この記事の読みどころ
上期決算は思ったほど中国景気減速の影響は顕在化しませんでした。ただし、悪材料出尽くしにもなりませんでした。
こうした局面でも好印象が持てる銘柄はいくつかありました。キーワードは「独自要因」です。
今回は、横河電機、カシオ計算機、トーカロの3社を取り上げました。
下期に不透明感を残した上期決算
電機セクターの2016年3月期上期決算は、上期までは比較的順調でしたが、下期に不透明感が残る決算が多かったという印象です。
一例として日立製作所を挙げます。上期は会社予想を上回ったものの、通期会社予想は据え置かれました。また、通期予想の中身をよく見てみると、9つある事業部門のうち4つの事業の調整後営業利益が下方修正されており、やや心許なさを感じさせる内容でした。
日立のように「とても悪い」わけではないが、「非常に好調」でもないというのが現在の電機セクターの実態です。また、特に悩ましいのは、既に悪化が顕在化してきた中国関連事業の底打ち時期が各社ともはっきりと見通せていないことです。
こうした中で、今回の決算で「ポジティブ」な印象を持てた3社について簡単にまとめてみたいと思います。
横河電機
同社は石油プラント制御機器の国内最大手です。インフラ関連であるため、資源安による投資抑制の影響を大きく受けているイメージですが、実態は大きく異なります。
上期実績は、受注高が対前年同期比+6%増、売上高が同+10%増、営業利益が同+99%増、親会社株主に帰属する四半期純利益が同+111%増と大幅増益です。
原油価格の下落によりアップストリーム(開発、採掘)分野の投資は冷え込んでいるものの、同社の制御事業は小口のダウンストリーム(運用、保守サービス)が中心であるため、受注、売上ともに堅調に推移したのです。
また、前年度に国内事業の構造改革を行ったことも大幅増益に寄与していました。運用、保守サービスでの強みという同社の独自要因が、不透明な経済環境下でも発揮されることが、今後も期待されます。
カシオ計算機
シャープをはじめ、日本の民生エレクトロニクス製品の凋落が著しい中で、「Gショック」の好調が目を引きます。
上期実績は、売上高が対前年同期比+9%増、営業利益が同+37%増、親会社株主に帰属する四半期純利益が同+49%増の大幅増益となり会社計画を上回りました。また、営業利益率は12.4%と同2.5ポイント改善しました。
GPSハイブリッド電波ソーラーを搭載した高価格帯の「Gショック」は、販売平均単価が上昇しています。インバウンド需要(爆買い)の恩恵だけではなく、製品開発力が評価されたことが好業績の背景と見ることができ、こうした独自要因にも注目したいと思います。
トーカロ
トーカロという会社は知らなくても、関西地方にお住まいの方や野球が好きな方であれば、「トーカロ球場」なら知っているという方は多いと思います。
2014年8月の全国軟式高校野球選手権大会で、延長50回という記録的な熱戦が繰り広げられた球場です。この球場のネーミングライツを持っているのがトーカロです。
トーカロは、半導体製造装置用部品、鉄鋼、エネルギーから宇宙開発・先端医療分野まで様々な素材の加工(溶射注)を手掛けています。
注:『溶射』とは、コーティング材料を、加熱により溶融もしくは軟化させ(「溶」)、微粒子状にして加速し被覆対象物表面に衝突させて(「射」)、偏平に潰れた粒子を凝固・堆積させることにより皮膜を形成するコーティング技術の一種(出所:日本溶射学会)
上期実績は、半導体、液晶向けの好調が寄与し、売上高が対前年同期比+20%増、営業利益が同37%増、親会社株主に帰属する四半期純利益が同+38%となり、会社計画を上回りました。
下期以降は半導体市場の減速が懸念要因ですが、マクロ経済面で不透明感が増す中で、注目可能な1社だと考えます。
それは、特定の分野、企業、商品に依存し過ぎず、伸びる分野に経営資源を投入し、好不況にかかわらず収益確保する「全天候型経営」という独自の経営スタイルを目指しているからです。
LIMO編集部