キーワード解説の読みどころ
世界で最も有名な自動車メーカーの1つであるフォルクスワーゲン社(以下VW)が、ディーゼルエンジンの排ガス検査で不正改ざんを行っていたという衝撃的なニュースが世界中を駆け巡りました。
燃費効率が高く、排出二酸化炭素が少ないディーゼルエンジンは、地球環境に優しいことが評価され、欧州では主流になっています。しかし、軽油を燃料とするディーゼルエンジン車は、日本ではほぼトラックだけです。
今回のVW問題は、日本ではあまり注目されてこなかったディーゼルエンジンについて、もっと理解を深める良い機会と考えられます。
ドイツのVWは世界で最も有名な自動車メーカーの1つ
ドイツは日本、米国と並んで自動車産業が盛んな国の1つであり、欧州では最大規模の販売・生産を誇っています。そのドイツには、いくつかの有名な自動車メーカーがありますが、日本ではベンツやBMW等の高級車がよく知られているのではないでしょうか。
ただ、企業の事業規模を表す販売台数で見ると、ベンツやBMWよりもVWの方が圧倒的に多く、日本のトヨタ自動車と世界一を競っています。VWは世界で最も有名な自動車メーカーの1つと言えましょう。日本でも「ゴルフ」「ポロ」などの人気車種が販売されており、高級感はありませんが、女性や若年層には根強い支持があるようです。
世界を駆け巡ったVWの不正問題の衝撃ニュース
9月中旬、そのVWがディーゼルエンジンの排ガス検査で不正改ざんを行ったというニュースが、世界中を駆け巡りました。日本でも新聞やテレビで毎日のように報道されています。欧米では、この不正改ざん問題は、大変なスキャンダルとして取り上げられているのです。
現在、この問題はまだ解決・収束の方向が見えていませんので、予断を許さない状況ですが、そもそも今回問題になった「ディーゼルエンジン」とは一体何でしょうか。細かく説明すると専門用語がどんどん出てきて複雑になってしまいますから、できるだけ簡単に解説しましょう。
ガソリンエンジン車が圧倒的主流の日本は、実はディーゼルエンジン後進国
日本国内を走っているクルマは、乗用車と商用車(トラック、バスを含む)に分類できます。このうち、ほとんどの乗用車にはガソリンエンジンが搭載されています。一方で、大部分の商用車にはディーゼルエンジンが搭載されています。皆さんが普段乗っているクルマは、ほとんどが乗用車だと思いますので、ディーゼルエンジンと接している人は非常に少ないはずです。従って、今回のVW問題によって、皆さんが普段乗っているクルマには何の影響もないと考えて結構です。
日本におけるディーゼルエンジン車は、ほとんどがトラックと考えて結構です。ただ、最近はマツダなどが新開発のディーゼルエンジンを搭載した乗用車を販売し始めていますから、徐々にではありますが、日本でも乗用車のディーゼルエンジン車が増えてきていることも確かです。
ディーゼルエンジンの長所は?
ガソリンエンジンがガソリンを燃料としているのと同じように、ディーゼルエンジンはディーゼルを燃料としています。ディーゼルとは「軽油」のことです。ガソリンよりも安価で販売されています。ディーゼルエンジンの長所は、1)燃費性能が高い、2)排出二酸化炭素(CO2)が少ない、3)低速トルクが効く、4)耐久性に優れている、等です。
このうち、特に1)と2)に対しての関心が高まった結果、地球環境に優しいエンジンという評価が高まりました。こうしたメリットが重視された結果、欧州では乗用車の約50%がディーゼルエンジン車になっています。それだけに、今回のVW問題は大きな衝撃として受け止められているのです。
ディーゼルエンジンの短所は?
ディーゼルエンジンは、こうした長所がある一方で、1)騒音や振動が大きい、2)黒煙や排出窒素酸化物(NOx)が多い、3)エンジン自体が大きいために生産コストが高い、等の短所も少なくありません。
日本では長年にわたって2)が大きな問題となってきましたが、ディーゼルエンジンの乗用車がほとんどなかったため、主にトラックに関する問題でした。黒煙をモクモクと出して大きな騒音と共に走るトラックを見たことがある人も多いと思われます。結果的に、ディーゼルエンジンに対するイメージは決して良いものではなく、乗用車にはほとんど搭載されてこなかったのです。
ディーゼルエンジンへの理解を深める機会に
さて、今回のVWの不正問題により、ディーゼルエンジンに対する信頼度が揺らいでいます。排出CO2が少ないため地球温暖化防止に有効と思われていましたから、人々が受けたショックが大きいのはわかります(特に欧州)。ただ、これは、あくまでもVWの不正改ざん問題として見るべきであり、ディーゼルエンジンに対する不審と見るのは少し行き過ぎの感があります。
今回のような問題が発生したからこそ、今まであまり注目してこなかったディーゼルエンジンについて、関心を高める良い機会とも言えるのではないでしょうか。
LIMO編集部