公的老齢年金の「繰上げ受給」と「繰下げ受給」

現在、65歳から支給される公的老齢年金は、いわゆる1階建て部分の「老齢基礎年金」と2階建て部分の「老齢厚生年金」に分かれます。

厚生年金適用の会社勤め経験がある人は、これら2つを受給できますが、当然のことながら、「老齢厚生年金」は勤続期間(=厚生年金の被保険者だった期間)によって受給金額に差が出てきます。

一方、会社勤めの経験がない人、たとえば自営業、農業・漁業、専業主婦だった人は、老齢厚生年金の支給はなく、老齢基礎年金のみとなります。なお、ここでは公務員や教職員組合員を除いて考えます。

さて、前置きが長くなりましたが、65歳から支給される公的老齢年金は、受給権者(年金をもらう権利を有する人)が65歳より早く受給する「繰上げ受給」と、65歳より遅く受給する「繰下げ受給」を選択することが可能になっています。

繰上げ受給は最も早くて60歳から受給でき、繰下げ受給は最大で70歳まで受給開始を伸ばすことができます。ただし、繰上げ受給は65歳から1カ月早めるごとに▲0.5%減額となり、逆に、繰下げ受給は1カ月遅らせるごとに+0.7%増額されます。

繰上げと繰下げではこんなに差が生じる

たとえば、65歳からの“正規の”受給額が150万円(年間、以下同)とした場合、以下のようになります(万円未満を四捨五入)。

  • 受給開始60歳0カ月:105万円
  • 受給開始64歳0カ月:141万円
  • 受給開始65歳0カ月:150万円
  • 受給開始66歳0カ月:163万円
  • 受給開始70歳0カ月:213万円

このように、受給開始年齢が60歳と70歳では大きな差が生じることが分かります。

ここで重要なことは、一度受給を開始すると、その受給金額は死亡するまで変わらないということです(注:物価スライドの変動部分を除く)。

たとえば、最も早い60歳0カ月で受給開始を選択した人は、その人が80歳になっても90歳になっても変わらず、死ぬまで105万円です。同じように、最も遅い70歳0カ月で受給開始を選択した人も、死ぬまで213万円となります。

繰下げ受給による増額は魅力的だが…

これだけを聞くと、受給開始を遅らせて、受給年金額を増やす方がいいと考える人がいるでしょう。政府が掲げる“人生100年”のスローガンに倣うならば、老後の生活資金を少しでも増やすために、可能な限り受給開始を遅らせたいと考えて当然かもしれません。

しかし、年金受給開始を遅らせても、最終的に辿り着けない(=受給前に亡くなる)ケースがあるのも事実です。この場合、適切な表現ではないかもしれませんが、長きにわたって支払ってきた国民年金や厚生年金が全てパーになることを意味します。

もちろん、該当遺族のいる方には死亡一時金や遺族年金が支給されますが、当然、自分自身が受給できるものではありません。それならば、金額は少なくても、早期受給の方がいいような気もします。

繰上げと繰下げ、どちらが多い?