お伝えしたい3つのポイント
- 香港のオフィス需給はかなり逼迫しており、まさに貸し手市場の様相を呈しています。
- 九龍イーストの大規模再開発は予定通りの進捗で、資産価値上昇が見込まれます。
- 香港REIT(リート)の業績は堅調、投資口価格下落に伴い魅力的な投資先と考えられます。
香港永住権を持ち、アジアの不動産を視察に行くファンドマネージャーの現場レポート
三井住友トラスト・アセットマネジメントでファンドマネージャーをしております、高垣と申します。今は東京オフィスで、REIT関連の投資信託の運用などを行っています。以前は、約14年にわたり、香港に駐在してアジアの株式やREITの運用をしてきました。香港の永住権も持っています。
アジアの不動産への注目度は日増しに高まっていますが、日本で現地の最新の情報を手に入れるのはまだまだ難しい状況です。あくまでも私見にはなりますが、私の定点観測が何らかの形でお役に立てばと思う次第です。
◆コラム◆ その定点観測1つとして・・・ご存知、香港の夜景は有名ですが、夜景鑑賞には海から見るものと、山から見下ろすものとの、2パターンがあります。このうち、特に海からの夜景を彩る、高層ビル群と企業広告等のネオンサインも時代と共に変わっていきます。2000年代以降、日本企業の広告が減少する反面、韓国勢やがては中国企業の広告が増えてきました。ただ、ここ数年、日本企業のネオンサインも戻ってきている気がします。まさに香港の夜景は時代を映す鏡と言えます。 |
香港REIT組入物件の業況は堅調そのもの
2015年9月中旬、アジアREITの主要マーケットである香港に行き、香港市場に上場しているREIT(以下、香港REIT)とのミーティング、オフィス・商業施設物件等の保有資産を視察してきました。
香港に里帰りすると、いや視察に行くと、「帰ってきた~」という不思議な安堵感に包まれるわけですが、今回はそんなことは言っていられません。足元では、中国景気鈍化の動きから、多くの投資家に香港の景気や不動産市況にも影響が出るとの懸念が出ているからです。
しかし実際のところは、香港REITに組み入れられている、①優良オフィス物件、②日用品を中心に取り扱う商業施設物件、の業況は堅調であることが確認できました。
空きフロアスペースが蒸発? まとまったスペースが無くなっているセントラル地区
香港のオフィス需給は逼迫しています。特に金融機関等のオフィスが集積するセントラル地区でその傾向が顕著です。複数のREIT先において、「優良オフィスビルとされるGrade A(グレードA) 物件の空室率は2~3%程度、テナントの入れ替え要因も考慮すると実質的にフル稼働の状況」の様子です。
昨年来、香港上海の株式相互取引開始以降、中国系企業の進出が継続しているようで、「これは構造的な話であり、景気が多少落ち込んでも影響を受けるものではなさそう」とのコメントを得られています。
今回、セントラル地区で代表的な物件、シティバンクプラザを保有するチャンピオンREITの経営陣とミーティングを持ち、物件を見せてもらいました(写真①)。昨年第四半期に大口のテナントが11フロアを返却したため昨年末時点で稼働率が75%まで落ちこみましたが、その後、グローバル金融関連企業、中国系企業、ヘッジファンド等の入居があり、足元で稼働率は90%を超える水準まで上昇しているとのことでした。
出張に先立つ9月初めにこの物件の賃料水準をヒアリングする機会があり、その頃は坪当たり5万円弱~5.5万円とのことでした。そこから2週間後、今回の視察時に再度聞いたところ、坪当たり5万~6万円強ということで、さらに上昇・・・まさに貸し手市場の様相です。
写真②は、今年年末までに新テナントに引き渡すための準備を進めているフロアですが、案内していただいた方からは、「現在、セントラル地区でまとまった空きスペースはここだけ、貴重な物件ですよ」 ということで写真に収めさせてもらいました。年末までに大手金融ベンダーが入る予定とのことです。
九龍イースト再開発により資産価格上昇が期待される
みなさんは香港国際空港(旧啓徳空港)をご存知でしょうか? 90年代後半までの香港国際空港(旧啓徳空港)は市街地のど真ん中にあり、高層ビルをかすめながら着陸する飛行機の軌道は壮観で、最もパイロットのスキルが要求される空港(?)と言われていました。その空港も1998年に閉鎖され、足元ではその周辺地区を含めた本格的な再開発が始まっています。
今回、香港政府の当地区再開発出先機関とミーティングを持つことができました。政府再開発地区、民間再開発地区から構成され、合計約148万坪が対象となっていますが、政府再開発地区の開発が順調に進捗中であることを確認しました(写真③)。
また、既存産業用物件からオフィスや商業施設物件への転換といった民間部分の再開発も加速している状況が理解できました(写真④)。最終的には350件のオフィス・商業施設ビルが林立し、“第2のCBD(Central Business District)地区”となる計画とのことです。
現在、オフィス賃料は香港島セントラル地区の3分の1ですが、10年後にはその差を縮め、九龍半島側では最も賃料の高い地域になっているかもしれません。財政状況が健全で、懐の潤っている香港政府の強いコミットメントを感じました。
なお、この再開発地域のど真ん中に、リンクREITという大手REITが開発用地を取得しています。その他、既に複数の物件がREITに組み入れられていますが、賃料上昇と共に資産価値アップが見込まれるところです。
商業施設は高級品とそれ以外で対照的な動き
以上はオフィスを中心とした不動産市況でしたが、ここからは商業施設についてのお話です。商業施設については、中国からの旅行客減少に伴い、特に目抜き通りに面した高級ショップ(ジュエリー、時計等の宝飾品)の売上げが落ち、一部店舗撤退というのも目に付きました。
一方、REITに組み入れられている物件に関しては、日用品を中心に取り扱うモールが多く、売上げは前年同期比でプラスの伸びを確保できているようです。典型的物件は、高層マンションの直下に大型ショッピングモールを配置するもので、後背地に需要を抱えているためテナント売上げは伸びている様子です(写真⑤)。なお、今回の往訪が、中華圏の人々にとって重要なイベント、中秋節の直前でもあったことから、物件視察においても混雑ぶりが確認できました(写真⑥)。
アジアREITの魅力
今回の訪問で、①オフィス需給の引き締まり、②日用品を扱う商業施設物件の堅調な売上げ、から改めて香港REITに関して、業績の底堅さを確認することができました。株式市場の下落を受け、REIT市場も同様に下落していますが、その結果、投資妙味が高まっています。ポイントとしては下記3点が挙げられます。
① 投資口当たり配当金は堅調な伸びを継続 ⇒ 今年の伸びの予想+5%程度は確保
② 投資口価格水準は割安 ⇒ NAV(ネットアセットバリュー)倍率でみて0.7倍
③ 魅力的な利回り水準 ⇒ 4.9% (S&P 香港REIT指数)
出所:Bloomberg、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスのデータを基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
*いずれも2015年8月末基準
REIT投資については、その裏づけとなる組み入れ資産のチェックが欠かせません。今回の往訪で、中国景気動向や米国利上げと言った外的要因にも関わらず、香港REITの組み入れ物件については、概ね堅調な推移を見込むことができました。今後REIT市場は中期的にみて投資機会を提供していくものと見られます。
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 高垣 勝己