いよいよ今月(6月)から、プラス改定された今年度の年金支給が始まります。自分自身の年金額への関心が高まるなかで、まず押さえておきたいのが「実際にどれくらいの生活費が必要なのか」という視点です。
総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身・無職世帯における毎月の消費支出は14万8445円となっています。
一方で、税金や社会保険料を差し引いた可処分所得は約11万8465円にとどまり、平均的には毎月2万9980円の不足が生じている計算です。
この差額は、多くの場合、貯蓄の取り崩しによって補われています。つまり、年金収入だけで生活費を完全にカバーできているわけではないというのが実態です。
こうした収支のバランスから見えてくるのが、「月15万円前後」という一つの目安です。これはゆとりある生活というよりも、最低限の支出を維持するための現実的なラインといえるでしょう。
では、この水準に公的年金だけで届いている人はどれくらいいるのでしょうか。本記事では、年金の受給額分布に着目しながら、単身世帯の収入構造をより具体的に確認していきます。
1. 【年金制度の基本】国民年金と厚生年金による2階建て構造の仕組み
まずは、日本の年金制度についておさらいしていきます。
公的年金制度は、ベースとなる「国民年金(基礎年金)」と、上乗せ部分の「厚生年金」から成り立つため、「2階建て構造」と呼ばれています。
【1階部分】国民年金(基礎年金)
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:全員定額、ただし年度ごとに改定される(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付した場合、65歳以降で満額の老齢基礎年金(※2)を受給できる。未納期間分に応じて満額から差し引かれる
※1 国民年金保険料:2026年度月額は1万7920円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度月額は7万608円
【2階部分】厚生年金
- 加入対象:会社員や公務員、またパートなどで特定適用事業所(※3)に働き一定要件を満たす人が、国民年金に上乗せで加入
- 保険料:収入に応じて(上限あり)決定される(※4)
- 受給額:加入期間や納付済保険料により、個人差が出る
2階部分にあたる厚生年金は、主に会社員や公務員が加入する制度で、基礎となる国民年金に上乗せする形で成り立っています。両者は対象となる人や保険料の仕組み、さらには将来受け取る年金額の算出方法も異なっているのが特徴です。
こうした違いにより、老後に受け取る年金額は一律ではなく、これまでの働き方や収入水準、加入期間などによって個人差が生じます。
さらに、公的年金の給付水準は固定されたものではなく、物価や現役世代の賃金動向を踏まえて毎年度調整される仕組みとなっている点も押さえておきたいポイントです。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2. 【6月15日支給分より増額率適用】2026年度は「厚生年金+2.0%・国民年金+1.9%」
公的年金の支給額は、物価や現役世代の賃金の動きを反映しながら、毎年度見直しが行われます。
2026年度は、国民年金(基礎年金)が前年度比で1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられ、これで4年連続の増額改定となっています。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分 ※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
国民年金のみで受給する場合、満額(※3)でも月およそ7万円にとどまります。仮に繰り下げ受給(※4)して受給開始を75歳まで遅らせたとしても、増額後の水準は月13万円に届きません。
※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。
3. 【受給水準】厚生年金+基礎年金「月額15万円」に届く人はどのくらいいるのか?
