6月は公的年金の支給月。定年後も働き続ける人が増えるなか、「在職老齢年金」など働きながら受け取る公的年金の仕組みに注目が集まっています。近年、基準額は年々引き上げられており、厚労省は2026年4月に62万円への引き上げを検討中。これは、シニアが安心して働き続けられる環境づくりの一環でもあります。今回は「高齢社会白書」のデータをもとに、シニアの就労実態と年金の調整ルールについてわかりやすく解説します。
1. 「働くシニアが増えている!」その実態と就労意欲
内閣府が公表している「令和6年版高齢社会白書」をもとに働くシニアについてみていきましょう。
1.1 65歳代後半は過半数、70歳代前半の3人に1人、75歳以上は10人に1人が働いている
まずは、労働力人口比率の推移についてみていきましょう。
労働力人口は15歳以上の「働いている人(就業者)と、働きたいのに仕事がない人(完全失業者)」を合わせたものです。
令和5年の各年代の労働力人口比率はこちらです。
- 15~64歳 :81.1%
- 65~69歳 :53.5%
- 70~74歳 :34.5%
- 75歳以上:11.5%
労働力人口比率の推移について、2つのポイントにそって解説します。
全ての年齢層で働く人が増加
2003年以降、15歳以上の全年齢層で労働力人口比率が上昇しています。これは、女性の社会進出加速、年金制度改正等による高齢者の就労意欲向上、人手不足を背景とした企業の高齢者雇用拡大、景気回復による雇用機会増加などが複合的に影響しているといえるでしょう。
70歳代前半の3人に1人が働いている
労働力人口比率をみると65歳以上の労働参加が顕著に増加しているのがわかります。75歳以上は2003年の約9%から2023年には11.5%まで増加しており、シニア層の就業意欲の高まりがうかがえます。
これらの労働力人口の推移をみると、日本の人手不足を補い社会全体を支えていくためにも女性やシニア層の働きがますます重要になっていることがわかります。
1.2 シニア層の就労意欲は高い
次に、全国60歳以上の男女を対象にした就労意欲に関する調査をみていきましょう。
「あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか(択一回答)」への回答がこちらです。
全体
- 65歳くらいまで:25.6%
- 70歳くらいまで:21.7%
- 75歳くらいまで:11.9%
- 80歳くらいまで:4.8%
- 働けるうちはいつまでも:20.6%
- 仕事をしたいとは思わない:13.6%
- 不明・無回答:1.9%
収入のある仕事をしている者
- 65歳くらいまで:11.6%
- 70歳くらいまで:23.4%
- 75歳くらいまで:19.3%
- 80歳くらいまで:7.6%
- 働けるうちはいつまでも:36.7%
- 仕事をしたいとは思わない:0.8%
- 不明・無回答:0.6%
「あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか(択一回答)」への回答から読み取れるポイントを2つ解説します。
全体のおよそ6割が「70歳以上も長く働き続けたい」と意欲がある
全体のおよそ6割(58.9%)が「70歳くらいまで」「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」「働けるうちはいつまでも」と回答しており、多くの高齢者が長期間にわたり仕事をしたいと考えていることがわかります。
今働いている人は「働けるうちはいつまでも」と就労意欲が高い
収入のある仕事をしている人に絞ると、全体のおよそ4割(36.7%)が「働けるうちはいつまでも」と回答しています。これは全体の割合(20.6%)と比較して顕著に高く、実際に仕事をしている高齢者ほど、定年を意識せず、体力や健康が続く限り働き続けたいという意向が強いことが見て取れます。
高齢者の就労は日本の労働力不足を補うだけでなく、個人の生きがいや社会貢献にもつながっています。しかし、長く働き続ける上で、年金との兼ね合いは重要な課題になります。次は、働きながら年金を受給する際のポイントとなる「在職老齢年金」についてみていきましょう。
在職老齢年金とは
「在職老齢年金」とは年金を受給しながら厚生年金保険の被保険者として会社で働いている場合に、年金と給与(働いた報酬額)の合計に応じて年金の一部を支給停止するなどして「年金支給額を調整する仕組み」のことです。
要するに、年金を受給している高齢者の給与が多くなると、年金が減額されることになります。なお、調整される年金の対象は老齢厚生年金です。老齢基礎年金は減額されることなく受け取ることができます。
2025年度は、年金と給与の合計が51万円以上になると、在職老齢年金で支給調整の対象になります。
この在職老齢年金の基準額は年々増加しており、厚生労働省は在職老齢年金の基準額を2026年4月には62万円に引き上げるなど大幅な引き上げを検討しているようです。これらの基準額引き上げは、シニアが安心して長く働けるよう支援し、日本の社会を支える労働力として、その活躍を後押しするものです。
1.3 在職老齢年金の支給調整ルールを確認
では3つのケースにそって、65歳以上の在職老齢年金による調整後の老齢厚生年金月額について計算してみましょう。
計算は、年金の基本月額(加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額)と、毎月の給与(総報酬月額相当額)を用いて行います。
在職老齢年金による調整後の老齢厚生年金の支給月額の計算式はこちらです。
=基本月額-(年金の支給月額+毎月の給与-51万円)÷2
ケース1.給与20万円・年金20万円
20万円-(20万円+20万円-51万円)÷2
→基準額の51万円を超えないので、年金は支給停止されません。
(年金は全額受給できる)
ケース2.給与40万円・年金20万円
20万円-(20万円+40万円-51万円)÷2=15万5000円
→年金は4万5000円が支給停止されます。
ケース3.給与65万円・年金10万円
10万円-(10万円+65万円-51万円)÷2
→年金の支給月額10万円より支給停止額12万円のほうが高くなるので、年金は全額停止されます。
なお、65歳未満の方については、令和4年3月以前の年金に関して支給停止の仕組みが現在と異なるため、別の計算方法が適用されます。
また、平成19年4月以降に70歳を迎えた方が、70歳を超えても厚生年金の適用事業所で働き続けている場合、厚生年金の被保険者には該当しませんが、「在職老齢年金」として年金の支給が停止されることがあります。
1.4 年金の上乗せ部分も計算に含まれる?
在職老齢年金の支給停止対象となる部分は主に、老齢厚生年金(報酬比例部分)の本体部分です。なので、
加給年金(家族に対する上乗せ)や経過的加算(老齢基礎年金の代替的な役割)、繰下げ加算額(年金受給を遅らせたことによる上乗せ)などの本体部分の上乗せ部分は計算に含まれません。
しかし、老齢厚生年金の月額より、支給停止額が高くなって年金が全額停止されるときは、年金の基本月額と加給年金の両方が全額支給停止になるので注意が必要です。
2. 支給調整ルールを把握して、働きやすい就労環境を整えよう
今回は「高齢社会白書」のデータをもとに、シニアの就労実態と年金の調整ルールについて解説しました。
今後も長く働き続けたいと考える方にとって、年金制度の理解はとても重要です。「働き損」感をなくし、年々引き上げられている「在職老齢年金」の支給調整額ですが、今後の動向を見守っていきたいですね。
参考資料
村岸 理美