2024年に開始した新NISA制度をきっかけに、資産運用を始める人が急増しています。
その中で、積立投資の投資先として圧倒的な人気を集めているのが「S&P500」と「オルカン」という2つの投資信託です。代表銘柄である「eMAXIS Slim米国株式」と「eMAXIS Slim 全世界株式」は、ともに資産総額が10兆円を突破し、積立投資を検討したことがある人であれば必ず知っている銘柄と言えるでしょう。
2026年3月時点の純資産総額(オルカン・S&P500)1/3
出所:三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」および「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」ファンド情報を参考に筆者作成
圧倒的な人気と実績を持つこれら2つの銘柄を知ると、両方に投資することで「効率よく利益を得られるのでは?」「さらに安全性が高まるはず」と考えてしまいがちです。しかし、結論から言うと、この2つの銘柄の「両方持ち」は、多くの場合あまり意味がない、もしくは望ましくないと言えます。
本記事では、なぜ両方持ちが推奨されないのか、新NISAにおいて米国株に偏るリスクと、どのような場合なら両方持ちが「アリ」になるのか、その判断基準を詳しく解説します。
1. S&P500の特徴
「S&P500」とは、米国の株式市場を代表する大型企業500社の株価を基に算出される株価指数(インデックス)です。
この指数に連動する運用成果を目指す投資信託(インデックスファンド)が、一般的に「S&P500」と呼ばれて親しまれています。指数の構成銘柄に連動するように組み入れられるため、機械的に米国の代表的な企業へ投資できるのが特徴です。
S&P500に組み入れられるためには、利益や時価総額などに厳格な基準をクリアする必要があり、一定期間ごとに銘柄の入れ替えが行われます。そのため、常にその時の経済を代表する競争力の高い企業が選ばれて構成されていると言えます。
代表的な投資信託の商品としては「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」などが挙げられます。
「世界経済の中心であり続けるアメリカの成長力に期待し、安定的な投資を目指したい人」にとって第一候補となる投資先と言えるでしょう。
2. オルカン(全世界株式)の特徴
一方の「オルカン」とは、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の愛称です。このファンドは、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」という指数に連動した値動きを目指します。
オルカンに投資を行う最大のメリットは、日本や米国などの先進国から、インドや中国といった新興国まで、全世界の様々な業種の企業に、一気に投資ができることです。代表的な銘柄としては「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」があります。
ただし、ここで注意しなければならない重要なポイントがあります。全世界の企業を組み入れているものの、市場の規模に応じて投資割合が調整されるため、現在は組み入れられている株式の8割以上を先進国が占め、さらに「米国企業株式」が全体の約6割以上と大きな比率を占めています。
3. 両方持ちは「あまり意味がない」
ここまで解説したS&P500とオルカンの特徴を踏まえて、NISAでオルカンとS&P500の2本で積立を行うことの検討をするとすれば、「安定投資を目指す人には推奨できない」という結論になります。ここからは、その理由とリスクについて解説します。
3.1 分散投資の効果がほとんどない
まず、2つの銘柄に投資することで「分散投資」の効果を狙うのであれば、ほとんど効果がありません。S&P500は米国の上位企業の株価を網羅した指数であり、それだけで業種における「分散」は完成しています。しかし、指標となるS&P500は対象が米国企業のみであるため「国」としての分散はできていません。
一方で、オルカンは全世界株式を対象にしているものの、実情としてはその6割以上が米国株式です。組み入れられている企業にはS&P500と重複しているものも多く、両方を購入したとしても、「米国株式への上乗せ」といった形になり、「分散」の効果はあまりないと言えます。
分散投資を目的とするのであれば、米国以外の株式(日本や欧州、新興国など)や債券を組み入れた投資信託を購入するなどの、別の方法を検討する必要があります。
3.2 米国株への極端な集中投資になるリスク
オルカンとS&P500を両方買った場合に生じる一番のリスクは、自分でも気づかないうちに「米国株への集中投資」になってしまう点です。
先ほど説明した通り、現状ではオルカンの組み入れ銘柄の約60%以上が米国株です。つまり、仮にオルカンとS&P500を半分ずつ持った場合、保有資産の約80%以上が米国株ということになります。2つの銘柄に分けて投資していることで「分散投資しているつもり」でいると、気がつけば米国銘柄に投資先が極端に偏っているということになってしまいます。
投資先が一つの国に集中していると、過去のリーマンショックのように米国市場全体が暴落した時に、保有資産のすべてが連動して大きく下落してしまいます。さらに、ドル円の為替変動の影響を極めて強く受けるようになり、円高が進むと円換算で換金した際の資産価値が大きく下がってしまうという危険性があります。
「長く投資を続けることで安定して資産を育てる」という、ある程度の守りの投資を行いたいのであれば、投資先の国はできる限り多く分ける方が望ましいため、中身が重複する両方持ちはあまり推奨できないという結論になります。
3.3 「両方持ち」をしても良い人とは?
とはいえ、2つの銘柄を併せ持つことが、どのような場合でも推奨できないわけではありません。現在のオルカンが「米国株式メインである」ということをきちんと認識した上で、追加投資先として検討をするのであれば、2本立ての投資も有効である場合もあります。
例えば、すでに日本株や欧州株など複数の国・地域への投資を行っており、自身の資産全体のバランスを見渡した上で、米国株式に対する投資を追加したいと考えた場合などが考えられます。
「基本は米国株の成長に期待して比率を高めつつ、オルカンに含まれる日本や欧州など他地域の成長も少しは取り入れておきたい」といった明確な意図があるのなら、両方持ちも一つの選択肢になるでしょう。
4. おわりに
今回は、積立投資で絶大な人気を誇る「S&P500」と「オルカン」について、両方を持つことで起こりうることやその注意点をお伝えしました。もし両方への投資を検討するのであれば、オルカンの中身の多くが米国企業の株式であることを理解した上で、「あえて米国投資の比率を高めたい」といった明確な目的を持つことが大切です。
「みんなが買っているからとりあえず」と2つを選んでしまうと、気がつけば米国への集中投資になり、リスクを大きくしてしまう可能性があります。
投資において重要なのは、商品の特徴やリスクを自分自身でしっかり納得して選ぶことです。周りの声に惑わされず、ご自身のライフプランに合った最適な投資先を見つけてください。
参考資料
- 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」および「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」ファンド情報
- 金融庁「NISAを利用する皆さまへ」
- 金融庁「資産形成の基本」
斎藤 彩菜