本記事の3つのポイント

  •  電子部品業界がスマホの減速、米中貿易摩擦の影響で下方修正を余儀なくされている。日本電産を筆頭に、TDKやアルプスアルパイン、日本航空電子などが通期予想を相次いで下方修正
  •  一方で、村田製作所は自動車用コンデンサー(MLCC)の好調を理由に、上期決算にあわせて業績の上方修正を行っている
  •  今後は5Gに期待も、ファーウェイ製品の排除など米中関係の悪化がここでも暗い影を落とす

 

 近年、電子部品業界はスマートフォン市場の成長と自動車の電装化進展に伴う需要拡大により、高成長を謳歌してきた。2013~17年度の5年間に、業界最大手である日本電産の売上高は約70%、村田製作所は約62%伸長し、1兆5000億円を視野に入れる規模へと成長した。

 だが、18年後半からスマホ市場の減速傾向が強まるなど、先行きの不安感が増している。19年1月に始まった各社の第3四半期決算発表においては米中貿易摩擦の影響が表面化し、通期予想の下方修正が相次ぐ事態となった。好調が続いていた電子部品業界に何が起きているのだろうか。

「警報」を鳴らす日本電産

 スマホ市場の不振や米中貿易摩擦の激化に伴う景気減速懸念は秋ごろから囁かれていたが、1月17日に日本電産が通期業績予想の下方修正を発表し、市況の悪化が強く意識されることとなった。18年度第3四半期累計では売り上げ、営業利益、税引前利益、純利益のすべてで過去最高を更新したが、18年11月以降の需要減が想定を超えるものであったため、従来の増収増益予想を見直し、減収減益予想へと修正した。

 強気姿勢で知られる日本電産が市況の先行きに対する危機感をアピールしたことは、業界全体への「警報」として作用した。米中貿易摩擦による景気減速は決して楽観を許さないものであることが、意識されるようになったわけである。

 ただし、日本電産が業績予想の下方修正により弱気、あるいは守りの姿勢に転じたわけではないことにも注意したい。当面の市況悪化を構造改革の契機と位置づけ、全社的なさらなるコスト削減に加えて工場の統廃合、旧式在庫の早期廃却、M&A費用の計上などを進めるとしている。20年度に売上高2兆円を目指す中期目標にも変更はなく、市況が回復した際にはいち早く高成長を目指す考えだ。

 第3四半期決算発表ではスマホの「飛び出すカメラ機構」向け部品の量産供給を開始したことや、中国の電気自動車にトラクションモーターシステムが採用されたことを紹介しており、次なる成長に向けて精力的に取り組む姿勢を崩していない。

その後も相次ぐ大手メーカーの下方修正

 日本電産の決算発表後も、大手電子部品メーカーの下方修正が続く。TDKは18年度第3四半期決算において、自動車向けセラミックコンデンサー、センサーが好調だったものの、産業機器向けや民生機器向けが苦戦。続く第4四半期も市況の悪化が見込まれることから、通期業績予想を下方修正した。ただし、前年度比では7.7%の増収、26.6%の増益を見込み、年初計画と比べてもプラスを確保できるとしている。

 アルプスアルパイン(アルパインとの経営統合により、19年1月にアルプス電気から社名変更)の電子部品事業は、中国スマホ市場の減速を背景に、18年度に入ってから苦戦を強いられた。第3四半期決算では自動車向けが健闘した一方、スマホ向けがカメラ用アクチュエーターを中心に減速したことで、減収減益となった。もともと通期業績は減収減益を見込んでいたが、下方修正を行ったことで下落幅が拡大し、2桁の減収減益を余儀なくされる見通しとなった。

 コネクター大手の日本航空電子も中国市場の不振に悩む。18年度第3四半期決算は、主力のコネクターがスマホなどの携帯機器向けで伸び悩み、自動車向けが下支えしたものの減収減益となった。通期は携帯機器に加えて産業機器市場でも減速を見込むことから業績予想を下方修正し、2桁の減収減益に落ち込む見通しだ。

2桁成長堅持を目指す村田製作所

 このように各社が下方修正に追い込まれるなかで、異彩を放ったのが村田製作所だ。18年度第3四半期決算発表の際、通期で売上高を前年度比18%増、営業利益を68%増とする従来予想を据え置いた。同社はスマホ向け部品において市場でも高い地位にあり、特に米アップルのiPhoneの主要サプライヤーとして知られている。18年秋に発売された最新モデルの不振が報じられていたことを受け、同社の苦戦も想定されていた。それだけに従来予想の据え置きは意外と受け止められた。

 村田製作所がスマホ不振の影響を受けなかったわけではない。18年10月に一度業績予想を上方修正しているが、すでにその際にスマホ向けを保守的に見ていた。実際の数量はその予想をさらに下回っており、iPhoneの販売が事前の想定より悪かったことを裏付ける。

 だが、自動車関連の好調が続いていることや部品の価格是正が利益に貢献してくることを理由に挙げ、従来予想は達成可能であると判断した。同社の部品需要予測は従来定評があり、参考値として重要視する業界関係者も少なくない。そんな同社が通期予想を達成できるか否かは、19年度の市況を判断するうえでも注目すべきポイントになるだろう。

