300万円の生活費が満足の分岐点

前回の記事、『公的年金の実態を知らずに不安視していませんか?』では、若年層にとっての公的年金の大切さをまとめましたが、今回は2018年12月に行った65-79歳1万2000人の回答を集めた「高齢者の金融リテラシー調査」から公的年金の位置づけを探ってみます。

回答した1万1,960人の年間生活費の平均は319.4万円(中央値289.1万円)で、回答者の36.4%が「自身の生活支出の水準」に満足していると答えています。

満足の度合いごとに生活水準の平均値を計算してみると、「現在の生活で満足」と答えている人の平均は355.6万円、「もう少し生活費が使えると助かる」は313.1万円、「かなり厳しい生活なので何とかしたい」は263.5万円、「かなり厳しい生活だがあきらめている」は213.8万円となりました。総じて300万円を超えると生活に満足感が出てくるように窺えます。

現在の高齢者は半数が公的年金だけで生活

ところで注目したいのは、現在の高齢者は意外に多くの人が公的年金だけで生活している点です。アンケートでは、「生活費のどれくらいを資産からの引き出しで賄っているか」を聞いていますが、資産からの引き出しが全くない(公的年金だけで生活している)と回答した人が全体の49.7%に達しました。

我々が普段、年金以外に生活費が必要だと考えているのは、実は高齢者の半分に過ぎないわけです。これは、厚生労働省が実施した平成29年国民生活基礎調査でも、高齢世帯のうち「公的年金・恩給のみで暮らす世帯」は全体の54.2%となっており、同様の水準だといえます。

そこで公的年金だけで生活する人の特徴をみてみます。平均の年間生活費は308.2万円で全体よりは少し低め程度ですが生活費が少ないというレベルではありません。上記の分析からすると満足と感じる分岐点辺りで、生活支出の水準に満足していると答えてる人の比率は43.8%と平均を大きく上回っています。

ただ、そもそも現役時代の年収が高く、そのため公的年金の受給水準が高いことが特徴として挙げられそうです。

生活費の1-3割を資産の引き出しから充当

現在の高齢者は、公的年金が手厚く、その給付額だけで半数の人が生活でき、満足度も高いことがわかりました。しかし、課題は現役世代でしょう。

前回の記事でも言及した通り、現在の若年層が将来において公的年金の給付が実質的に2割低下すると想定すると、単純に計算すれば上記の年間生活費が240万円まで低下することになります。この水準の満足度をみると、「かなり厳しい生活なので何とかしたい」と感じる水準を下回っており、厳しい水準といえます。

ちなみに、生活費の補填のために資産から引き出している人と回答した6,016人のうち、その比率が1-3割の人の比率は35.0%と最も多い層となりました。将来、このレベルでの資産の引き出しが多くなる可能性が高いのではないでしょうか。

生活費のどれくらいを資産からの引き出しで賄っているか (単位;%)

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所、高齢者の金融リテラシー調査、2019年2月

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史