2015年8月10日、米グーグルから株式市場を驚かせる組織再編に関する発表がありました。
新体制下では、グーグル創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは新規事業の立ち上げに専心するとしています。
株式市場では、グーグルの新規事業投資に懐疑的な見方をする向きもあり、こうした圧力が組織再編の一因になっている可能性も考えられます。
今回は、2023年に過去の組織再編を経て株価がどのように推移したのかを見ていきます。
最初に2015年の再編の内容について振り返りましょう。
組織再編のポイント
2015年8月10日に、グーグルから株式市場を驚かせる発表がありました。それは、新会社「アルファベット」を設立し、現在グーグルで手掛ける検索事業などを新会社の傘下に収めるというものです。
インターネット広告の覇者グーグルはなぜ新会社を設立してまで組織再編を行わなければならなかったのでしょうか。グーグル創業者であるラリー・ペイジのブログを引用しつつ見ていきます。
グーグルはどう変わっていくのか
はじめに、今回の新会社「アルファベット」により、グーグルがどのように変わるのかを見ていきます。アルファベットはこれまでのグーグルだけではなく、これまでグーグルが抱えていたインターネット広告事業とはかけ離れた事業を抱えることになります。これまでのグーグルはアルファベットが今後傘下に収める事業を外部に切り出すことによって、規模は若干小さくなります。
グーグルから切り出される事業とは
それでは、これまでのグーグルから切り出されるインターネット事業とは関係性が小さな事業とはいったいどのような事業でしょうか。ペイジは、グルコース感知のコンタクトレンズを扱うライフサイエンス事業や長命にフォーカスしたCalicoをあげています。
「アルファベット」傘下の各事業の経営はどう変化するのか
ペイジは「アルファベット」傘下に置かれた事業の経営がどのように変化するのかについてもコメントしています。基本的には、各事業にはCEOを責任者として就任させ、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは必要があれば、彼らをサポートする役に回るとしいています。ペイジとブリンは、資金配分と各事業が実行されるかどうかを管理するという役回りになります。
こうした考え方は、グーグルの「アルファベット」に限った特異なものではなく、「持株会社」と呼ばれる組織形態ではよく用いられる考え方です。日本企業でも、××ホールディングスといった社名の会社は基本的に持株会社方式で運営されています。
創業者2人は新規事業の立ち上げに専心
資金配分と各事業の実行管理という責務はあるものの、ペイジとブリンは新規事業の立ち上げに専心するとしています。「アルファベット」はドローンを扱うWingを含むXラボ(いわゆる、グーグルXプロジェクト)やベンチャーキャピタルなども傘下に抱えることになるとしています。
新会社の社名「アルファベット」に込められた意味とその背景とは?
新会社の社名からは投資家を強く意識する姿勢が読み取れる
ペイジはブログの中で新会社名「アルファベット」の意味を解説しています。Alphabetは、Alpha-betであるというのです。プロ投資家である機関投資家は、資産運用の中で「アルファ」、つまりベンチマークを上回る超過収益を目指して運用します。そのアルファに「ベット」、つまり「賭ける」という意味があるというのです。なんと投資家や株式市場を意識した名前でしょうか。
ペイジがここまで投資家を意識した発言をするには理由があります。それは、グーグルはこれまで、中核事業であるインターネット広告事業以上に収益性が高く、市場規模がある事業を見いだせていません。結果、米国の株式投資家が重要視するROEは右肩下がりになっていました。
グーグルは様々な事業に投資をしてきましたが、一部の投資家からは、投資先のリターンが外部から確認しにくいこと、またいつ収益化するか見通しのない事業、いわゆる「ムーンショット」事業などの開示姿勢についての疑問がありました。加えて、そうした新規投資や事業に理解のない株主からは、理解できない投資をやめて配当などの株主還元をせよという声もあったようです。
今回、グーグルからアルファベットへと組織変更するに至ったのには、ペイジとブリンが新規事業に専念できるような体制を作ったということ以上に、先にコメントしたような株式市場からの意見が影響したと考えるのが自然です。
新会社の社名には、文字テキストに対する強いこだわりも感じられる
現在、グーグルがこれまで実現してきた成長スピードに対して投資家から疑問符がついている理由には、グーグルがインターネット検索による広告事業から動画広告へスムーズに移行できるかという点もあります。そうした中でも、グーグルが動画ではなく、文字テキストの象徴たる「アルファベット」にこだわっているところを見ると、グーグルが組織変更だけではなく、新たな事業モデルを確立できるかどうかにはもう少し見極めが必要なようです。
2015年から2023年までの株価の推移はどうであったのか
最後に、株価の推移についてみていきましょう。ここでの株価は分割後などの影響を考慮して記載しています。
2015年7月末時点では32ドル台であったのが、2023年1月時点では88ドル台となっています。
株価は3倍というわけにはいっていませんが、大きく上昇しています。
もっとも、その間に151ドル台にまで達していますから、株価は5倍近くにまで上昇したことになります。
米国の利上げにより成長株の株価下落は大きなものとなっていますが、ここまでのアルファベットの取り組みは悪くはない、というのが実際のところです。
LIMO編集部