3. ラグジュアリーの頂点と、時代を生き抜いたピボットの歴史
数ある高級ブランドの中で、エルメスはどのような立ち位置にいるのでしょうか。木村さんが提示した高級バッグの価格帯に基づくブランドヒエラルキー図において、エルメスはシャネルやディオール、フェンディ、ルイ・ヴィトンなどを抑えて、ピラミッドの「トップ・オブ・トップ」に君臨しています。
泉田さんは「価格帯は高くすればいいというものではなく、高いと売れないという問題がある」と指摘します 。この最高価格帯を何十年も維持し、それでもなお需要が供給を上回っている状態こそが、エルメスの圧倒的なブランド力を証明しているのです。
この強固なブランド力は、長い歴史の中で培われました。エルメスは1837年に、貴族向けの「馬具工房」として創業。その後、産業革命によって自動車が普及し、「このままでは馬具が売れなくなる」という危機に直面します。
そこで彼らは、馬具作りで培った高度な皮革技術を活かし、バッグ製造へと見事に事業をピボット(転換)させたのです。その後もシルク製品やファッション、食器などのホーム系アイテムへと領域を広げ、現代ではライフスタイル全般をサポートするブランドへと進化を遂げています。
4. 強さの秘密は合資会社形態による一貫した家族経営
エルメスは上場企業でありながら、その経営形態は日本には存在しない「株式合資会社」という非常に特殊な形をとっています。
この形態では、創業家であるエルメス一族が株式の過半数を保有するだけでなく、「無限責任社員(ジェネラルパートナー)」として経営の実権をしっかりと握っています。これにより、外部の株主から短期的な利益拡大を要求されたり、不本意な買収を受けたりすることなく、家族経営による長期的な視野でのブランド運営が可能になっています。
エルメス独自の哲学やルールが守られている背景には、この強固なガバナンス構造があるのです。
