この記事の読みどころ

中国では、経済活動の大きな部分を占める国有企業が経済成長の妨げになっています。

改革がなかなか進まないのは、国有企業が利権のかたまりとなっているためです。

中国政府はインフラ関連企業の合併で巨大企業を誕生させ、輸出競争力を高めようとしています。しかし市場主義に逆行する改革が成長を抑えることになりかねません。

国有企業中心の経済構造が成長の妨げに

中国で今、何が起きているのか。今回は、中国政府が進めようとしている国有企業の改革について取り上げます。

なぜ中国で国有企業改革が必要なのでしょうか。それは、中国の経済で主要な部分を占める国有企業が非効率な体制のまま温存され、経済成長の妨げになっているからです。

中国政府は国有企業改革を推進することをこれまでも何度にも表明していますが、その実行は遅々として進んでいません。

国有企業は利権のかたまり

中国では、市場経済となっている今でも国が過半の資本を持つ国有企業が経済活動の大きな部分を占めています。上場企業でも、銀行を始め、石油、自動車、鉄鋼、通信など従来型の産業は国有企業が中心です。

鉄鋼などは過剰設備で赤字が続いている企業が多く、国が統廃合を指示してもなかなか整理・淘汰が進みません。また、新規参入が制約されるなど、硬直的な経済構造となっています。

これは、国有企業が共産党幹部に支配されていて、利権のかたまりになっているためです。中国で大金持ちが多いことは有名ですが、その多くが国有企業の幹部です。彼らが現在の経済構造を変えたがるはずがありません。

特に地方政府が管轄する国有企業では、監視の目が行き届いていないため汚職が絶えません。また、環境や2015年8月の天津大爆発のように安全規制が利権に絡んで規定通りに運用されないため、深刻な問題となった可能性も否定できません。

国有企業改革の気運は2度目

1978年の改革・開放政策以降、自由な経済活動が全土に広がり、中国は高成長を遂げました。しかし従来からの非効率な国有企業が経済成長の妨げとなり、1990年代後半に成長率が下がりました。

これに危機感を抱いた当時の朱鎔基首相が、国有企業のリストラを断行するとともに香港市場などへの上場を進め、2000年代に入り中国経済は復活しました。

当時の改革が成功したのは、国有企業の上場によって新たな価値が生まれ、それを共産党幹部が利権とすることができたからだとも言われています。

合併による巨大化で輸出競争力の向上を狙う

現在中国政府が進めようとしている国有企業改革は、民間資本の導入を促進させるもの(「混合所有体制」の推進)もありますが、大きく動いているのは合併により国際的に見ても巨大な企業を誕生させ、競争力を高めようというものです。

今年6月、中国1、2位の鉄道車両メーカーである中国北車と中国南車が合併し、「中国中車」が生まれました。合併前の両社はそれだけでも巨大企業だったのですが、日本経済新聞の報道によれば、「中国中車」は地下鉄車両で世界シェアの半分を占める超巨大企業となりました。

最近では建設会社や海運会社などの合併観測が、株式市場の話題となりました。中国政府は、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立や、アジアから欧州に至る経済圏構想の「一帯一路」などと一体となって、近隣諸国などへお得意のインフラ関連産業の輸出を狙っているようです。

合併による寡占化は市場主義に逆行

しかしこのような合併で、本当に経済成長力が高まるでしょうか。合併により寡占化が進み、自由な経済活動が制約される恐れはないでしょうか。

財務省「フィナンシャル・レビュー」を見ても、中国政府は「市場経済に決定的な役割を与える」とし、経済改革を深化させると言っていますが(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号)、実際には国による統制が強まっているように見えます。

【2015年10月17日 沢田 高志】

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沢田 高志