日ごとに暖かさが増し、桜の便りも届き始める2026年3月。年金受給者の方にとっては、まもなく訪れる4月の支給日が「令和7年度(2025年度)」を締めくくる最後の年金支給日となります。新年度の家計を左右するこのタイミングで、改めて自身の「老後の柱」を見つめ直している方も多いはずです。
今回は、厚生労働省の最新データをもとに、厚生年金「月20万円」の壁と、年金の繰上げ・繰下げ受給について受給時期を早める・遅らせるという選択が将来の家計にどのようなインパクトを与えるのかを、メリット・デメリットの両面から詳しく解説します。
1. 厚生年金、いちどの支給で「40万円(月額20万円)」もらえる人はわずか2割!
厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金(国民年金分を含む)の平均受給額は月額15万289円です。
しかし、男女で比較するとその差は大きく、受給額の分布にも偏りが見られます。
1.1 男女別の平均受給額
〈全体〉平均年金月額:15万289円
〈男性〉平均年金月額:16万9967円
〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
1.2 割合(全体:1608万5696人)
- 10万円未満の割合:19.0%
- 10万円以上の割合:81.0%
- 15万円以上の割合:49.8%
- 20万円以上の割合:18.8%
- 30万円以上の割合:0.12%
受給額の分布を見ると、約半数の人が月15万円以上を受け取っていますが、月20万円の大台に乗る人は全体の2割弱に過ぎません。老後資金を年金だけに頼るのではなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)での積み立てや、長く働くためのキャリア形成といった「自助努力」による備えが不可欠と言えるでしょう。
2. 年金の繰上げ受給、早くもらえるけど「年金額は一生減額」されたまま
繰上げ受給の減額イメージ

出所:日本年金機構「年金の繰上げ受給」をもとにLIMO編集部作成
本来65歳から始まる老齢年金を、60歳から64歳の間で前倒しして受け取る制度が「繰上げ受給」です。早く受け取れるメリットがある反面、一生涯減額された年金を受け取ることになる点に注意が必要です。
減額率の計算ルール
減額率は、繰り上げた月数に応じて以下の数式で算出されます。
- 減額率(最大24%) = 0.4% × 繰り上げた月数
最短の60歳0か月で請求した場合: 年金額は24%減となります。
※昭和37年4月1日以前生まれの方は、減額率が「0.5%(最大30%)」と現行より高く設定されています。
※一度請求すると取り消しができず、減額された金額が一生続きます。
3. 年金の繰下げ受給、年金が増額したら「税金・社会保険料」の負担も増える可能性あり
受給開始を66歳以降に遅らせることで、年金額を増やす仕組みが「繰下げ受給」です。1か月遅らせるごとに受給額がアップし、その増額率は非常に高いのが特徴です。
増額率の計算ルール
増額率は、65歳になった月(誕生日の前日が含まれる月)から受給開始までの月数で決まります。
- 増額率(最大84%) = 0.7% × 繰り下げた月数
最長の75歳まで遅らせた場合: 年金額は84%増となります。
※昭和27年4月1日以前生まれの方は、繰下げ上限が70歳までのため、最大増額率は42%です。
※待機期間中の生活費をどう確保するかが、この制度を活用する上での鍵となります。
繰下げ受給待機中は加給年金などが支給されないだけでなく、万が一受給前に亡くなった場合、遺族が増額分を代わって受け取ることは一切できないため、健康状態や家族状況を考慮した慎重な判断が求められます。
特に注意すべきは、待機中に急逝した際、遺族が未支給分を請求しても「5年以上前」の分は時効により1円も受け取れず、本来もらえるはずだった年金が切り捨てられるリスクがある点です。
また、待機中に他の年金の受給権が発生するとその時点で増額率が固定されるほか、受給額アップに伴って税金や社会保険料の負担も重くなるため、額面通りの「手取り増」にはならない現実にも留意が必要です。
4. 年金の繰上げ・繰下げ受給、最新トレンドは「増やして受け取る?」
老齢厚生年金(特別支給を除く)の受給権者における繰上げ・繰下げの活用状況は、近年徐々に変化しています。令和6年度末現在では、繰上げ率は1.2%、繰下げ率は1.9%となっており、繰下げの利用が繰上げを上回っています。
繰上げ率は令和2年度の0.5%から緩やかに上昇してきたものの、依然として低い水準にとどまっています。一方で繰下げ率は1.0%から1.9%へと着実に上昇しており、受給開始を遅らせる選択が広がっていることがうかがえます。
4.1 70歳時点で進む繰下げ選択の広がり
70歳時点での状況を見ると、繰下げ率は令和6年度で4.2%に達しており、上昇傾向がより明確になっています。
これは、長く働く高齢者が増えていることや、繰下げによる年金額の増額効果が認知されてきたことが背景にあると考えられます。制度改正により繰下げ可能年齢が拡大されたことも、利用増加を後押ししているとみられます。
一方で、繰上げの利用は限定的であり、老後の生活設計においては「早く受け取る」よりも「増やして受け取る」志向が強まっているといえます。今後は就労環境や家計状況の変化を踏まえつつ、自身のライフプランに応じた受給開始時期の選択がより重要になるでしょう。
5. まとめにかえて
今回は、厚生労働省の最新調査をもとに、厚生年金の受給実態と受給開始時期の選択肢について解説しました。「月20万円」を年金だけで確保できるのは受給者の約2割という現実は、多くの現役世代にとって驚きかもしれません。
だからこそ、単純に「早くもらう」「遅らせる」という二択ではなく、自身の健康状態や資産状況、そして増額後の「手取り額」を冷静に見極めることが重要です。「長生きリスク」に備えて繰下げを検討する際は、税金や家族への保障もセットでシミュレーションしてみましょう。
豊かな老後への第一歩は、こうした制度の“光と影”を正しく知ることから始まります。今のうちから、iDeCoの活用や働き方の見直しなど、自分らしい「備え」を具体化してみてはいかがでしょうか。



