現在、さまざまな種類の税金が課せられている自動車。たとえば、購入時の自動車取得税、所有者が年に1回払う自動車税や軽自動車税、ガソリンにかかる揮発油税、新規登録時や車検時に払う自動車重量税など、クルマを持っているユーザーは、さまざまな場面で税金を払っています。

このような状況に対して、先日、新たに自動車関連税制の改革の方針が発表されました。しかし、その内容が物議を醸しているようです。

政府が「走行税」を導入検討

燃料を使わない「電気自動車」の本格的な普及や、クルマを所有せずに共有する「カーシェアリング」の活発化など、自動車を取り巻く環境は、以前と比べて大きく変化しています。これらの動きが今後さらに進むと見られることから、政府は走行距離に応じて税金を課す「走行税」の仕組みを検討する方針を示したのです。

走行税導入の理由として、電気自動車だと「排気量」はゼロであり、カーシェアリングでは「所有者」が少なくなって販売台数自体も減ります。そのため、「排気量を目安にし、所有を念頭に置いた」現在の自動車関連税の体系では税収が落ちてしまうと見込んでいるのです。政府としては「公平で合理的に税収を得るための対応」だとしています。

しかし、この発表に関しては、多くの反発の声が寄せられています。

車がないと生活ができない地方

たとえば、Yahoo!の意識調査「走行距離に応じた車の課税をどう思う?」においては、簡易なインターネット調査ではありますが、賛成23.6%(5772票)、反対71.7%(17530票)と、反対派が大きく上回っています。ネット上では、特に地方のユーザーを念頭に、

「現状で車ないとどこにも行けない人から搾取しようとか正気とは思えん」
「走行距離で税金増えるようになったら、田舎じゃ暮らしてけねえっつーの」

といった声が上がっています。

現在の地方都市や農村部では、鉄道やバスなどの公共交通網は貧弱です。実質的な交通手段が車しかないため、一家で複数台を持ち、通勤・買い物・通院などで各々が運転することが一般的であり、車は生活必需品です。その上、施設同士の距離が離れているため、走行距離が長くなる傾向があります。加えて、地方では電気自動車やカーシェアリングはあまり普及しておらず、ガソリンで動く自家用車が大半を占めています。

「若者のクルマ離れ」の実際

東京など大都市圏の在住者が中心となってつくっているメディアでは、よく「若者のクルマ離れ」が叫ばれ、都市部に住んでいると、若者は一律に自動車に乗らなくなったように勘違いしてしまいますが、地方では生活の必要から、クルマは「離れられない存在」でもあるのです。

もちろん、地方においても、以前のように「ステータス」や「趣味」として自動車を持つ層は各種の調査でも減っており、若者の興味が以前より離れていっていることはありますが、「移動手段」としての自動車の必要性はまた別問題でもあります。

実際、新車の販売台数は落ちていても、自動車検査登録情報協会の調べによる日本における乗用車(軽自動車を含む)の保有台数は近年も一貫して増加傾向にあります。1998年に4868万台だったのが、2008年に5755万台、2018年には6158万台に達しています。また、国内で1世帯あたりの自家用自動車の保有台数が1台を切っているのは、東京(1世帯あたり0.439台)、大阪(0.648台)、神奈川(0.714台)、京都(0.825台)、兵庫(0.915台)、埼玉(0.980台)、千葉(0.982台)の7都府県だけしかありません。

この数字は、いわゆるナンバープレートをつけている車の台数であり、廃車手続きをしないまま放ってあるようなクルマなども含まれることや、そもそも自動車の買い替えサイクルが長くなっていること(「持ち」がよくなっていることや、経済的な不安による買い替え控えなど)などの影響もあると考えられますが、ともあれ、特に地方においては、「クルマ離れ」どころか「クルマがないと生活できない」状況なのは変わらないといえるでしょう。

地方の過疎化がますます加速する!?

税金に話を戻すと、そもそも自動車には、冒頭にも述べたように、いくつもの税金が課せられています。そうした上で、走行税の意義・名目が定かでない点でも反発を呼んでいます。

「ガソリン税の上に走行距離税をとるのはあまりにもひどくないの?」
「税金とる口実作りたいだけだろアホか。そもそも重量税あるだろ」

また、地方生活の負担増加から、過疎化の促進を恐れる意見もあります。

「しかたなく車を使っている地方在住者から税金を搾り取るんですか。そうですか。何が地方創生だよ!」
「払う税金は増え、職も少なく給料は増えない。地方の過疎化が、ますます進む気がするのだが…」

生活の「不安の種」に

走行税はまだ検討段階ですが、今年の10月には消費税率を10%に上げることが予定されています。また、水道事業民営化を目的とした改正水道法が成立し、水道料金が高騰するのではないか、という危惧もあります。予期される生活への圧迫には悲鳴も上がっています。

「どんだけ国民からお金を搾取したいんよ…消費税も10%に上がるし勘弁してくれ」
「水道民営化やばいし走行税とかアホみたいなのもやばいし消費税はあがっちゃうしお偉いさんたちにあらゆる方向からころされる」

また、自動車産業は、トヨタを筆頭に日本の基幹産業の一つであり、子会社や孫会社、関連企業を含めて非常に裾野の広い産業でもあります。消費税アップに加えて走行税が導入されれば、国内需要が減退する可能性は否めず、自動車産業に大きな影響を及ぼすでしょう。

まとめにかえて

確かに電気自動車もカーシェアリングも認知度が高まってきており、環境に配慮する上でどちらも促進するべきものでしょう。将来的には、走行税として税収を得るのは、合理的で納得できる措置かもしれません。

しかし、現状で、自動車の大きなユーザー群の一つは地方生活者であり、地方生活者は使用頻度・走行距離などからカーシェアリングはまだ現実的とはいえず、また電気自動車用の充電スタンドも普及しているとは言いがたい状況です。ヘタをすると過疎化をより促進してしまう「地方いじめ」の政策となる可能性もあります。

また、収入があまり増えないのに、税支出がさらに増えるとなれば、その分、家計は圧迫され、経済全体を見ても消費に悪影響を与えてしまうのではないでしょうか。

このように、大いに議論の余地のある走行税、みなさんはどう思われますか?

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