厚生労働省より2026年度の年金額改定が公表され、4月より基礎年金は1.9%、厚生年金は2.0%引き上げられます。年金受給者の中には「自分はいくら年金を受け取れるのだろう?」「一度に30万円もらえる人もいるの?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。

今回は、厚生労働省の調査結果をもとに、公的年金(厚生年金+国民年金)の受給額の分布と、年金制度に関して広がりがちな誤解について、社会保険労務士である筆者がわかりやすく解説します。

1. 厚生年金、4月15日の支給日に「30万円(月額15万円)以上」受給する人は何%いる?

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給月額は基礎年金を含めて「15万289円」です。なお、男性の平均受給月額は「16万9967円」、女性は「11万1413円」です。

次に、受給額の分布状況を見てみましょう。年金月額別、男女別に見ると次の通りです。厚生年金の受給権者に対する割合で表示しています。

受給額の分布状況1/2

受給額の分布状況

各種資料をもとに著者作成

厚生年金を月額15万円以上受給している人は、全体のおよそ半数です。ただし、男性の7割弱が月額15万円以上であるのに対し、女性は12%強にとどまります。

この背景には、出産・育児等による離職や、過去の働き方のスタンダードの違いといった構造的な要因があり、男女間で受給額に大きな差が生じやすい現状があります。

2. 年金制度を社労士が解説、SNSで広がる「年金不安」のウソ・ホント。

年金制度は内容が複雑なうえ、SNSなどでは「どうせもらえない」「払うだけ損」といった断片的な情報が散見され、制度への誤解が生じがちです。ここでは、多くの人が抱く代表的な3つの疑問を紹介します。

2.1 【よくある年金の誤解①】「年金は元が取れない」は本当?

公的年金制度は、老後の生活を支える老齢年金だけでなく、万が一のときに生活を保障する障害年金や遺族年金の機能を持つ「社会保険」です。「元が取れる・取れない」という貯金のような考え方は、制度の目的から見て適切ではありません。年金は、現役世代から高齢者等への再分配を行うしくみでもあります。

しかし、そうは言っても、支払った保険料に対してどれくらい受給できるか、気になる人も多いでしょう。老齢基礎年金を例にシミュレーションしてみると、2026年度の国民年金保険料は月1万7920円です。20歳から60歳まで40年間の保険料総額は約860万円に対し、老齢基礎年金の満額は約85万円(2026年度想定)となります。

実際には、支払った保険料は全額が「社会保険料控除」の対象となり、所得税や住民税が軽減される節税効果もあります。これらを加味すると、受給開始から概ね10年程度(75歳前後)まで受給すれば、支払った保険料の元が取れる計算です。 85歳過ぎまで受給すれば支払総額の約2倍を受け取ることになり、さらに障害や死亡のリスクもカバーされるため、「元が取れない」という指摘は必ずしも適切ではありません。

2.2 【よくある年金の誤解②】人口減少で「一人当たりの負担はさらに増える」は本当?

人口が減って年金の支え手が減っているので、「国民一人一人の負担はさらに増えていくのでは」と疑問に思う方もいるかもしれません。

たしかに、少子高齢化は進行していますが、働く人(特に女性や高齢者)が増えているように、年金制度の「支え手」となる働く人の数は、当初の予測よりも増加しています。「長く働く人が増える」ことで、一人当たりの負担増は軽減されます。

実際に、現役世代の負担増を抑えるために、厚生年金保険料は2017年9月以降は18.3%で固定されています。法改正がない限り、保険料の負担増はありません。ただし、年金の給付水準は下がる見通しです。

2.3 【よくある年金の誤解③】「年金制度はこの先破綻する」は本当?

日本の公的年金制度は、厚生年金保険料率を固定した上で、財源の範囲内で給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」の仕組みが導入されています。

これにより、現役世代の人口減少や平均余命の伸びに合わせて給付水準を調整し、おおむね100年間で積立金が底をつくことがないよう財政の持続可能性を確保します。年金財政の現状と見通しを確認する作業が、5年毎に実施される「公的年金の財政検証」です。

ここまで、厚生年金を月額15万円以上受給している人の割合と、年金制度に関するよくある誤解について解説しました。次章では、年金の仕組みや手続きに関するよくある誤解を紹介します。

3. 年金制度を社労士が解説、年金の手続き・仕組みの意外な盲点

年金相談を受けていると、年金制度全体だけでなく、年金の具体的な仕組みや手続きについても十分理解されているとはいえない状況です。老齢年金相談でよく見かける誤解について紹介します。

3.1 【よくある年金の誤解④】「繰下げ受給するまで年金手続き不要」は本当?

65歳で老齢年金の受給権が発生する人には日本年金機構から手続きの案内が来ますが、繰下げする場合は、受給開始までは老齢年金の請求手続きは不要です。該当するのは次の人です。

  • 厚生年金加入期間が11ヶ月以下の人
  • 1961年4月2日以降に生まれた男性
  • 1966年4月2日以降に生まれた女性

ただし、「特別支給の老齢厚生年金」の受給権がある人は請求手続きしないと時効でもらえなくなる可能性があります。年金請求の時効は5年です。

たとえば、63歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる人が繰下げ受給開始する70歳まで手続きしない場合、63歳から65歳までの年金は時効で受給できません。繰下げ受給する人や障害年金の受給者については、時効が適用される人が散見されます。

3.2 【よくある年金の誤解⑤】「在職老齢年金の支給停止は回避できる」は本当?

在職老齢年金による支給停止とは、厚生年金に加入しながら働く人で、給与(総報酬報酬月額相当額)と年金額の合計が一定基準を超える場合、老齢厚生年金の一部または全部がカットされる仕組みです。

支給停止を避けるために「退職後に繰下げ受給(受給開始を遅らせて増額させる)」を選択する人もいますが、期待したほどの増額効果が得られないケースがあります。

なぜなら、繰下げ待機期間中であっても、在職老齢年金の仕組みによって「本来支給停止されるはずだった年金部分」については、将来の増額率(月0.7%)の計算対象から除外されてしまうからです。 つまり、全額支給停止になるほど稼いでいる期間に繰下げをしても、保険料納付による再計算分を除けば、老齢厚生年金の受給額は増えない点に注意が必要です。

また、繰下げ受給によって加給年金がもらえないなどのデメリットが発生する可能性もあります。

在職老齢年金による支給停止中の繰下げ受給2/2

<繰下げ待機期間中に在職している場合の増額率について>

出所:日本年金機構「老齢年金ガイド」

3.3 【よくある年金の誤解⑥】「未納分の年金は後から払える」は本当?

年金の受給開始年齢が近い人から、「年金保険料の未納分を納付したい」という申し出を受けることがあります。保険料を後から納付できるのは次のケースに限定されるため、実際には後から払えないことも多いため注意しましょう。

  • 未納分の納付:納付期限から2年以内
  • 追納(免除や納付猶予を受けた保険料の納付):免除等を受けた月から10年以内

未納分の納付または追納ができない場合、60歳から65歳の間に限定して国民年金に「任意加入」できます。ただし、厚生年金加入者は任意加入できません。

4. おわりに

厚生年金を月額15万円以上受給している人は、厚生年金受給者のおよそ半数です。ただし、男女間に大きな差があることに注意が必要です。

また、年金制度やその仕組み、手続きは複雑であるために、インターネット上の断片的な情報から「どうせもらえない」「損をする」といった誤解が生じやすい面があります。制度や仕組みを正しく理解するために、公的な情報サイトや専門家の利用を検討してみましょう。

参考資料

西岡 秀泰