3. 花王のキャッシュフローから読み解く「配当の持続性」
では、花王が現在行っている手厚い配当は、今後も持続可能なのでしょうか。
ネット上などでは「配当を出しすぎではないか」と懸念する声もあるようです。これについて泉田氏は、決算短信の「キャッシュフロー計算書(お金の出入りを示した表)」を読み解くことで、その実態を解説しています。
泉田氏はまず、「業の営業活動によって生み出される現金「営業キャッシュフロー」に注目して解説します。「この会社は普通にビジネスしてると、ざっくり2000億円は稼げる会社です」
花王は毎年、約2000億円という巨額の現金を安定して生み出しています。
ここから、工場のメンテナンスや新設などにかかる「投資キャッシュフロー(約700億円)」を差し引くと、約1300億円が残ります。この残ったお金のことを「フリーキャッシュフロー」と呼び、企業が借金の返済や株主への配当などに自由に使える資金となります。
花王の年間配当金の支払い総額は約700億円です。
フリーキャッシュフローが約1300億円あるため、配当を支払う余力は十分にあり、泉田氏も「普通にフリーキャッシュフローから配当払おうと思ったら全然払える」と太鼓判を押しています。
日本のビジネスが安定している限り、現在の配当水準を維持することは難しくないと言えるでしょう。
しかし、2025年12月期には、この安定したキャッシュフローの構造に一つの大きな動きがありました。花王は700億円の配当に加えて、800億円の自社株買いを実施したのです。
配当(700億円)と自社株買い(800億円)を合わせると、株主への還元総額は1500億円に達します。
これは、会社が自由に使える現金であるフリーキャッシュフロー(約1300億円)を上回る金額です。不足分は、手元にある現金を切り崩して充当したことになります。
株主にとって、手厚い還元は一見すると非常に喜ばしいことです。しかし、機関投資家の視点を持つ泉田氏は、この行動が株式市場に与える「裏のメッセージ」を鋭く指摘します。
「ここはやっぱり『成長する機会がもうないんだね』っていう風に、株主には見透かされている気がします」
企業が手元の現金を切り崩してまで株主に還元するということは、投資家から見れば「自社で投資して事業を拡大するよりも、株主に現金を返した方がマシだと経営陣が判断した」と受け取られかねません。
これが、大盤振る舞いの株主還元を行っても株価が力強く上昇しない最大の理由なのです。
【動画で解説】花王の「配当性向」は約59%、株価はなぜあがらない?
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日