みなさんはYouTubeで動画を投稿したことがありますか?
定期的に動画をアップする投稿者は「ユーチューバー」と呼ばれ、動画投稿を主な収入源とし、生業として行う人も少なくありません。いまやその存在を知らない人はいないといっても過言ではないでしょう。
ところが最近「炎上ユーチューバー」と呼ばれる人たちが増えて、大きな批判を浴びているのです。
ニベアクリーム入りシュークリーム動画が炎上
炎上ユーチューバーとは、倫理的とは言えない動画や危険行為を示唆する動画を投稿し、それによって再生回数を稼ぐ投稿者のことを指します。
つい最近、話題となったのは、みなさんも一度は名前を耳にしたことがあるかもしれない著名ユーチューバー「はじめしゃちょー」に、過激系ユーチューバー集団・レペゼン地球に所属する「DJ社長」がニベアクリームを入れたシュークリームを食べさせるというドッキリ企画でした。2人合わせて7個ほどの「ニベアシュークリーム」を食べた動画は200万回以上再生されていますが、これにはネット上で、
「すげえすき これからも応援してます」
「DJ社長のいいところは自分も体を張るところ」
「これ真似して体調不良者が出たとしても、それは真似する方が悪くない??」
といった意見がある一方、
「昭和の芸人かよ?」
「PVと『いいね』集められたら何でもありってやつはホントに頭おかしい」
「発想がバイトテロと大して変わらない」
といった批判も数多く集まることになりました。
そもそも「はじめしゃちょー」は2015年、「ニベアクリームでお風呂作ってみた」という動画で、その名の通りニベアクリーム100缶をバスタブに入れて入浴するというムダ遣いが批判の的となり、炎上しました。彼はほかにも「ゴルフクラブをわざとへし折る」「ハンドソープを何回もプッシュする」といった動画も上げています。今回は「ニベア風呂」のネタを下敷きに「DJ社長」が悪ノリした企画でしたが、「ただの内輪受け」「何が面白いの?」という意見も多く寄せられています。
児童・女性蔑視の発言で大炎上
また、以前から毒舌系ユーチューバーとして人気を集めていた「よりひと」が、2月中旬に炎上しました。こちらは「悪意」が前面に出た動画でした。以前から彼の投稿した動画にはヘイト表現が多分に含まれ、その都度、再生数やファンを獲得していました。
しかし2019年2月16日に投稿された動画は、それまで以上に過激な内容で、大炎上となります。彼は以前からたびたび動画内で問題発言を繰り返していたことに対し、次のように開き直った態度を見せました。
「女性差別? して何が悪いんだ。女なんてさ、しょせん男より下の人間なんだから」
「子どもに対する虐待的な言動? 何が悪い。ガキを利用して悪口言って金儲けをして何が悪い。ガキはだますためにいるわけじゃん」
この動画はファン以外にも拡散し、強烈な非難が集中することとなります。彼は炎上後に該当の動画を削除し、謝罪動画をアップして、活動休止を宣言しました。
謝罪動画にも批判
しかし、該当動画は削除されたものの、彼の謝罪動画に対しても、多くの批判コメントが寄せられていました。
「謝罪するくらいならはじめからから言うな」
「後づけで言い訳し過ぎ」
「編集段階でまずいなってきづかなかったの?」
「こいつの動画はもちろんゴミだけど謝罪までゴミ」
また、ファンであった人のコメントでも、「さすがに今回はやりすぎ」といった声もあったようです。
しかも、「活動休止」動画をアップした次の日には、本人が早くも「活動再開」を宣言。しかも「活動休止」動画を撮影して5分後に「活動再開」動画を撮影したとうそぶくなど、反省の色はほぼ見られません。
国内だけじゃない。海外も。
危険な動画や反社会的・迷惑な動画を投稿するユーチューバーの例は、日本に限った話ではありません。
日本でも話題になった外国人ユーチューバーによる迷惑動画の代表的なものは、回転寿司の「スシロー」の回転レーンにカメラを載せ、その様子を記録したものでしょうか。無断撮影の上に、客の映像に対してぼかしなども入っていなかったことが批判の的となりました。
ほかにも海外では、悪ふざけや危険行為を示唆するような動画が数多くアップロードされています。たとえば、『Bird Box』という映画に触発され、目隠しした状態での車の運転など危険な行為を試みる様子を撮影した動画投稿が流行しました。実際に、17歳の少女が目隠しして運転を行い、衝突事故を起こしてしまった例もあるようです。そのほか、洗剤を食べる「Tide PODs challenge」や、ふざけて相手に銃を向け反応を試す「No Lackin challenge」などが話題となりました。
YouTubeで収益を挙げている場合、再生回数が多ければ多いほど収益につながります。そのため、問題があろうが、倫理的にどうかと思われようが、一部のユーチューバーはこぞって「再生回数が上がるような」動画を投稿するのです。
YouTubeがガイドラインを改訂
しかし、これらの動画はYouTubeのコミュニティガイドライン違反が疑われるものも多く、以前から多くのユーザーが運営へ通報したり取り締まりの強化を求めたりしていました。上記のような動画が蔓延している状況に不快感を示すユーザーも多かったようです。
そのような流れを受け、米国のYouTube本社は2019年1月にコミュニティガイドラインを更新しました。新しいガイドラインでは「身体に重大な負傷をもたらす危険があると認められるいたずら映像を含むコンテンツ」「暴力的、または危険な行動を誘発するコンテンツ」「ポルノや暴力表現を含むサムネイル」などがポリシー違反になることを明確にしました。
日本でも、2月20日に日本版のYouTube公式ブログで「ガイドライン違反に対するペナルティと通知方法の改訂を行った」と発表され、取り締まりに関してより厳重にすることを明らかにしました。
倫理とクリエイティブ
簡単には実行できない「やってみた系」は好奇心を満たし、ヘイトや差別的発言は人々の偏見や嫌悪感をくすぐり、ポルノ表現や暴力表現を含むセンセーショナルなものは目を引いて、再生回数を稼げるかもしれません。
しかし、「テレビよりも先にYouTubeを見る子どもが多い」とさえ言われるいまの時代において、暴力的であったり、差別的であったり、性的であったりする「危険なコンテンツ」が蔓延する現状は、子どもを持つ親にとって「安心して見せられるメディア」とは言えないでしょう。
そういった意味で、ガイドラインの改訂は正しい選択かもしれません。とはいえ、このガイドライン強化の取り組みは「新しいメディアとしての柔軟さが失われる終わりの始まり」だとする声もあるようです。
テレビ番組内でのちょっとしたことに視聴者がいちいち抗議を入れることで、「テレビがつまらなくなった」と言われるように、規制やAIによる動画の取り締まりが厳しくなれば、クリエイティブな活動が萎縮し、収益化も難しくなる場合も多いでしょう。ユーザーによりよいものを提供しようという趣旨のもとでも、それにより勢いが失われれば、ユーザーが離れていくことも考えられます。
いまYouTubeに求められているのは、クリエイティブと倫理性のバランスかもしれませんね。
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