産管理を続けていくことが、これからの時代の重要な家計防衛策となるでしょう。
12.1 【今日からできる】長寿時代を安心して過ごすための家計チェックリスト
- 直近3カ月の通帳確認: 年金振込額と実際の口座引き落とし額(固定費)の差額を把握する
- 医療費の事前準備: 「高額療養費制度」の申請手順を確認しておく
- 住宅修繕費の別枠確保: 生活費とは別に、50万〜100万円程度の「緊急予備資金」を確保できているか確認する
参考資料
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 総務省「家計調査 家計収支編 2025年〔二人以上の世帯〕」(第3-2表)
- 総務省統計局「家計調査 用語の解説」
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書 第2節 高齢期の暮らしの動向」
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書〈特集①〉高齢者の経済生活をめぐる動向について」
- 生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」
- 厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査 貯蓄・負債編 2025年 〔二人以上の世帯〕」(第8-10表)
- 政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」








