博報堂生活文化研究所の「家族30年変化」の研究結果によれば、家庭の総合的な決定権が夫にある家庭が38.7%と、30年前の72.4%から半減しているのです。

30代以下の夫婦に限っては、妻に決定権がある家庭の割合が逆転しています。

別の調査では、妻が財布のひもを握っている家庭は全国で半数近くに上り、夫の倍以上となっています。家計の管理は、家事と地続きの仕事ではありますが、家庭においては「女性の決定権が強い」という経済や政治の世界との逆転現象があります。

家庭と仕事の両立に疲弊する妻と仕事で疲れた夫…悲しいすれ違い

プリンストン大学教授であり、「世界の頭脳100」に選出された実績を持つアン・マリー・スロータさんは、『仕事と家庭は両立できない?「女性が輝く社会」のウソとホント』(NTT出版/2017年)の中で、以下のように述べています。

その昔、女性は家事を取り仕切り、その中で自信を持って力を発揮していた。男性は仕事の世界を支配し、その中で自信を持って生きていた。(中略)稼ぎ頭となってなお毎晩食事のしたくを欠かさず、同時に冷蔵庫に貼ってある航空交通管制のような予定をこなす女性は、スーパーウーマンだ。40年前の女性よりもへとへとに疲れ果て、幸せでないとしても、少なくともスーパーウーマンには違いない。


女性は、結婚・出産を経て「働き続ける」という選択をした場合でも、職場や子ども、時には夫に対して二重、三重の罪悪感を抱きながら仕事を続けると同時に、家事と育児を夫より多く担う傾向にあります。

家庭を1つの会社に例えれば、より多くの責任ある仕事を担う側の発言権が増すのは自然な流れだと言えます。

一方の男性は、社会に出て「個人の業績を上げ、競争社会に身を置くことに」を求められるものの、実際に競争に勝つことができるのは、少数派です。多くの男性には「ロールモデル」が不在で、正解の選択肢が限られている苦しさを抱えています。

世間から、そして女性から「家事や育児への協力」を期待されながらも、「あくまでも協力」というレベルで、結局は女性が育児と家事を自らのテリトリーに囲い込み、男性が主体で行うことを心からは望んでいないことも、前出の著書で指摘されています。

背景には「女性の方が家事や育児が得意」という思いこみと、男女が育つ過程で刷り込まれていった性別ごとの役割分担などもあるとされています。

「本物の平等とは、職場と同じ平等が家庭でも実現されるということだ。そして、それは、家の中が一変するということだ」とスローターさんは、述べています。

今後さらに共働き家庭が増えていくと思われますが、男女が互いへの思いやりを維持するためには、時間とお金の余裕が、欠かせない要素となります。

男女格差を縮めるには、職場の平等が先か、家庭の平等が先か。それとも、相互に影響し合って変わっていくのか。「家庭の居心地が悪い」とボヤく男性と、「旦那はATM」とあきらめ混じりに自分に言い聞かせる女性の溝は、社会の変化で埋まっていくのでしょうか。

【参考】
The Global Gender Gap Report 2018(WORLD ECONOMIC FORUM)
家族30年変化」調査結果」(博報堂生活総合研究所)
47都道府県別 生活意識調査2018(生活・家族編)(ソニー生命保険株式会社)
仕事と家庭は両立できない?「女性が輝く社会」のウソとホント』(NTT出版/2017年)

北川 和子