2.3 損益分岐点「額面」と「手取り」の違い

一般的には、額面(税金・社会保険料を引く前)で比較した場合、繰上げ・繰下げの損益分岐点はおおむね「20年前後」とされています。しかし、実際に手元に残る手取り額で考えると、年金額が少ないほど国民健康保険料などの負担が軽くなるため、損益分岐点はさらに後ろ倒しになる傾向があります。

この「後ろ倒し幅」は繰上げ月数によって変動しますが、概ね額面よりも2年前後、より長い期間受給することで、65歳からの受給額が繰上げ受給の総額を上回る傾向が見られます。損益分岐点は、繰り上げ受給と65歳受給の累計受取額が同じになる年齢の目安です。

実際の寿命は誰にも分からないため、受給のタイミングは老後の生活費や退職時の資金状況を踏まえて、無理のないプランで決めることが大切です。

3. 年金の繰上げ受給、「損益分岐点よりも重要?」考慮すべき注意点とは?

今回は、年金「繰上げ受給」をテーマに、累計受取額が逆転する損益分岐点について、具体的な試算結果をもとに解説しました。額面ベースでは80歳10か月でしたが、実際に手元に残る手取りベースで考えると82歳6か月と、約2年後ろ倒しになることが分かりました。

損益分岐点の年齢は、平均寿命を考慮すると超えてしまう可能性が高く、「長生きすると総受給額が少なくなる」ということが言えます。さらに、繰上げ受給には障害年金の請求権喪失や、寡婦年金を受け取れない期間が生じるといったデメリットもあります。

ご自身の健康状態や退職後の資金計画を照らし合わせ、「早期に資金を確保するメリット」とともに「生涯減額や保障を失うデメリット」も検討項目に入れ、無理のないタイミングで受給開始を判断することが大切です。

参考資料

村岸 理美