スマホ、設備投資需要は下振れ、自動車は堅調

 このように、電子部品業界が市況減速の影響を受けていることは確実なものの、各社の業績は必ずしも一様ではない。では何がこれらを分ける要因になったのだろうか。

 まず、これまで電子部品業界の成長を支えてきたエンジンの1つであるスマホ市場が、17年末から低迷していることが挙げられる。市場調査会社の米IDCは、18年の世界におけるスマホ販売台数が前年比で4.1%減だったことを挙げ、「史上最悪の年」と呼んだ。特に最大市場である中国では販売不振が続いたのを背景にファーウェイ、オッポといった大手中国メーカーがアップル、サムスンの上位2社からシェアを奪う構図となり、業界全体で在庫過剰に苦しんだ。

 このため中国スマホメーカーに多く採用されていたアルプスアルパインのカメラ用アクチュエーターや、村田製作所の高周波フィルターなどは販売を減らすことになった。在庫過多に加えて米中貿易摩擦が影響し、18年秋以降には中国の設備投資意欲がスローダウンしたため、第3四半期以降には産業機器向け部品の需要も減退している。

 ここにハイエンド部品では大きなボリュームを占めていたiPhoneの不振が加わったことが、スマホ関連部品全体の下落につながった。このほか、中国の経済成長がスローダウンしていることに伴って、テレビや白物家電など、スマホ以外の民生機器も落ち込んでいる。

 一方、もう1つの成長エンジンである自動車市場は、生産台数のスローダウンが見られるものの、電装化に伴う電子部品需要の増大は続いている。特に顕著なのは積層セラミックコンデンサー(MLCC)で、各社が積極的に増産しているにもかかわらず供給が追い付いていない。ほかにもセンサーなど、車両安全システム系部品の需要が伸長している。自動車向けの部品の高機能化、搭載数増大トレンドは継続する見通しで、販売台数減による影響は無視できないものの、今後も成長市場としての位置づけは変わらない。

19年度以降の回復のカギは5Gか

 前述のとおり、フォーカスする市場と製品ラインアップにより、足元での電子部品メーカー各社の業績には濃淡がある。ただ、景気後退懸念が強まるなかで、18年度末~19年度にかけての電子部品市場は厳しい環境に置かれることがほぼ確実視される。仮に米中貿易摩擦の解決が見えたとしても、スマホ市場は成熟化という課題を抱えており、容易に成長軌道に回帰することは期待できない。また、米中が貿易面で対立を続ければ、設備投資需要のさらなる減退と、これまで好調に推移してきた自動車市場への悪影響も懸念される。

 その一方で、当面は苦しい市況が続くものの、中長期的には電子部品市場は再び成長するという点で各社の見解は一致している。なかでも新たな需要を喚起するカギとして期待されているのが5G無線通信サービスだ。

 5G無線通信は20年に国内でサービス提供開始が予定されており、高速大容量に加えて多接続、低遅延を特徴とする。スマホにおいてはインターネットコンテンツの大容量化に伴う機能向上、新たな使い方の創出などが期待できるが、それ以上に影響が大きいのは自動車市場だ。5G無線通信は自動運転時代に必要な車車間通信、路車通信への活用が想定されており、これまでの車載通信では不要だった高機能の通信関連部品の需要が期待できる。

5Gのキーデバイスと位置づけられる、村田製作所のメトロサーク

 ただし、5G無線通信の商用化においても、米中貿易摩擦が影を落とす。米国政府がファーウェイに情報窃盗などの疑いをかけたことをきっかけに、日本や欧州各国ではファーウェイを排除する動きがある。だが、ファーウェイは通信インフラ市場において世界最大手であり、5G無線通信でも大きな役割を担っている。その関係が絶たれれば、5G無線通信の実用化に遅れが生じたり、商用化フェーズにおけるコスト増大リスクが考えられるだろう。

 ファーウェイをはじめとする中国エレクトロニクス企業の市場全体に占める地位を考えると、このまま全面的に排除が進むとは考えにくいが、危機感を募らせる米国側が容易に態度を軟化させることもまた想定しづらい状況といえる。19年度の電子部品業界は、貿易摩擦の行方と市場動向の双方を睨みながら判断を下すという、難しい舵取りを迫られる。

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村剛

まとめにかえて

 足元の電子部品メーカーの業績は上期(18年4~9月)から一転、10月以降は中国経済の減速などの影響を受け、下方修正が目立ちました。そのなかでも、村田製作所などは自動車用MLCCをてこに力強い成長を見せています。19年度に向けても、各社の戦略はより一層「脱スマホ」が鮮明となってくることでしょう。スマホに代わる強力なアプリケーションの台頭が今すぐに期待できないなかで、自動車をはじめ、医療やエネルギーなど幅広い分野で事業を展開するバランス経営が今の電子部品業界には求められている気がします。

電子デバイス産業新聞