さて、繰上げ受給と繰下げ受給、どちらが得策なのでしょうか。最初から自分自身の寿命を知っていれば悩むことはないのですが、そうはいきません。
では、現在の年金受給者がどのような選択をしているか見てみましょう。
結論から言うと、老齢基礎年金のみの受給者では、繰上げ受給を選択している人が、繰下げ受給を選択している人より圧倒的に多いのが実情です。ただ、近年は繰下げ受給もわずかながら増加傾向にあります。
冒頭で記した老齢基礎年金のみの受給者(老齢厚生年金のない人)を見ると、平成28年末において、受給者総数735万人のうち、繰上げ受給251万人(構成比34.1%)、65歳からの本来受給474万人(同64.5%)、繰下げ受給10万人(同1.4%)となっています。実に3分の1以上が繰上げ支給を選択しています。
ただ、平成28年の新規裁定者(=新たに年金を受給する人)である約16万人を見ると、繰上げ受給が9.2%(平成24年は18.5%)、本来受給が88.2%(同80.3%)、繰下げ受給が2.7%(同1.2%)となっています。
繰上げ受給を選択する人は着実に減っており、繰下げ受給を選択する人がわずかながら増えています。いわゆる“長生きリスク”への対応が進んでいるのかもしれません。
それでも、一見すると非常にお得に見える繰下げ受給を選択する人は、思った以上に少ない気がします。その要因は、各々の受給権者に固有の事情もあるのでしょうが、60歳以降は収入が一気に落ち込むことが挙げられるでしょう。
老齢厚生年金を合わせて受給する人も繰下げは多くない
なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて受給している人(約2,530万人、特別支給の老齢厚生年金受給対象者を含まず)は、そのほとんどが65歳から受給開始を選択しており、やはり、繰下げ受給選択者は少ないことに変わりありません。
繰下げ受給は魅力的だが、それよりも先ずは目先の老後生活をどう過ごして行くか、というのが高齢者の共通認識と言えるのではないでしょうか。
葛西 裕一