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の男女全体の平均月額は「15万289円」です。
この金額には1階部分の国民年金(老齢基礎年金)も含まれており、一定の水準に見えるものの、実際の分布を見ると受給額には大きな幅があります。
受給額ごとの人数分布は以下のとおりです。
3.1 厚生年金の受給額ごとの受給権者数
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
月額15万円以上を受け取っている人は全体の半数に届かず、約49.8%にとどまります。さらに、そもそも厚生年金に加入していない人も含めて考えると、「年金だけで生活費をまかなえる層」は決して多数派ではないことが分かります。
4. 【老後単身世帯】年金以外の収入源はある?働きながら暮らしを支えるという選択
単身で老後を迎えた場合、収入の柱は公的年金が中心になりますが、それだけで毎月の生活費を安定的にまかなうのは簡単ではありません。
とくに支出が収入を上回る「小さな赤字」が続く状況では、貯蓄の取り崩しに頼るだけでなく、もう一つの収入源をどう確保するかが現実的な課題になります。
そこで近年、選択肢として広がっているのが「高齢期の就労」です。
4.1 高齢になっても働く人は確実に増えている
65歳以上の就業者数は増加傾向が続いており、70歳代でも働く人は珍しくなくなっています。
体力面への配慮が必要な年代ではあるものの、経験や専門性を活かせる分野では、70歳前後、あるいはそれ以上の年齢でも働き続ける例は珍しくありません。
背景には、健康寿命の延びに加え、人手不足による雇用機会の拡大があります。
単身世帯ではとくに、収入を一人で支える必要があるため、
- 年金だけでは不足する分を補う
- 生活費の一部を自分でまかなう
といった目的で就労を選ぶケースが増えています。
4.2 「月数万円」の収入が家計を安定させる
老後の就労は、現役時代のようにフルタイムで働く必要はありません。実際には、短時間勤務やパートなど、体力に合わせた働き方が主流です。
ここで重要なのは収入の“額”よりも“効果”です。
たとえば毎月2万〜5万円の収入があれば、
- 家計の赤字をほぼ解消できる
- 貯蓄の取り崩しペースを大きく抑えられる
といった影響があります。
長期的に見れば、この差は数百万円単位の資産残高の違いにつながる可能性もあります。
4.3 働き方の選択肢は広がっている
現在は高齢者向けの就労機会も多様化しています。
- 軽作業や清掃、施設管理などの定型業務
- 接客や販売補助などの短時間シフト
- シルバー人材センターを通じた地域の仕事
など、体力や希望に応じた働き方を選びやすい環境が整いつつあります。
また、「毎日働く」のではなく「週に数日だけ」という柔軟な働き方も一般的になっており、無理なく継続できる点も特徴です。
4.4 年金とのバランスを意識する
一方で、働く場合には年金との関係も意識しておく必要があります。
一定以上の給与収入があると、厚生年金の一部が支給停止となる「在職老齢年金制度」の対象になるためです。ただし近年は基準額が引き上げられており、以前よりも収入を得やすい環境に変わっています。
そのため、
- 収入を増やしすぎて年金が減る
- 逆に働き控えで収入機会を逃す
といった極端な状態を避け、「年金+就労収入」のバランスを取ることが現実的です。
4.5 老後の家計は「働き方」で変わる
単身世帯においては、収入源が限られるからこそ、「働くかどうか」が家計に与える影響は大きくなります。
年金だけに依存するのではなく、
- 少額でも継続的な収入を持つ
- 自分のペースで働き続ける
という選択は、老後の安心感を高める有効な手段の一つです。
これからの老後設計では、「いつまで働くか」ではなく、「どのように働き続けるか」という視点が、より重要になっていくといえるでしょう。
5. 【制度改正】年収106万円の壁撤廃と2025年改正法のポイント
こうした状況を踏まえ、近年は「働き方」と年金制度の関係にも見直しが進んでいます。2025年に成立した年金制度改正法では、いわゆる「年収106万円の壁」の見直しが盛り込まれました。
5.1 「年収106万円の壁」とは?
これまで短時間労働者は、一定の収入を超えると社会保険料の負担が発生するため、あえて働く時間を抑える「働き控え」が起きやすい構造となっていました。
また、社会保険の適用対象となる企業規模はこれまで段階的に拡大されてきて、2024年10月からは「51人以上」の事業所となっています。
今回の改正では、この要因となっていた賃金要件や企業規模要件が段階的に撤廃され、より柔軟に働ける環境が整えられていきます。
5.2 「社会保険の加入対象の拡大」短期労働者の加入要件の見直し
2025年7月現在、パートタイムなどで働く短時間労働者が社会保険に加入する要件は、以下の5つをすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 所定内賃金が月額8万8000円以上(賃金要件)
- 従業員数51人以上の企業で働いている(企業規模要件)
今回の改正により、このうち4の「賃金要件」と5の「企業規模要件」が撤廃されます。
今後は、収入を抑えるのではなく、無理のない範囲で働きながら年金を補うという選択が、これまで以上に現実的なものになっていくと考えられます。
6. 【まとめにかえて】老後資金のバランスをどう考えるか
老後の家計を考えるうえで重要なのは、「年金額の水準」だけでなく、「どのように収入を組み立てるか」という視点です。厚生年金は長く働くことで受給額を増やせる仕組みであり、現役期の働き方がそのまま老後の安定に直結します。
また、制度改正によって働き方の制約が緩和されつつある今、年金と就労を組み合わせるという選択肢は、より現実的で柔軟なものへと変わりつつあります。
将来の見通しを立てる際には、「ねんきんネット」などを活用して受給見込みを把握し、自身の生活水準に照らして不足が見込まれる部分をどう補うかを具体的に考えておくことが重要です。制度を正しく理解し、自分に合った形で活用していくことが、安定した老後生活への第一歩となるでしょう。






