4. 70歳代以上夫婦世帯の生活実態に見る「老後資金」の必要性
これまでご紹介してきた各種データをもとに、70歳以上の夫婦2人世帯の家計状況をより具体的に見ていきましょう。
4.1 平均的な年金収入と生活費
総務省の家計調査によれば、70歳代の夫婦2人世帯の「年金収入」は、標準的なケースで月額約23万2784円とされています。
一方で、日常生活にかかる消費支出の平均は月約25万円前後。この時点で、すでに約2万円の赤字が生じています。
さらに実際の生活では、これに加えて税金や健康保険料といった非消費支出も発生します。
これらを含めると、実質的な支出はさらに増加し、家計の赤字幅も拡大するのが現実です。
4.2 赤字は貯蓄で補えるのか
年金以外に収入がない場合、この赤字分は貯蓄を取り崩して補う必要があります。
仮に70歳代夫婦の貯蓄額の中央値(約800万円)を保有していた場合、月5万円の赤字が続くとすると、その貯蓄でカバーできるのは約13年強(800万円÷5万円=160ヵ月)にとどまります。
つまり、「平均的な老後の生活」を送るだけでも、1000万円近い貯蓄が十数年で尽きる可能性があるという厳しい現実が見えてきます。
4.3 老後の備えに必要な3つの視点
「平均値」や「モデルケース」だけに頼らず、ご自身の具体的な数値でシミュレーションすることが重要性です。
老後に必要な資金を見積もるには、以下の3つのステップを参考にしてください。
- 自分の年金受給額を把握する(ねんきん定期便やねんきんネットを活用)
- 具体的な生活費を把握する
- 現在の貯蓄額と、今後の資金計画を確認する
これらを踏まえて老後資金を逆算すれば、「あといくら備えるべきか」が見えてきます。
老後資金を準備する方法はさまざまですが、今後のインフレに備えるためにも、物価上昇時に目減りしない現金以外の資産を持つことも大切です。
銀行預金等での貯蓄だけではなく、運用益が期待できる資産運用も検討しましょう。
5. まとめにかえて
70歳代の無職夫婦世帯では、毎月の赤字が平均約2万円に達し、それを貯蓄で補う生活が続いています。
貯蓄の中央値が約800万円という現実を踏まえると、仮に月5万円の赤字があれば約13年で資金が底をつく計算となり、人生100年時代においては大きなリスクとなります。
こうした背景から、自分の年金額や日々の生活費を把握し、今ある貯蓄と将来の支出を見積もることが重要です。
安心した老後を迎えるためにも、貯蓄や資産運用などによる準備を始めていきましょう。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
加藤 聖人