10日、個人投資家を対象としたソフトバンクグループ(SBG)のハイブリッド債が4.97%で条件決定しました。

「利回りが高くて気になっているけれど、普通の社債と何が違うの?」「リスクは高くない?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、債券のベテラン記者が今回のソフトバンクグループ新発債の条件から、他社との比較、さらに「ステップアップ条項」の意図や投資前に絶対に知っておくべき「3つの注意点」までをわかりやすく解説します。

1. ソフトバンクグループ個人向け新発債の発行要項

まずは、今回発行される債券の基本的な条件を確認しましょう。

目を引くのは、やはりその高い利回りと、4,180億円という非常に大きな発行規模です。

しかし、名称に「劣後特約付」や「利払繰延」といった見慣れない言葉が並んでいる点に注意が必要です。

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新発債の発行要項

出所:各種資料より筆者作成

1.1 そもそも「劣後債(ハイブリッド)」とは?今回の特徴とステップアップ条項

今回の債券は、一般的な「普通社債」ではなく「劣後債(ハイブリッド)」と呼ばれる少し特殊な仕組みを持っています。

ハイブリッド債(劣後特約付社債)とは、負債(社債)と資本(株式)の両方の性質を併せ持つ証券のことです

会計上は社債ですが、一般的な普通社債と比べて返済順位が低く設定されているほか、満期が超長期に設定されていたり、利息の支払いを任意で先送りできたりする特殊な条件がついています

企業側は借金でありながら格付機関から「資本」の一部として認定されるメリットがあり 、投資家はその複雑なリスクを引き受ける代償(プレミアム)として高い金利を受け取れる仕組みとなっています。

ハイブリッド債が分かりにくいという方のために、ワインでたとえてみます。ハイブリッド債は、ワインで言うといわば「ロゼワイン」のようなものです。

  • 赤ワイン(株式/エクイティ):味わいが深くダイナミックでリターンも大きいですが、少しクセ(変動リスク)も強いです
  • 白ワイン(普通社債/シニア債):すっきりしていて手堅く、ベースとして安定しています(リスクが低い)
  • ロゼワイン(劣後債/メザニン):赤と白のまさに「中間(ハイブリッド)」。普通社債(白)のような安定した利息を得つつ、株式(赤)に近いリスクを少しだけ引き受けることで、味わい(利回り)を深めています

ロゼワインですから、普通の白ワインよりも高い利回り(深い味わい)を楽しめるのが魅力です。

「白ワイン(社債)では物足りないけれど、株式(赤ワイン)ほどの刺激は求めていない」という方にぴったりの投資商品です。

1.2 なぜ実質「5年債」なのか?(ステップアップ条項の意図)

この債券の最終的な満期は35年後(2061年)に設定されていますが、5年後(2031年)以降の利払日に、ソフトバンクグループの判断で全額を返済できる権利(期限前償還条項)が付いています 。

ここで重要になるのが「ステップアップ条項」です。もし5年後に早期償還を行わず債券を存続させた場合、それ以降の金利は「1年国債金利+当初の上乗せ幅」に加え、さらに0.25%が追加で上乗せされる(ステップアップする)というルールが盛り込まれています。

なぜこのような条項が盛り込まれているのでしょうか?

それは、発行体(ソフトバンクグループ)に対する「早期償還への強いプレッシャー(ペナルティ)」として機能させるためです。5年後に返済を見送ると、発行体は通常よりも高い金利を支払い続けなければならず、財務的な負担が重くなります。

そのため、「5年経ったら、わざわざ高い追加金利を払うよりも、早期償還して新しい債券で資金を調達し直した方が合理的だ」と発行体に判断させる設計になっているのです。これが、期間35年の債券が市場で「実質的な5年債」として扱われる最大の理由です。

2. 他社の社債と比べてどう?直近の5年債と利回りを比較

「実質5年債」として考えた場合、この利回りは他の債券と比べてどれくらい高いのでしょうか。

直近で募集された期間が同じ(5年)他社の個人向け社債と比較してみましょう。

なお、利回りはいずれも税引き前の水準です。

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先行した社債の例

出所:各種資料より筆者作成

ソフトバンクグループの今回の債券は4.97%ですから、先行銘柄対比で2.5倍以上の利回りと群を抜いて高い水準です。

ここで注目したいのが「格付け(信用力)」の違いです。

名鉄や三菱HCキャピタルなどが「A+」や「AA」といった高い格付けを獲得しているのに対し、今回のソフトバンクG債は「BBB+」となっています。

これは同社自身の事業構造等による信用力評価の違いに加え、通常の普通社債(白ワイン)と劣後債(ロゼワイン)という「債券の種類が違う」こともあって、他社の手堅い普通社債と比べて3~5段階(ノッチ)低い格付けとなっているのです。

