3月は定年退職や再雇用、新年度の働き方を見直すタイミングであり、シニア世代にとっても収入の再設計が重要な時期です。

近年は物価上昇の影響もあり、「年金だけでは生活が不安」「少しでも収入を増やしたい」と感じる人が増えています。

こうした中で注目したいのが、60歳・65歳以上を対象とした公的な給付金や手当です。

年金に上乗せされる給付や、働くシニアを支える雇用保険の制度など、活用できる支援は複数存在します。

本記事では、代表的な5つの給付制度について、対象条件や特徴を整理しながら、受給のポイントをわかりやすく解説します。

※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。

1. 「シニア向け公的給付」とは

公的年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)は、私たちの生活を支える重要なセーフティーネットです。

しかし、支給要件を満たしていても自動的に振り込まれるわけではありません。

年金を受け取るためには「年金請求書」を提出し、請求手続きを行う必要があります。

また、国や自治体が実施している「手当」「給付金」「補助金」などの制度も、多くの場合は申請を行わなければ受け取ることができません。

申請期限や必要書類などの条件を満たさない場合、本来受け取れるはずの金額が減額されたり、受給できなくなる可能性もあります。

公的な支援制度を適切に活用するためには、自分がどの制度の対象になるのかを把握し、必要な手続きをきちんと行うことが重要です。

2. 「老齢年金に上乗せされる」可能性のある給付制度は何がある?

老齢年金を受給しているシニアが一定の要件を満たした場合、通常の老齢年金に上乗せして受け取ることができるお金を「2種類」紹介します。

2.1 給付制度1:「加給年金」

加給年金は、「年金の扶養手当(家族手当)」のような制度と例えられることがあります。

一定の要件を満たすと、老齢厚生年金を受給している人が年下の配偶者や子どもを扶養している場合に、年金に上乗せして受け取ることができます。

加給年金《支給要件》

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

それぞれ、上記で示したタイミングにおいて、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの子、もしくは1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合には、年金に上乗せして支給されます。

ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っている場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合には、配偶者加給年金額は支給停止となります。

加給年金《2025年度の年金額》

一例として、「加給年金」の年金額(2025年度の年額)は以下のとおりです。

  • 配偶者:23万9300円
  • 1人目・2人目の子:各23万9300円
  • 3人目以降の子:各7万9800円

なお、老齢厚生年金を受給している人の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額には3万5400円~17万6600円の特別加算が加えられます。

また、加給年金は対象となる配偶者が65歳になると支給が終了します。

ただし、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る場合には、一定の要件を満たすことで「振替加算」が支給されます。

2.2 給付制度2:「老齢年金生活者支援給付金」

年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給している人のうち、一定の所得要件を満たす場合に支給される給付金です。

「老齢」「障害」「遺族」のそれぞれに対応する給付金があり、支給には個別の要件が設けられています。

ここでは、「老齢年金生活者支援給付金」に焦点を当てて解説します。

老齢年金生活者支援給付金の支給要件

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/8

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度の老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度から3.2%引き上げられました。

この基準額をもとにして、保険料の納付状況などを踏まえて給付額が算出されます(下記①と②の合計額)。

老齢年金生活者支援給付金の給付額の計算式

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1551円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

たとえば、国民年金保険料を全期間(40年間)納付した場合、2026年度は「月額5620円=年額6万7440円」の給付金が支給されます(昭和16年4月1日生まれまでの人は計算方法が異なります)。

なお、保険料免除期間に掛ける金額は、毎年度の老齢基礎年金額の改定に応じて見直されます。

3. 「働くシニア・再就職時に活用できる雇用保険」の給付制度は何がある?

