もし職場の先輩が、ひがみ半分で同僚や上司を引き合いに出して「あいつバカだよな、お前もそう思うよな?」などとあなたに同意を求めてきたとしたら、どう答えればいいか迷うところです。メンタリストでビジネス心理関連の著作も多いロミオ・ロドリゲス Jr.さんは、「こうした場合には、いくつか対応テクニックがあります」と話します。同氏の著書『仕事は嫌いじゃないけど、人間関係がめんどくさい!』をもとに、そのテクニックを解説してもらいました。

先輩の「ひがみ」にどう対応するか

「課長は本当にアタマが悪い。全然、仕事ってものを理解してないんだよ! 実力もないのに、何で俺より上の役職についているのか、意味がわからない」

 本人は実力があると思っているかもしれませんが、しょせん結果がすべて。自分のポジションがいまの実力を何よりも語っているのに、それを認めようとしない人間はいつだって存在します。そのうっぷんを後輩にまでまき散らすなんていうのは、ただのひがみ以外の何物でもないわけで、それを聞いているほうが可哀想になってきます。

 かといって「本当にそうですよね、先輩の言っている通りだと思います」などと、先輩のひがみの内容に迎合していると、自分までもがひがみに加担していると思われるので、なかなかそのバランスを取るのも難しいものがあります。

俺の意見はみんなの意見!?

 こういうときは、心理学でいう「偽の合意効果」対策で対応していきましょう。

「偽の合意効果」とは、人が自分の考え方を他の人に投影する傾向のことで、人は「ほかの人たちも自分と同じように考えている」とみなしたがることを指しています。

 要は、人間には、自分の意見・信念・好みに関して、「一般大衆も同じ意見だ」と思い込む傾向があるのですが、実際には、そうした傾向には何の確証もないし、ただの思い込みであるのが一般的だということです。

「なぁ、お前もそう思うだろ?」と先輩から尋ねられるのはそのためで、こういうときは「後輩であるあなたも同じ考えのはずだ」という前提で話していることがほとんどなのです。

「立場が違うので……」

 では、どうすればいいのか? 実はそのまま「偽の合意効果」の理屈で返せばいいのです。

「課長は本当に頭が悪い。全然仕事ってものを理解してないんだよ! 実力もないのに、何で俺より上の役職についているのか、意味がわからない。なぁ、お前もそう思うだろ?」

「先輩の考えは理解できます。先輩と同じ立場ならそう思うかもしれません」

「何? お前はそう思わないってことか?」

「いえ、ただみんなが先輩と同じ考えではないと思います。これは先輩が間違っていると言っているのではなくて、それぞれの立場で意見や見方が違うので、どうしようもないです。いまの私のような新参者の立場では、何も言えないのが正直なところです」

 まさに正論です。こんなことを言われたら、先輩も次の言葉が出ないことでしょう。

「正論」で返す2つの理由

 このように返すのには、主に2つの理由があります。

 1つは、まず先輩のひがみに参加をしないこと、迎合をしないことで、あなた自身の立場を守ることができるからです。どこで誰が聞いているのかわかりません。もし迎合をしているのが伝わると、上司からこの先輩と同類だと見られます。そんなことになったらただのとばっちりです。

 2つ目に、先輩を否定しているわけではなく、あくまでも立場によって意見が違うということをはっきりさせることによって、それ以上、話を広げさせないという効果があるからです。

「いやいや、そんなこと、はっきりと先輩に言えたら世話ないよ。それが言えないから困っているのに……」というあなた。では、そんなはっきりと言えないあなたに対して、次の作戦をお伝えしましょう。

「部長に進言しましょう!」

 それは「極端なぐらい同意をする」というテクニックです。

「課長は本当にアタマが悪い。全然仕事ってものを理解してないんだよ! 実力もないのに、何で俺より上の役職についているのか、意味がわからない。なぁ、お前もそう思うだろ?」

「先輩、本当ですよ! 僕も前からそう思っていました。絶対先輩のほうが上ですよね! 何であんなのが上司になっているのか、本当にわかりません。何かないですかね……あっ、部長に進言しましょうよ。僕、力はまだ全然ないですけど、それぐらいは力になれますよ、ガツンと言ってやりますよ、先輩のほうが課長になるべきだって。やりましょう! 絶対に上に言ってください、先輩!」

 こんなことを言われると、きっと先輩の中では「いやいやいや、ちょっと待て、話が飛びすぎだから……」となります。

イスラエルでの実験

 2014年にイスラエルのテルアビブ大学で、150人の男女を集め、2つのグループに分けて面白い実験を行ったのです。2つのグループには、次のどちらか一方を見せました。

(1)普通のテレビコマーシャルを見せる
(2)パレスチナ問題に関する動画(イスラエル人の考え方を誇張した内容)を見せる

 すると、パレスチナ問題に関する動画を見たグループの30%は、政治に関して以前より柔軟な考え方になり、選挙にも積極的に参加するようになりました。極端な動画を見ることによって、いままで持っていた考え方を変えたのです。

筆者のロミオ・ロドリゲス Jr.氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

自分のひがみ話が「凶器」に変わる恐怖

 つまり、先輩の意見を否定せず、とにかくその意見は正しいと誇張し、制裁も辞さない、極端な話、上司に対して反逆も辞さないというような話まで広げることが大切です。

 そうすると、先輩にとっては、自分の「ひがみ話」が、自分が会社で生きていくのを脅かす凶器になり得ると恐怖心を抱くようになり、そんな「地雷」をつくり出しかねないあなたに対して、二度とひがみや愚痴をこぼすことはないでしょう。

 ただし、こうするときは、くれぐれも「誰も聞いていないこと」を確認しておいてください。でないと、あなたは「社内テロリスト」という反乱分子のポジションに位置づけられてしまいますので、お気をつけくださいませ。


■ ロミオ・ロドリゲス Jr.(Romeo Rodriguez Jr.)
1972年香港生まれ。メンタリスト。幼少時より英国・カナダ・日本とさまざまな国で生活し、4カ国語を操る。2010年には香港大学の専修科でメンタリズムの講師として抜擢される。経営・営業・サービスや接客業などビジネスの現場で「いかに人の心を読むか」を指導。ビジネス心理術に特化した説得術・交渉術・読心術・営業術・人心掌握術を得意としている。

ロミオ・ロドリゲス Jr.氏の著書:
仕事は嫌いじゃないけど、人間関係がめんどくさい!

ロミオ・ロドリゲス Jr.