高齢となった親の老後や自分の定年後について、家族で話し合ったことはありますか?「その時」はいつやってくるかわかりません。『もしもの時の「終活・相続」バイブル』の著者で、新宿総合会計事務所グループ代表の瀬野弘一郎氏は「準備が不十分だったために、望んだ最期を迎えられなくなってしまうケースがある」と指摘します。「終活」について知るのに早すぎることはありません。

そこで、同書をもとに、「終活」の第一歩としてまず押さえておくべき「遺言」と「お墓」について、瀬野氏にポイントを解説してもらいました。

円満な相続には遺言書が必須

円満な相続を望むなら、「遺言書」を作成しておくのが一番いい方法です。遺言書がなく、財産分割をめぐって仲の良かった家族が揉めてしまうケースは後を絶ちません。

よく使われるのは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。「自筆証書遺言」は、すべての内容を自分で手書きした遺言書です。「公正証書遺言」は、公証役場に出向いて自分の代わりに公証人に作成してもらう遺言書です。

公正証書遺言は自筆証書遺言に比べて、専門家である公証人のチェックを受けるので不備がなく安心です。ただ、作成料や手数料等として数万円の費用がかかります。実際のところ、どちらを選ぶかはその人次第です。

トラブルにならない「遺言」の7つのポイント

自筆証書遺言を作成するときは、書き方のルールをよく確認し、形式不備や要件不備にならないようにすることがトラブルを防ぐコツです。具体的には次の7つに気をつけましょう。

① 表題に「遺言書」と記載する
② 自書で書く(改正民法では「財産目録」のみパソコンで作成可)
③ 用紙の大きさや筆記用具は自由、縦書きでも横書きでもよい
④ 法定相続人には「相続させる」、それ以外の人に対しては「遺贈する」と書き分ける
⑤ 日付は年月日を正確に書き、最後に署名捺印する
⑥ ページが複数になる場合は割印をする
⑦ 書き間違えた場合は、無理に訂正せずに新たに書き直す

遺言書はどうしても平等な内容にはならないものです。そこで、なぜそうしたのかという遺言者の気持ちを「付言事項」として書き加えておきましょう。

さらに、遺言内容を確実に実現させるために、遺言執行者(遺言の内容を実現することを任された者)を記載しておくといいでしょう。職務の性質上、利害関係者は避け、弁護士など専門知識を持った第三者を指定しておくと安心です。

民法改正によって「自筆証書遺言」が利用しやすく

これまで「自筆証書遺言」は、紛失されたり発見されなかったりといったリスクがありました。しかし2018年7月に公布された民法の改正により、法務局で保管してくれるようになりました。

ほかにも相続に関していくつか法改正がありました。たとえば、自筆証書遺言は偽造を防ぐためにすべて自筆で記載することが義務づけられていました。誤字があれば、訂正箇所を二重線で消し押印しなければならず、面倒な作業でした。

しかし、今回の法改正により、遺言書に付ける「財産目録」はパソコン等で作成しても認められるようになります。「自筆証書遺言」は、これまでよりも使い勝手がよいものとなりそうです。

忘れてはいけない「遺留分」

「遺言書」を作成するときに忘れてはいけないのが、相続の「遺留分」です。「遺留分」とは、民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる権利です。

遺言書がないときは、相続できるのは法定相続人に限られますが、遺言書では法定相続人以外の人にも財産を遺贈できます。たとえば、Aさんが「財産のすべてをB子(Aさんの愛人)に遺贈する」という遺言書を残したとします。これでは、奥さんやお子さんはたまったものではありません。このとき、奥さんとお子さんは法定相続人なので、「遺留分」を請求できます。

ただし、遺留分の請求権があるのは、遺留分を侵害する相続および遺贈や贈与があったことを知った日から1年間です。また、遺留分を請求できるのは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人で、基本的には配偶者・子・親です〈別図版参照〉。

墓の低価格化が進み、「永代供養墓」が人気に

お墓についても知っておきましょう。一般的なのは、墓石を建ててその下に遺骨を埋葬するお墓のスタイルです。墓の費用は、「墓石の費用(工事費含む)+墓石を建てる場所の永代供養権」です。平均金額は200万円ですが、最近では低価格化が進んでいます。

高額な墓に代わって普及しているのが「永代供養墓」です。個人で墓石を建てるのではなく、お寺や霊園が墓石を建てて、家族に代わって墓守をします。お参りは自由ですが、もしお参りする人がいなくなっても無縁仏・無縁墓になる心配がありません。

永代供養墓には、小型墓所タイプ、納骨堂タイプ、屋外ではなく都心のビル内に墓石を置くタイプなどがあります。宗旨宗派も問いません。生前に申し込めるので、子どもなど墓守をする人がいないという場合は永代供養墓を検討するのもいいでしょう。

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遠方の場合は「墓じまい」してしまう手も

故郷に先祖代々の墓があれば、これまではそのお墓に入るのが一般的でした。しかし、故郷が遠くて墓参りする人がいない場合、近所に新しくお墓を建てようと思うかもしれません。そのときは、忘れずに故郷のお墓を移しておきましょう。

後継者がいない、遠方のために墓参りができないなどの理由で、墓所や墓石を移転(改葬)したり処分したりすることを「墓じまい」と言います。

改葬するには、遺骨所在地の役所で改葬許可申請書をもらい、墓地の管理者から改葬の承諾を得て、再び役所で改葬許可書を受け取るという手続きをします。お寺によっては、「離檀料」(檀家が菩提寺と関係を絶つときの料金)を要求するところもあります。お墓の改葬にかかる費用は、一般的な目安をまとめた表〈別図版〉を参考にしてください。

お墓の生前購入は節税になる

遺族が故人の遺産からお墓を購入する費用を捻出すると、その遺産は相続税の対象になります。しかし、故人が亡くなる前に自分のお墓を購入しておけば、相続財産にはなりません。

生前にお墓を購入すれば遺産総額も少なくなるので、相続税の節税にも役立ちます。終活の第一歩として、体が元気なうちに「お墓をどうするか」を計画しておきましょう。

 

■ 瀬野 弘一郎(せの・こういちろう)
新宿総合会計事務所グループ 代表、税理士、行政書士。明治大学法学部卒業後、同大学院法学研究科博士前期課程終了。その後、三輪公認会計士税理士事務所入所。1987年3月税理士登録。1995年1月に新宿総合会計事務所開設。税務のことにとどまらず、ワンストップで法律や経営に関することを相談できる会計事務所として、日々お客様のニーズに応えている。

瀬野氏の著書:
もしもの時の「終活・相続」バイブル

瀬野 弘一郎