経団連の加盟企業による2020年春卒業の学生の採用活動が解禁された3月1日。この日に合わせて渋谷駅に登場した、ある巨大広告が話題を集めています。

渋谷駅の銀座線改札口に「#ES公開中」と書かれた巨大な壁面広告を出したのは、就職活動(就活)サイトの「ワンキャリア」です。「ES」とはエントリーシートのこと。「#ES公開中」は同社が展開しているキャンペーンですが、その第一弾として行われているのが、この広告の前で、選考に通過したエントリーシートを無料配布するというものです。

配布されているエントリーシートは、同社が実施した就活生の人気ランキング上位の計20社の選考通過者が実際に提出したものだといいます。また、同社のウェブサイトでは、各業界の人気企業の通過エントリーシートを順次、公開することにしており、その数は3万6000件にも上るそうです。

エントリーシート公開の意図は?

この試みの目的について、ワンキャリアは3月1日付のプレスリリースで「平成最後の就活のタイミングに『仕事選びのあり方』に一石を投じます」と説明しています。

実際のところ、従来の就職活動では「受かるための準備」が重要視され、就活生は面接の練習やエントリーシートを書くことに膨大な時間を費やしています。

似たような質問が並んでいる大量のエントリーシートに、企業が好みそうな文章を社名だけ変えてひたすらコピペしていくだけの作業が、就活生の貴重な時間を浪費しているという現状を問題視し、就活における無駄を解消していくことを掲げているようです。

従来型の就活はどう変わるべきか

また同社は就活へのあるべき変化について、「多様化」「民主化」「分散化」の3つに分けて説明しています。

1つ目は、終身雇用制の崩壊や価値観の多様化に伴い、「短い就活スケジュールの中で一生働く会社を選ぶ」時代から、「転職を前提とした就職」「長期インターンを通じて納得した就職」など、さまざまな就職形態が広まりつつある時代への変化。

2つ目は、従来の就活生が、企業の広告情報や質の悪い就活口コミ情報に頼らざるを得なかったことによって生まれる「企業と学生の間の情報格差」があった時代から、信頼性の高い口コミやデータが就活生にも公開され、企業と学生が対等にお互いを評価し合う時代への変化。

3つ目は、東京都心部の高学歴の学生と地方の学生の間で生まれる情報格差が大きかった時代から、インターネットの普及によって「いつでも、どこでも、誰でも、均等に」就活情報が得られる時代への変化。

同社の目的は、これらの変化を促進し、就活における「格差、嘘、不公正性、不透明性」をなくしていくことにあるとのことです。

ゲリラ就活相談会を行う人も

こうして、人気企業の選考通過エントリーシートという「模範解答」が就活生の間に出回るという試みについて、世間からはさまざまな反応の声が上がっています。

「今回の動きは学生が企業に合わせる為の時間をカットする事で『学生が自分と向き合う時間』を作り出す方法。学生はES頑張る時間浮いた代わりに自分と向き合う時間に充てなければなんの意味もない」

「#ES公開中」に賛同する採用担当者の中には、Twitter上でこのように述べ、渋谷駅の広告前でゲリラ就活相談会を行う人もいたようです。

肯定的な意見

すでに就活を経験したとみられる人からは、

「自分が就活生のときに欲しかった」
「学生が自分のために自分のやりたい就活ができるようになってほしい」

などの声が上がり、また現役就活生とみられる人からも、

「ありがたい。参考にする」
「就活の準備が大変なので内定がゴールという気持ちになってしまいがちだが、こういう試みでES作成時間の無駄を省ければ、就職の先にある将来のキャリアを考える時間に使えるようになる」

といった肯定的な意見が多く上がっていました。

否定的な見方も

一方で、今回のキャンペーンについて、

「これをそのままコピペする学生や、ESをふるいにかける時のテンプレートに使う企業が出てきそう」

と使われ方を案じる声や、

「これ公開したらもう同じこと書けないし余計にエントリーシートのハードル上げただけ」
「新興就活サイトの売名行為」
「ESを無料配布してもES文化がある以上根本的な解決にはならない」

と、キャンペーンそのものや、その効果に疑問を呈する声も見られました。

いま「変化の境目」にある就活

2020年卒の学生の就活には経団連の就活解禁ルールが適用されていますが、2021年卒の学生からは就活ルールが廃止されます。「就活の現場」は大きく変わっている最中にあるといえるでしょう。

今回のキャンペーンは、就活サイトが就活生側のエントリーシートの公開を通して、いまの就職活動のあり方に疑問を投げかけた形ですが、いずれにしても、学生と企業がより対等な立場で向き合い、自由に働き方を決めていけるような時代になっていくといいですね。

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