「老後の生活は年金だけでまかなう」というのは、もはや過去の常識かもしれません。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によると、60歳代の二人以上世帯において、老後の資金源として「公的年金(75.0%)」に次いで「就業による収入」を挙げる人が42.5%に上ります。
単身世帯でも約3割(29.2%)が就労収入を得ており、現代のシニア世代の家計はまさに「年金+仕事」の両輪で支えられているのがリアルな姿です。
しかし、60歳以降は再雇用による減収や完全退職など、働き方と収入に大きな節目が訪れる時期でもあります。この変化の時期を支えるのが、公的年金や雇用保険に関連する様々な給付金です。
実はこれらの制度の多くは、受給資格を満たしていても自分自身で請求手続きを行わなければ1円も支給されない「申請主義」の仕組みになっていることをご存じでしょうか。
今回は、働き続けるシニアや年金生活者が「申請漏れ」で損をしないために、絶対に押さえておきたい5つの公的給付について詳しく解説します。
※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。
1. 黙っていていたら「1円も振り込まれない」公的なお金は「申請主義」が基本
公的年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)は、私たちの暮らしを支える大切なセーフティーネットです。
ただし、支給要件を満たしたら自動的に振り込まれるわけはありません。年金を受け取るためには「年金請求書」を提出して請求手続きをおこなう必要があります。
国や自治体による「手当」「給付金」「補助金」などの多くもまた、受け取るためには申請手続きが必要です。
申請期限や添付書類などのルールを守れなかった場合、本来受け取れるはずのお金が減額されたり、受け取れなくなってしまったりする可能性もあります。
公的な支援制度を必要に応じて確実に活用するためには、自分がどのような支援内容の対象となるかを理解し、手続きをしっかりおこなうことが大切です。
2. 【老齢年金への上乗せ】要件を満たしたら即申請したい「老齢年金関連」の給付2選
老齢年金を受給中のシニアが一定要件を満たす場合、通常の老齢年金に上乗せして受け取れるお金を「2種類」紹介します。
2.1 その1「加給年金」
加給年金は「年金の扶養手当(家族手当)」と例えられることがある制度です。
一定要件を満たした場合、老齢厚生年金を受給中の人が年下の配偶者や子どもを扶養する場合に年金に上乗せして受け取ることができます。
加給年金《支給要件》
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
それぞれ、上記で示したタイミングで、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合、年金に上乗せされます。
ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)、退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利がある場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金額は支給停止されます。
加給年金《2026年度の年金額》
「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
なお、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。
振替加算とは
加給年金は対象となる配偶者が65歳になると支給は終わります。ただしその配偶者が老齢基礎年金を受け取る場合、一定の要件を満たせば老齢基礎年金に「振替加算」されます。
2.2 その2「老齢年金生活者支援給付金」
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給する人が一定の所得要件を満たす場合に受け取れるお金です。「老齢」「障害」「遺族」それぞれに給付金があり、支給要件が設けられています。
ここでは「老齢年金生活者支援給付金」にフォーカスしていきます。
老齢年金生活者支援給付金の支給要件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
老齢年金生活者支援給付金の給付基準額
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。
この基準額をもとにして、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。
老齢年金生活者支援給付金の給付額の計算式
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
なお、保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
3. 【働き続けるシニア必見】給与の減少をカバーする「雇用保険関連」のお金3選
働き続けるシニアが気になる、就労に関連する給付金や手当についても見ていきます。
シニアの就労を支援する制度は整いつつありますが、一般的には60歳を境に収入が下がる傾向があります(※)。また、就職活動や就労継続が、若い頃のようにスムーズに進む人ばかりではないでしょう。
そこで、シニアが知っておきたい雇用保険に関連する手当や給付金についても「3種類」紹介します。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
3.1 その1:65歳未満がもらえる「再就職手当」
再就職手当は、早期の再就職を促進するための手当で、「失業~再就職」「失業~事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなります。
再就職手当【支給要件】
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
再就職手当【給付率】
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
なお、再就職手当を受け取り再就職先で6カ月以上雇用され、かつ再就職先での6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合は「就業促進定着手当」の対象となります。
3.2 その2:60歳以上65歳未満が対象「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の人が就労を続ける際、賃金が60歳到達時よりも減少した場合に支給される給付金です。
高年齢雇用継続給付【支給要件】
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳時到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
高年齢雇用継続給付【支給率】
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に留意しておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.3 その3:65歳以上が対象「高年齢求職者給付金」
高年齢求職者給付金は、65歳以上の人が失業した際に支給される給付金です。
高年齢求職者給付金【支給要件】
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
高年齢求職者給付金【いくらもらえる?】給付金額
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
なお、65歳未満が受け取る「失業手当」は4週間に一度ずつ失業認定を受けてから給付されるのに対し、この高年齢求職者給付金は一括で支給されます。
4. 【2025年法改正】「標準報酬月額」の上限引き上げで現役・シニアの年金はどう変わる?
2025年6月13日、国会で年金制度改正法が成立しました。今回の改正の見直しポイントには、働き盛りの現役世代の暮らしと関わり深い項目がいくつかあります。
今回はこのうち「保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ」について紹介します。
4.1 保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
厚生年金保険料や健康保険の保険料、年金額を計算する際には、月々の報酬と賞与を一定の幅で区切った「標準報酬月額」という基準額が用いられています。
2025年7月現在、標準報酬月額の上限は月65万円。月の収入が65万円を超えた場合でも、保険料や将来の年金額の計算に使われるのは上限の65万円までとなっています。いくら稼いでも保険料や年金額が「頭打ち」となるのです。
厚生労働省によると、現在会社員男性の約10%がこの上限に該当。賃金が上限を超えると保険料負担は相対的に軽くなりますが、老後に受け取る年金額も低くなります。
今回の改正では、この標準報酬月額の上限を段階的に「月65万円→75万円」へ引き上げることが盛り込まれました。
標準報酬月額の上限《引き上げイメージ》
- 2027年9月~:月68万円
- 2028年9月~:月71万円
- 2029年9月~:月75万円
これにより、高収入層の保険料負担は増えますが、これまでよりも現役時代の賃金に見合った年金を受給することが可能となります。
5. まとめにかえて
今回は、60歳代以降の暮らしを支えるための「申請が必要な5つの公的支援」について、最新の動向を交えて解説してきました。
冒頭のデータでも触れた通り、今のシニア世代は「年金を受け取りながら(あるいは受給を待ちながら)働く」という、年金と仕事の両輪で家計を回すスタイルが定着しつつあります。
だからこそ、「加給年金」や「老齢年金生活者支援給付金」といった年金への上乗せ制度に加えて、働くシニアの収入減を補う「再就職手当」や「高年齢雇用継続給付」などの雇用保険制度が、心強いセーフティーネットとして大きな意味を持ちます。
2025年の制度改正により、高所得層の将来の年金受給額を増やす取り組みが始まるなど、公的年金を取り巻く環境は時代に合わせてアップデートされています。
こうした複雑な制度をすべて把握するのは容易ではありませんが、まずは「今の自分の働き方や家族構成で、もらえるお金はないか」とアンテナを張ることが自衛の第一歩となります。
「まだまだ元気に働くぞ」という時期こそ、ねんきんネットでの定期的な確認や、最寄りの年金事務所・ハローワークへの相談を積極的に活用し、ご自身が受け取れるはずの権利を確実に形にしていきましょう。
参考資料
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
マネー編集部社会保障班