つまり、この突出して高い利回りは、「劣後債」特有のリスクを引き受ける対価(金利の上乗せ)であることが、格付けの違いからもはっきりとわかります。

3. 過去のソフトバンクG社債との比較と、今回の「借り換え」の背景

なぜソフトバンクグループは、高い金利を払ってまで今回この劣後債を発行するのでしょうか。

その主な目的は「過去の債券の借り換え」です。同社は2021年6月に「第5回ハイブリッド債」を発行しています。

この時の当初利率は「年2.75%」でした。この第5回債が2026年6月に実質的な満期(5年後の初回任意償還日)を迎えるため、投資家に元本を返すための資金を、今回の第8回債を発行して新たに集め直す(借り換える)というわけです。

当時に比べると、今回の新発債は利回りが跳ね上がっていますが、2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除するなどで、ベースとなる国債利回りが大きく上昇したためです。借り換え対象の既発債の発行要項

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出所:各種資料より筆者作成


また、同社が直近で発行した個人向け劣後債として、2023年4月発行の「第6回ハイブリッド債」があります。

この時の当初利率は「4.75%」でした。今回の第8回債の4.97%は、この第6回債より0.22%高い利回りとなっています。

ここで見逃せない重要なポイントが「格付けの変更(格上げ)」です。第6回債が発行された1年後の2024年4月、格付会社のJCRはソフトバンクグループの財務方針(LTVの保守的な管理)や、英アーム社の上場による資産の質の改善などを評価し、同社の長期発行体格付けを「A-」から「A」(当時の見通しは安定的)へと1ノッチ引き上げ、期限付劣後債の格付けも「BBB」から「BBB+」へと格上げされました(その後、2025年4月に見通しを安定的→ネガティブに変更)。

つまり、今回の第8回債は、第6回債の発行当時よりも会社としての信用力評価が一段階上がった「BBB+」の状態で発行されることになります 。過去の劣後債と同じような高い利回りでありながら、客観的な信用力は以前より少し手堅く評価されている点は、投資家にとってポジティブな材料と言えます。

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前回債の発行要項

出所:各種資料より筆者作成

4. 投資を検討する際の3つの注意点

高い利回りは大変魅力的ですが、投資を検討する際は、以下の3つの「劣後債特有のリスク」を必ず理解しておきましょう。

4.1 普通社債に比べて返済順位が低い(劣後特約)

万が一、ソフトバンクグループに関し清算手続や破産手続などが開始された場合、銀行からの借り入れや「普通社債」の保有者への返済が優先されます。

今回の「劣後債」への返済は文字通り後回し(劣後)になるため、すべての優先する債務が全額支払われない限り、元本の全部または一部が戻ってこないリスクが通常の社債よりも高くなっています。

4.2 利息の支払いが先送りされるケースがある(利払繰延条項) 

発行体の任意の裁量によって、事前の通知により利息の支払いの全部または一部が一時的にストップ(繰り延べ)される可能性があります。

毎期必ず予定通りに利息がもらえるわけではない点に注意が必要です(※ただし繰り延べられた利息には追加利息が付与されます)。

この「停止」は、基本的には支払時期が「繰り延べ(後回し)」になる仕組みであり、後回しにされた期間分も追加で利息が計算されます。

ただし、目論見書には「未払金額の全部の支払を受けることができない可能性」についても明記されており、発行体の業績等によっては、最悪の場合、繰り延べられた利息の一部または全部が最終的に支払われない(消滅する)リスクも潜んでいる点には十分な注意が必要です。
 

4.3 最長35年間、資金が拘束される可能性がある(延長リスク)

前述のステップアップ条項があるため実質的には「5年で期限前償還される」のが一般的ですが、これはあくまで「発行体の選択(権利)」です。

大幅な金利上昇や経営環境の変化などでソフトバンクグループが任意償還を行わないと判断すれば、5年後に元本が返ってこず、最長2061年(35年後)の満期償還日まで資金が引き出せない(換金しづらい)リスクがあります。

5. まとめ:高利回りの裏にある仕組みとリスクの理解を

ソフトバンクグループの第8回ハイブリッド債は、一般的な普通社債を上回る高い利回りが設定されています。

しかし、その金利の上乗せ分は、「返済順位の低さ」や「利払い先送り・最長35年の資金拘束リスク」といった、複雑な条件を引き受けることに対する対価にほかなりません。

加えて、満期(あるいは実質的な5年後の早期償還日)まで持ち切らずに途中で売却しようとした場合、市場金利の動向や発行体の信用状況によっては、債券価格が下落し元本割れとなるリスクも存在します。

「当面使う予定のない余裕資金か」「万が一の元本割れリスクや、5年で戻ってこないリスクを許容できるか」など、本債券の特殊な仕組みとご自身の投資スタンスを冷静に照らし合わせることが求められます。

購入を検討される際は、証券会社から交付される目論見書等で詳細な条件を必ず確認し、最終的な投資判断はご自身の責任で行うことが重要です。

参考資料

※免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の債券の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
  • 募集要項の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください