毎年11月11日は、厚生労働省が介護についての理解と認識を深める目的で定めた「介護の日」です。
内閣府「令和4年 高齢者の健康に関する調査結果」では、65歳以上の約9割が将来の介護費用を自身の資産から出すつもりだと回答していますが、いざ直面すると、その費用の実態はつかみにくいものです。
本記事では、「介護の日」を機に、令和のシニア世代の公的年金(国民年金・厚生年金)の受給状況と、介護にかかる費用や期間に関する最新データを見ていきます。
株式会社ハルメクホールディングスが実施した「介護に関する意識・実態調査」(2025年11月6日公表)の結果から、「自分は自宅で、家族は施設で」という介護の理想と現実のギャップにまつわるデータもご紹介します。
働き盛りのみなさんが、親御さんの老後資金やご自身の介護への備えを考えるヒントとなれば幸いです。
1. 介護の理想と現実のギャップが浮き彫りに(ハルメク調査)
株式会社ハルメクホールディングスの「介護に関する意識・実態調査」(50~87歳の女性474名対象)では、介護に対する意識や実態について、興味深い結果が示されています。
1.1 介護の場所に関する意識のギャップ
- 自身が介護される場合:生活を送りたい場所のトップは「自宅」で約4割
- 家族を介護する場合:生活を送ってもらいたい場所のトップは「介護施設」で約7割
この結果から、自分のことは住み慣れた自宅でと考えながらも、家族の介護についてはプロのいる施設を望むという、理想と現実のギャップが浮き彫りになりました。
1.2 年代による利用意向の差
「デイサービス・デイケア」や「配食サービス・代行業系」は全年代で利用意向が高い一方、50歳代では「AIやロボットによる介護サポート」「スマート家電による介護支援」など、最新技術を活用した介護サービスへの利用意向が他の年代に比べて高い傾向が見られました。
1.3 介護経験者の高い備えの意識
【介護経験別】自身の介護のために備えていること・これから準備していくこと1/6
出所:株式会社ハルメクホールディングス【介護に関する意識・実態調査】「自分は自宅で」「家族は施設で」 介護の理想と現実のギャップが浮き彫りに(PR TIMES)
なお、介護経験者は「貯蓄などによる経済面での備え」のほか、「エンディングノートの記載」「家族と介護方針などについて話し合う」といった項目で、未経験者より高い割合で備えていることが分かりました。
介護体験談からは、大変さや後悔の念とともに、ケアマネージャーや訪問医療、デイケアといった「外部サービスへの感謝の声」も多くみられ、プロの介護の重要性が示されています。
誰もが望む理想の介護を実現するためには、プロの力や外部サービスが不可欠であり、それはすなわち「お金との相談」になると言えるでしょう。
次では「介護の費用」を考えるうえでの基本となる、シニア世代の年金受給額の最新データを見ていきましょう。
2. 令和のシニア「公的年金(国民年金・厚生年金)」月額平均いくら?《5歳刻み》
まずは、厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、今のシニア世代が国民年金と厚生年金(※1)をどの程度受け取れているかを見ていきます。
まずは、年齢階級別(5歳刻み)の平均年金月額から確認しましょう。
※1 厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。
2.1 【一覧表】60歳~90歳以上《国民年金・厚生年金》5歳刻みの平均年金月額
国民年金
- 60~64歳:4万4836円
- 65~69歳:5万9331円
- 70~74歳:5万8421円
- 75~79歳:5万7580円
- 80~84歳:5万7045円
- 85~89歳:5万7336円
- 90歳以上:5万3621円
厚生年金
※国民年金部分を含む
- 60~64歳:7万5945円
- 65~69歳:14万7428円
- 70~74歳:14万4520円
- 75~79歳:14万7936円
- 80~84歳:15万5635円
- 85~89歳:16万2348円
- 90歳以上:16万721円
年金の受給開始年齢は、一般的に65歳以上です。65歳以上で国民年金(老齢基礎年金)のみを受け取る方の平均月額は5万円台となっています。
一方、厚生年金(国民年金部分を含む)を受給する方の平均月額は、14万円台から16万円台です。
なお、65歳になる前に年金を受給しているのは、年金の繰上げ受給(※2)を選択した方や、特別支給の老齢厚生年金(※3)を受け取っている方です。そのため、65歳以上の方と比べて平均受給額は低くなっています。
※2 繰上げ受給:老齢年金を「60歳から64歳」の間に前倒しして受給を始めること。繰上げた月数に応じて減額率が適用されます。
※3 特別支給の老齢厚生年金:昭和60年の法改正により厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際、受給開始年齢を段階的に引き上げるために設けられた制度。年齢など一定条件を満たす場合に受給できます。
3. 【一覧表】60歳~90歳以上《国民年金・厚生年金》全体・男女別の平均
60歳~90歳以上の全受給権者における平均年金月額も見ていきましょう。
国民年金
- 全体 5万7584円
- 男性 5万9965円
- 女性 5万5777円
厚生年金
※国民年金部分を含む
- 全体 14万6429円
- 男性 16万6606円
- 女性 10万7200円
国民年金のみを受け取る場合、平均年金月額は男女全体で5万円台です。一方、国民年金に上乗せして厚生年金を受け取る場合、平均月額は男女全体で14万円台と、国民年金のみの場合よりも手厚くなります。
ただし、厚生年金の平均年金月額を男女で比較すると、男性平均が16万円台であるのに対し、女性は10万円台となっており、大きな差が生じています。これは、現役時代の働き方や年金加入期間が反映されているためです。
老後の年金受給額は、現役時代の年金加入状況によって大きく異なります。
4. 介護費用のリアル「必要な費用と期間の平均は?」
先ほどのハルメクホールディングスの調査結果によると、介護経験者は未経験者よりも「貯蓄などによる経済面での備え」を重視していることが分かりました。では、実際に介護にはどれくらいの費用と期間がかかるのでしょうか。
ここからは、生命保険文化センターの「2022(令和4)年度生命保険に関する全国実態調査」から、介護の「経済的なリアル」として、介護費用と介護期間の平均データを見ていきます。
4.1 【一覧表】介護費用(※公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)
介護費用の合計は?
一時的な費用の合計平均:47万円
- 掛かった費用はない:17.5%
- 15万円未満:24.0%
- 15~25万円未満:10.1%
- 25~50万円未満:6.2%
- 50~100万円未満:7.2%
- 100~150万円未満:6.4%
- 150~200万円未満:1.8%
- 200万円以上:4.7%
- 不明:22.0%
介護にかかる費用(月額)
在宅介護の月額平均:5万2000円
- 支払った費用はない:0.0%
- 1万円未満:8.6 %
- 1万~2万5000円未満:22.8%
- 2万5000~5万円未満:18.4%
- 5万~7万5000円未満:13.0%
- 7万5000円~10万円未満:4.0%
- 10万~12万5000円未満:6.3%
- 12万5000~15万円未満:1.2%
- 15万円以上:6.9%
- 不明:18.7%
施設介護の月額平均:12万2000円
- 支払った費用はない:0.0%
- 1万円未満:2.1%
- 1万~2万5000円未満:4.6%
- 2万5000~5万円未満:6.3%
- 5万~7万5000円未満:5.8%
- 7万5000円~10万円未満:4.6%
- 10万~12万5000円未満:16.7%
- 12万5000~15万円未満:12.1%
- 15万円以上:37.5%
- 不明:10.4%
4.2 介護期間は「平均4年7カ月」
介護期間は「平均4年7カ月」
介護期間の内訳
- 6カ月未満:6.1%
- 6カ月~1年未満:6.9%
- 1~2年未満:15.0%
- 2~3年未満:16.5%
- 3~4年未満:11.6%
- 4~10年未満:27.9%
- 10年以上:14.8%
- 不明:1.3%
平均的な介護の道のりは55.0カ月、すなわち約4年7カ月に及びます。この期間中、一時費用と毎月の出費を合算すると、その総額は在宅介護で333万円、老人ホームなどの施設介護では718万円に達するというのが現実です。
介護費用は、一人ひとりの環境によって大きく変動します。もちろん、近居や同居の家族がいれば、日常的な買い物や身の回りのお世話など、一部のサポートを頼める余地は生まれるでしょう。さらに、日頃のご近所との良好な関係は、万が一の異変時に離れて暮らす家族へ状況を知らせてもらえるなど、見守り役としても期待できます。
しかし、施設入所への備えは別問題と言えるでしょう。民間の介護付き有料老人ホームなどでは、初期費用として数百万円の入所一時金を要するケースが少なくありません。
一方、比較的安価な特別養護老人ホームのような公的施設は、入所希望者が多く、本当に必要なタイミングですぐに入れる保証がないため、長期の待機期間も視野に入れる必要があります。
5. 老後資金の現実と「介護の日」を機にした備え
本記事では、令和のシニア世代の年金受給額(国民年金5万円台、厚生年金14万~16万円台)と、介護の費用と期間のリアルを確認しました。
介護期間は平均「4年7カ月」で、費用総額は在宅で約333万円、施設で約718万円と、その選択によって必要となる金額は大きく異なります。
筆者自身も認知症の家族を看取るまで、時間とお金のやりくりに苦労しました。そのため、介護経験者が「自分自身が要介護になったとき」に備え、準備をする傾向があるという調査結果には、心からうなずけます。
介護費用は「介護を受ける本人のお金から捻出する」のが基本ですが、かつて話題となった「老後2000万円問題」の試算には介護費用は含まれていません。
「人生100年時代」を生きる私たち現役世代にとって、この「介護費用のリアル」を、年金受給額という「老後資金の現実」とセットで捉えることが極めて重要です。
預貯金や資産運用による「資産寿命」、適切な運動・食事による「健康寿命」に加えて、「趣味」や「生きがい」を通じた社会とのつながりを持つ努力こそが、お金と介護の不安を和らげる最大の対策となります。
長寿時代を心身ともに豊かに生きるための準備を、前向きな気持ちで進めていきたいものですね。11月11日「介護の日」をきっかけに、親御さんの介護のお金だけでなく、ご自身の老後と介護への備えを考えていただくきっかけになればと思います。
参考資料
- 政府広報オンライン「介護の日」
- 株式会社ハルメクホールディングス【介護に関する意識・実態調査】「自分は自宅で」「家族は施設で」 介護の理想と現実のギャップが浮き彫りに(PR TIMES)
- 内閣府「令和4年 高齢者の健康に関する調査結果」
- 厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
吉沢 良子