5. データで確認する高齢期の医療費とその増加傾向

老後家計において医療費は突発的な出費というよりも、年齢とともに水準が切り上がり、その後も続きやすい「継続的支出」として捉える視点が重要です。

5.1 年齢とともに引き上がる医療費水準

厚生労働省「令和5年度 国民医療費の概況」によると、65歳以上の1人あたり国民医療費は年間79万7200円、75歳以上ではおよそ95万円にまで増加しています。

高齢期の医療費は全年齢平均と比べても高い水準であり、高齢期に入ることで医療費負担が一段階上がる構造がデータからも確認できます。

5.2 「高額治療」だけではない不安の正体

医療費への不安は、必ずしも入院や手術といった高額治療に限られません。

J-FLEC(金融経済教育推進機構)の調査では、70歳代の二人以上世帯の30.0%が「医療費の自己負担増」を将来不安として挙げています。

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【60歳代・70歳代】年金だけではゆとりがないのはなぜ?

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

背景には、通院や薬代など日常的な支出の積み重なりがあります。少額でも頻度が増えることで、家計への負担感は徐々に強まっていきます。

複数受診が生む“半固定費化”

75歳以降は、単一の病気を治療するというより、複数の慢性的な症状と付き合うケースが増えます。

その結果、内科に加えて整形外科や眼科、歯科など複数の診療科を並行して受診する状況が生まれやすくなります。通院回数や処方薬が増えることで、医療費は一時的な出費ではなく、毎月ほぼ一定額が発生する“半固定費”へと性質を変えていきます。

自己負担割合の差が将来に効く

医療費総額が大きくなるほど、1割・2割・3割という自己負担割合の違いは無視できなくなります。

1回あたりの差は小さく見えても、数年単位で積み重なれば支払総額に大きな開きが生じます。医療費が高い水準で固定化すれば、その差は貯蓄の取り崩しペースや生活費全体にも影響を及ぼすのです。

5.3 「今年いくら」ではなく「この先も続くか」で考える

医療費は、今すぐ家計を圧迫しなくても、数年後に効いてくる支出です。

老後の家計を設計する際には、単年度の金額だけでなく、現在の水準が今後も続く可能性を前提に、制度や負担区分を確認しておくことが欠かせません。医療費は“終わらない支出”になりやすいという特性を踏まえた備えが求められます。