中国政府は追加財政政策を発動-第13期全人代第2回会議開催

中国経済の2018年成長率は6.6%で着地しました。これは2017年の成長率6.9%を下回り、中国経済の成長率としては28年ぶりの低水準です。

中国政府は2018年の目標を6.5%前後としていたため、これを辛うじて上回って、習近平政権の面子は保った格好となりました。昨年半ばからは、米国との貿易摩擦がエスカレートしてきた影響や国内で進めてきた債務圧縮政策が、景気のブレーキとして効いてきたことは明らかと言わざるを得ません。

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全人代で経済成長率の低下を容認

そんな中、第13期全国人民代表大会(全人代)の第2回会議が3月5日から開催されました。今年1月初めの市場の波乱の要因の一つは、中国の経済指標が昨年第4四半期に入ってからの中国経済の減速を示唆したことだったこともあり、中国政府が、どのような経済対策を打ち出すかに注目が集まりました。

また、経済減速傾向から、2019年の成長率目標の引き下げは避けられないと見られている中、中国政府が目標値をどう設定するかも注目されていました。

全人代の政府活動報告の中で、李克強中国首相は、中国経済の成長率鈍化を認め、2019年の経済成長率の政府目標を2年ぶりに引き下げて、6.0~6.5%と設定することを表明。2018年の成長率実績値よりも低い目標を設定して、経済成長率の低下を容認する姿勢を明確にした形です。

対米配慮もにじむ政府活動報告

経済的に影響が大きい米中貿易協議については、先にトランプ大統領が米中通商協議の進展に期待し、追加関税の実施先送りと通商交渉の期限延長を行いました。2か月程度の期限延長と推測され、米中協議が首尾よく妥結することに期待がかかります。

トランプ政権にとっては、2020年の大統領選挙に向けて経済成長を著しく鈍化させたくないというプレッシャーがかかり、習近平政権にとっても、長期的な経済構造改革圧力が迫る中、追加関税の実施など経済成長の足かせとなる不安要因は回避したいという思惑もあります。楽観的に考えることも難しいし、双方に譲歩は求められるでしょうが、双方の利害の一致を見いだせる可能性は、十分にあると思われます。

李首相は、双方二国間で約束したことはしっかりと履行するとして、通商協議の進展に肯定的な見方を示す一方、中国の守るべき権益は法に則り守ると述べ、国内向けには容易に妥協しない姿勢を示しました。

今回の政府活動報告の中で、李首相は、これまで中国政府が産業政策に言及する際に使い、米国からはやり玉に挙げられてきたスローガンである「中国製造2025」というキーワードを使わず、比較的穏当な表現で、製造強国になるべく政策を加速させると述べました。ここからも、今後の米中通商協議を成功させたいという中国政府の対米配慮が透けて見えます。

李首相はまた、経済政策では景気を押し上げるために、財政政策で一段と積極的な財政出動をすると表明しました。具体的には、2019年に製造業、運輸、建設部門を支援するため増値税(付加価値税)の税率を引き下げることを含め、税金や手数料を約2兆元規模で削減する方針を示しています。

中国政府は昨年末、1兆3千億元の税金と手数料を削減し、地方政府の特別債発行枠を1兆3500億元分設定する政策を発表していますが、これに上乗せされることになります。

大規模減税の実施により、生産面での指標の低下に現れているように景況感が悪化している製造業や中小企業の税負担軽減を図り、成長率を下支えする意向を明らかにしたことになります。中国政府は、経済のダウンサイドリスクに対応することをかねてから表明しており、コミットメントは明確で強いものでした。今回、全人代では短期的な景気減速リスクに対応してきたわけです。

雇用については、中国政府は今年、都市部で1100万人の新規雇用創出を目指す方針を明らかにしました。また、都市部の失業率の目標は4.5%に設定されています。いずれも2018年と変わらない目標です。米中貿易摩擦の影響を考慮し、米国市場への輸出割合の高い企業の雇用状況を特に注意深く見守ると付け加えることも忘れませんでした。成長率目標をレンジで設定することといい、通商協議の成否が経済面で影響が大きいことがここからも読み取れます。

中国は短期的な経済成長減速リスクを抑えながら、長期的に構造改革を推進

長期的には、中国は2つの構造的な課題を抱えています。ひとつは、「新常態」経済すなわち、内需主導型の経済への移行という課題です。改革開放の時代からの輸出主導型の経済発展という経済成長モデルからの脱却を進め、消費主導型の経済発展を実現するということです。

そして、それは国内消費を増やすことで輸入を増加させ、貿易黒字の削減に取り組むということにもなります。米国に仕掛けられた形の貿易摩擦ですが、輸出削減・国内消費喚起・輸入増加は、そもそも中国経済が抱える構造問題の解決への手段であり、改革を進めていくことは、中国にとって長期的には利益にかなうものであり、米中の利益は全く相いれないというものではありません。

その点では、通商交渉が妥結する可能性は十分にあると筆者は考えています。まずは、米国との協議に一旦めどをつけたいところでしょう。ただ、貿易摩擦の解消には長い時間が掛かります。かつての日米貿易摩擦がそうであったように、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合うという、長い時間を要するプロセスとなるでしょう。

輸出依存からの脱却に加えて、もうひとつの課題は、特に地方政府や国営企業が抱えている過剰債務・債務比率が高いことです。習近平政権は、その成立以来、金融政策を引き締め気味に抑制し、債務削減問題に取り込んできましたが、抱え込んでいる累積債務を早期に処理させ、債務依存の体質から脱却させるという取り組みは、痛みを伴います。

景気のダウンサイドリスクが拡大する中、それを進めることは容易ではないことは、昨年10月以降金融緩和に転じていることからも明らかです。こちらは、くすぶり続ける長期的な課題として、中国経済の重くのしかかるでしょうう。

筆者は、米中通商協議が決裂しないことが前提ですが、中国経済は政府の一連の政策発動・リスク回避策が奏功し、一旦底打ちする可能性が高まったと考えています。楽観的過ぎるとの批判もあるでしょうが、2016年にも政策発動から景気底入れとなった展開だったことは一つの事実です。もちろん、長期的に持続的な成長路線に回帰するには、構造改革次第ということも確かですが、短期的には悲観的過ぎても見間違えるのではないでしょうか。

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。