この記事の読みどころ
エチレンは様々な用途に使われる石油化学の基礎製品で、鉄鋼産業で言う粗鋼に当ります。ナフサは粗製ガソリンとも言われ、エチレンの原料となるものです。
エチレン価格とナフサ価格の差額=スプレッドは、エチレンメーカーの粗利益のようなものと考えてください。
大手化学企業の株価は、このスプレッドとトレンドを同じくする傾向があります。では現状の株価水準は今後どうなるのでしょうか。
石油化学の原料はどんなもの?
みなさんは日常生活の中で、メタン、エタン、プロパンガスといった燃料に使う天然ガスの名前を聞いたことがあると思います。古代の動植物が腐敗して出たガスが地下の深いところに貯まった結果、できたものです。動植物は炭素と水素から成る有機物ですから、当然、可燃性のガスです。下水からの不快な臭いの原因はこうしたガスが漏れ出ているからですが、この、炭素(C)、水素(H)をたっぷり含んだガスが化学製品の原料になるのです。
一方、ガスを産出しない地域では、石油精製から生産される粗製ガソリンから石油化学製品を作ります。粗製ガソリンは炭素が無数につながっているので、大量の石油化学製品を効率的に生産することができます。この粗製ガソリンをナフサ(Naphtha)と言います。取引単位は世界的にドル/トンが一般的です。
石油化学の指標となっているエチレンは何を作るための基礎原料?
新聞などで目にすることのあるエチレンプラントは、鉄鋼産業に例えると高炉のようなもので、石油化学の基礎製品を製造する大きなプラントです。生産規模は、昔は年産10~30万トンが標準でしたが、今は同100万トンが世界標準となっているようです。日本にはせいぜい同50万トン規模のものしかありませんが、お隣の中国では同100万トンが当たり前になっています。この違いは競争力にも大きな影響をもたらすと考えられます。
エチレンからはポリエチレン、塩化ビニル樹脂、ポリエステル原料などが生産されます。すなわち一般消費財が主に作られるわけで、エチレン生産量はその国の経済規模を端的に表す代表的な指標とも言えます。ちなみに、アジアでは中国の生産能力が既に全体の40%近くを占めています。
エチレンとナフサのスプレッドと株価の関係
次に本題に入りましょう。図表1はアジアで取引されているエチレン市況(ドル/トン)と、ナフサ市況(ドル/トン)の差額、すなわちスプレッドを見たものです(赤字の折れ線)。そこに石油化学に強いとされる三井化学(4183)と三菱ケミカルホールディングス(4188)の株価をかぶせてみました。
完全ではありませんが、トレンドは基本的に同じだと思います。スプレッドは今年4月の890ドル/トンをピークに急落しています。直近の8月末ではなんと350ドル/トンまで下がりました。要因は2つ。1つ目は、原油価格が下がったのでナフサも下がりましたが、エチレン市況もそれ以上に下がったこと、2つ目は基本的にアジアの景気が良くないことです。
化学株の株価調整は道半ば
このスプレッドの悪化にも関わらず、三井化学と三菱ケミカルホールディングスの株価は比較的堅調に見えます。もちろん両社の事業内容は、こうした汎用化学だけではありませんが、景気が悪く化学品の市況が軟化すると全体の利益を喰って株価も急落するのが、これまでの経験から考えられるパターンです。スプレッドの急落を株価が時間差で追いかける場面が懸念されます。
【2015年10月15日 石原 耕一】
■参考記事■
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石原 耕一