働き続けるシニアにとって気になる就労関係の給付金や手当についても確認していきましょう。

シニアの就労を後押しする制度は整備されつつありますが、一般的には60歳を境に収入が下がる傾向があるとされています(※)。

また、就職活動や働き続けることが、若い頃のように順調に進むとは限りません。

そこで、シニアが把握しておきたい雇用保険に関する手当や給付金を「3種類」紹介します。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 給付制度1:65歳未満がもらえる「再就職手当」

再就職手当は、早期の再就職を促すことを目的とした手当で、「失業から再就職」または「失業から事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなる仕組みです。

再就職手当【支給要件】

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

再就職手当【給付率】

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/8

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

また、再就職手当を受け取って再就職し、その職場で6カ月以上勤務したうえで、再就職後6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合には、「就業促進定着手当」の支給対象となります。

3.2 給付制度2:60歳以上65歳未満が対象「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の人が働き続ける際、賃金が60歳時点より下がった場合に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付【支給要件】

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

高年齢雇用継続給付【支給率】

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/8

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

老齢年金を受給しながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合には、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に注意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

3.3 給付制度3:65歳以上が対象「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上の人が失業した場合に支給される給付金です。

高年齢求職者給付金【支給要件】

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

高年齢求職者給付金【いくらもらえる?】給付金額

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

65歳未満の人が受け取る「失業手当」は、4週間ごとに失業認定を受けてから支給されますが、高年齢求職者給付金は一括で支払われる点が特徴です。

4. 【目前に迫る年金ルール変更】2026年4月から何が変わる?シニアの働き方を左右する「在職老齢年金」の仕組み

いよいよ来月、2026年4月から新たな年金ルールがスタートします。

これは、多様化する現代の働き方やライフスタイルにフィットする制度を目指し、2025年6月13日に国会で成立した「年金制度改革関連法」に基づくものです。

本改正には、パートなどで働く人の社会保険加入対象の拡大(いわゆる「106万円の壁」の撤廃が関連)や、遺族年金の見直し(遺族厚生年金の男女差解消、子どもの遺族基礎年金受給の要件緩和)など、私たちの生活に直結する注目ポイントがいくつか存在します。

今回はその中でも、働くシニア世代への影響が最も大きい「在職老齢年金制度の見直し」について、いちはやく確認しておきましょう。

4.1 気になる「在職老齢年金制度」の見直しとは?

そもそも在職老齢年金とは、60歳以降で老齢厚生年金を受給しながら働いている場合、年金額(※)と報酬(給与・賞与)の合計が「ある基準額」を超過すると、年金の一部または全額が支給停止となってしまう制度のことです。
(※)老齢基礎年金は対象外となり、全額支給されます。

【注目】年金が全額支給される基準額が大幅アップ!

年金がカットされるボーダーラインとなる「支給停止調整額」は、これまで年度ごとに少しずつ見直しがおこなわれてきました。

  • 2022年度:47万円
  • 2023年度:48万円
  • 2024年度:50万円
  • 2025年度:51万円
  • 2026年度:62万円

今回の改正(2026年4月から適用)における最大の変更点は、この基準額が51万円(2025年度金額)から「62万円」へと一気に大幅な引き上げが行われることです。

厚生労働省の試算データによると、この引き上げによって、新たに約20万人もの人が年金を全額受給できるようになるとされています。

これまでは、基準額を超えて年金が減額されることを気にして「働き控え」を選択するシニア世代も少なくありませんでした。

しかし今回の引き上げにより、今後はより自由に、自分に合った働き方を選べるようになると考えられます。

5. 申請の有無で差が出る|シニア給付金5制度の確認ポイント

年金に上乗せされる「加給年金」や「年金生活者支援給付金」は、条件を満たしていても自動的には支給されないケースがあるため注意が必要です。

また、働く人にとっては「再就職手当」「高年齢雇用継続給付」「高年齢求職者給付金」といった雇用保険の制度も、重要な収入源となります。

これらを適切に活用することで、老後の家計を安定させることが可能です。

3月は新年度前に制度を見直す好機です。自分が対象となる給付があるかを確認し、必要な手続きを早めに進めることで、受給漏れを防ぐことにつながります。

まずは利用できる制度を一つずつチェックしてみましょう。

参考資料

マネー編集部社会保障班