4. 株価見直しの可能性と投資家としての視点
では、この「株価が織り込んだネガティブな懸念」と「決算が示すポジティブな実態」のギャップを、投資家はどのように捉えるべきでしょうか。
泉田氏は、現在の株式市場の評価について次のように分析します。
「株価が先にAIのインパクトをネガティブな側面だけ織り込んだ。ただ実態的には利益が増えてくるってなると、売りすぎだっていう風に思って買い戻す可能性も全然ある」
もちろん、長期的な視点に立てば、顧客企業自身がAIを使いこなすようになり、SIerへの発注自体が減少していくというシナリオ(真のSIerの死)が訪れる可能性はゼロではありません。
AIによるプロジェクト単価の下落スピードと、AI活用による利益率向上のスピード、どちらが勝つのかは今後の重要なウォッチポイントになります。
しかし、泉田氏はこのように見方が分かれる「過渡期」こそが、投資家にとってのチャンスであると語ります。
「課題にネガティブになってるんだったら買いのチャンスだし、課題にポジティブになってなったら売りのチャンスだから。株価が動いてる方が投資機会多いっていうのは一般的に言えますね」
ニュースや市場のムードだけで判断するのではなく、決算書という「事実」に基づいて企業の実態を正確に把握することで、市場の過剰反応(売りすぎ・買いすぎ)を見抜き、有利な投資判断を下すことができるのです。
5. ラピダス出資から読み解く「ニュースの見極め方」
動画の後半では、富士通のAI戦略に関連して、国産の最先端半導体メーカー「ラピダス」への出資というニュースにも触れられました。
ラピダスは、台湾のTSMCなどに依存している半導体製造を国内に回帰させるための「国策」とも言えるプロジェクトです。
インタビュワーが「国策に売りなしという格言もあるし、富士通にとって大きな追い風になるのでは」と期待を寄せると、泉田氏は機関投資家としての冷静な視点を提供します。
泉田氏は、かつて日本の電機メーカー(東芝・ソニー)とIBMが共同開発した高性能CPU「Cell」の歴史を引き合いに出します。
Cellは非常に優れたチップでしたが、最終的に搭載されたのは数万円のゲーム機(プレイステーション)でした。一方、ライバルのインテルは10万円以上するパソコン向けにチップを供給し続けました。
結果として、最終製品の単価が高く、裾野が広いビジネスを展開したインテル陣営が市場を制することになりました。
この歴史的教訓から、泉田氏は半導体ビジネスの本質を次のように総括します。
「ちゃんとその最終製品が強いと、その関連する部品メーカーも強くなると構造がある。その構造を理解しないで『このチップすごいから勝てる!』みたいな発想はちょっと安直かな」
富士通がラピダスに最先端のAIチップを発注したとしても、そのチップを使って「どのようなサービスや最終製品を生み出すのか」、そして「その製品は世界市場で戦えるだけの強さと拡張性を持っているのか」が見えなければ、業績への本当のインパクトは測れません。
「国策だから」「AIの最先端だから」というニュースの表面的な響きに踊らされるのではなく、ビジネスの構造やサプライチェーン全体を見渡して評価することが、投資家には求められているのです。
【動画で解説】【富士通】「市場の懸念」と「実態」のギャップ
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日