春の訪れとともに、新年度を前に家計を見直す人も増える季節になりました。2026年4月15日は2025年度最後の年金支給日であり、老後資金について改めて考えるきっかけになるかもしれません。「年金はどれくらいもらえるの?」「受け取り開始を遅らせると本当に得?」そんな疑問を持つ人も多いでしょう。
今回は、厚生労働省の調査結果をもとに、厚生年金の受給額の実態と繰上げ・繰下げ受給のポイントについて解説します。
1. 【厚生年金】平均受給額15万円台「月20万円以上」は全体の2割に満たない
厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金(国民年金分を含む)の平均受給額は月額15万289円です。
しかし、男女で比較するとその差は大きく、受給額の分布にも偏りが見られます。
1.1 男女別の平均受給額
〈全体〉平均年金月額:15万289円
〈男性〉平均年金月額:16万9967円
〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
1.2 割合(全体:1608万5696人)
- 10万円未満の割合:19.0%
- 10万円以上の割合:81.0%
- 15万円以上の割合:49.8%
- 20万円以上の割合:18.8%
- 30万円以上の割合:0.12%
受給額の分布を見ると、約半数の人が月15万円以上を受け取っていますが、月20万円の大台に乗る人は全体の2割弱に過ぎません。老後資金を年金だけに頼るのではなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)での積み立てや、長く働くためのキャリア形成といった「自助努力」による備えが不可欠と言えるでしょう。
2. 【年金の繰上げ受給】早くもらえるが年金額は「一生減額」のまま
繰上げ受給の減額イメージ

出所:日本年金機構「年金の繰上げ受給」をもとにLIMO編集部作成
本来65歳から始まる老齢年金を、60歳から64歳の間で前倒しして受け取る制度が「繰上げ受給」です。早く受け取れるメリットがある反面、一生涯減額された年金を受け取ることになる点に注意が必要です。
減額率の計算ルール
減額率は、繰り上げた月数に応じて以下の数式で算出されます。
- 減額率(最大24%) = 0.4% × 繰り上げた月数
最短の60歳0か月で請求した場合: 年金額は24%減となります。
※昭和37年4月1日以前生まれの方は、減額率が「0.5%(最大30%)」と現行より高く設定されています。
※一度請求すると取り消しができず、減額された金額が一生続きます。
3. 【年金の繰下げ受給】年金増えると「税金・社会保険料」負担も増える可能性あり
受給開始を66歳以降に遅らせることで、年金額を増やす仕組みが「繰下げ受給」です。1か月遅らせるごとに受給額がアップし、その増額率は非常に高いのが特徴です。
増額率の計算ルール
増額率は、65歳になった月(誕生日の前日が含まれる月)から受給開始までの月数で決まります。
- 増額率(最大84%) = 0.7% × 繰り下げた月数
最長の75歳まで遅らせた場合: 年金額は84%増となります。
※昭和27年4月1日以前生まれの方は、繰下げ上限が70歳までのため、最大増額率は42%です。
※待機期間中の生活費をどう確保するかが、この制度を活用する上での鍵となります。
繰下げ受給待機中は加給年金などが支給されないだけでなく、万が一受給前に亡くなった場合、遺族が増額分を代わって受け取ることは一切できないため、健康状態や家族状況を考慮した慎重な判断が求められます。
特に注意すべきは、待機中に急逝した際、遺族が未支給分を請求しても「5年以上前」の分は時効により1円も受け取れず、本来もらえるはずだった年金が切り捨てられるリスクがある点です。
また、待機中に他の年金の受給権が発生するとその時点で増額率が固定されるほか、受給額アップに伴って税金や社会保険料の負担も重くなるため、額面通りの「手取り増」にはならない現実にも留意が必要です。
4. 【年金の繰上げ・繰下げ受給】選択する人は「少数派」?
老齢厚生年金(特別支給を除く)の受給権者における繰上げ・繰下げの活用状況は、近年徐々に変化しています。令和6年度末現在では、繰上げ率は1.2%、繰下げ率は1.9%となっており、繰下げの利用が繰上げを上回っています。
繰上げ率は令和2年度の0.5%から緩やかに上昇してきたものの、依然として低い水準にとどまっています。一方で繰下げ率は1.0%から1.9%へと着実に上昇しており、受給開始を遅らせる選択が広がっていることがうかがえます。
4.1 70歳時点で進む繰下げ選択の広がり
70歳時点での状況を見ると、繰下げ率は令和6年度で4.2%に達しており、上昇傾向がより明確になっています。
これは、長く働く高齢者が増えていることや、繰下げによる年金額の増額効果が認知されてきたことが背景にあると考えられます。制度改正により繰下げ可能年齢が拡大されたことも、利用増加を後押ししているとみられます。
一方で、繰上げの利用は限定的であり、老後の生活設計においては「早く受け取る」よりも「増やして受け取る」志向が強まっているといえます。今後は就労環境や家計状況の変化を踏まえつつ、自身のライフプランに応じた受給開始時期の選択がより重要になるでしょう。
5. まとめにかえて
今回は、厚生年金の受給額の実態と繰上げ・繰下げ受給のポイントについて解説しました。厚生年金の平均受給額は約15万円で、月20万円以上を受け取れる人は全体の2割弱というのが現実です。繰上げ受給は早く受け取れるメリットがある一方で一生減額され、繰下げ受給は最大84%増える可能性があるものの生活費の確保などの課題もあります。
こうした制度の特徴を理解したうえで、自分のライフプランに合った受給開始時期を考えることが重要です。将来の安心のためにも、年金だけでなく資産形成や働き方なども含めて老後資金の準備を進めてみてはいかがでしょうか。



