2. 関税よりも重い?巨額の研究開発費(R&D)の正体
企業の利益がなぜ増えたのか、あるいは減ったのかを分析する際、プロの投資家が必ずチェックするのが「営業利益の変動要因」を示したウォーターフォールチャート(階段状のグラフ)です。
泉田氏はこのチャートに注目し、利益を押し下げた要因を一つずつ確認していきました。
昨今、製造業の業績において大きな話題となるのが「関税」の影響です。ヤマハ発動機においても、関税の影響は決して小さくありませんでした。
しかし、泉田氏がそれ以上に強い関心を示したのが「研究開発費(R&D)」の存在感です。2025年12月期において、研究開発費の増加分は「マイナス247億円」として営業利益を大きく押し下げていました。
インタビュワーが、関税の影響よりも研究開発費によるマイナスの方が大きいことに驚きを示すと、泉田氏は次のように語りました。
「当然ながら成長するための研究開発だと思うので、そこにお金をかけているということ自体は、研究する種があるということでポジティブです。ただここまでお金かけなきゃいけないものがあるのかなとは思ってしまう」
泉田氏が指摘するように、研究開発費は将来の収益を生み出すための「先行投資」です。しかし、247億円という規模は、企業の利益水準から見ても非常に大きな金額です。
会社側が開示している内訳を見ると、人件費の増加が55億円、その他の費用が192億円となっており、単なる人員増ではなく、具体的な研究開発プロジェクトに多額の資金が投じられていることがうかがえます。
では、ヤマハ発動機は一体何にこれほどのお金をかけているのでしょうか。
泉田氏によれば、決算説明会資料の中にはその具体的な中身について詳細な説明は見当たらなかったといいます。
そこで泉田氏は、機関投資家としての経験と現在の自動車・二輪業界のトレンドを踏まえ、一つの仮説を提示しました。
「今このヤマハ発動機は二輪事業がコアの事業なんだけども、そこも電動化の話などがある。乗り物のコンセプト自体もう1回見直さなきゃいけないみたいな話もあるので、そういったいろんなものに研究をしてお金がかかってるんじゃないかな」
【動画で解説】ヤマハ発動機、利益を押し下げる要因とは?
現在のモビリティ業界は、100年に1度と言われる大変革期にあります。
ガソリンエンジンから電動化(EV)へのシフト、自動運転技術、さらには環境対応など、乗り物のあり方そのものが根本から問われています。
ヤマハ発動機も例外ではなく、将来生き残るための次世代技術の確立に向けて、今は利益を削ってでも種まきをしなければならない時期にあると推測されます。
読者の皆さんが投資家としてこの企業を評価する際には、「今の利益が減っている」という表面的な事実だけでなく、「その巨額の投資から、将来どのような革新的なプロダクトが生み出されるのか」という視点を持つことが重要になるのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日