現在、日本の持家比率は約61%(全世代平均)ですが、過去の推移から見ても今後の大幅上昇は期待し難い状況にあります。仮に、前提条件を甘くして、この持家比率が65%まで上昇したとしても、2040年には約320万人の高齢者が(一人で)賃貸住宅暮らしということになります。

これら高齢者を全て公営賃貸住宅で受け入れることは不可能に近いものがあり、大部分を民間の一般賃貸住宅に頼らざるを得ないはずです。

年々ハードルが高くなる単身高齢者への賃貸住宅契約

しかし、家主の立場になって考えると、一人暮らしの高齢者に貸すことに躊躇せざるを得ない面もあるでしょう。連帯保証人がいたとしても、最大の理由は、いわゆる“孤独死リスク”があるからです。一般に、孤独死が早期に発見されるのは稀で、少なくとも死後数週間を経過した時が多いと言われます。

その際、現実問題として、遺体からの体液が染み込んだ部屋は特殊洗浄が必要になり、多額の費用がかかります。しかも、現在の民法では、自殺でない場合、遺族や連帯保証人に対して損害賠償の請求ができません(一部は上限)。

賃借人が死亡して多額の費用を要したMさんの事例

筆者の知人(Mさん)の実例を紹介します。Mさんは所有するワンルームマンションを賃貸していましたが、賃借人(40歳代前半)が何らかの急性発作により室内で死亡、約1週間後に無断欠勤が続いたことを心配した上司が訪ね発見されました。Mさんによれば、特殊洗浄費用に約60万円を要し、Mさんの負担分は約45万円に上ったようです。

Mさんの物件の場合は高齢者の孤独死ではありませんでしたが、高齢者に貸す場合は熟慮せざるを得ないとのことでした。

“孤独死時代”に向けた保険や社会保障の整備が急務

昨今、こうした社会情勢に合わせた家賃保証や特殊洗浄費用負担など“孤独死保険”の類も登場していますが、まだまだ不十分です。今後迎えるであろう“孤独死時代”に備えた様々な社会保障の整備・強化が求められるでしょう。

孤独死なんか関係ないと思っている方々も多いと思いますが、直接的にも(ご自身が高齢になって孤独死)、間接的にも(前掲のMさんのような場合)、その影響を受ける日はもうすぐそこまで来ているのかもしれません。

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計) 2018(平成30)年推計

葛西 裕一