「けもなれ」の晶は、現代社会が女性に押し付けてきた女性像そのもの

ドラマ「獣になれない私たち」

視聴率こそあまり伸びていませんが、今期放送されているドラマの中で、筆者が最も夢中になっているドラマが「獣になれない私たち」(日テレ系、水曜22時)。

まさか橘カイジが”ずん”の飯尾さんだったなんて! 晶と朱里、徐々に仲良くなってるじゃん! 千春さん、晶と京谷が別れた上に介護してた夫も亡くしてこの先大丈夫? などなど、先週の第8話で巻き起こった大きなストーリー展開には一喜一憂。テレビの前で一人、盛り上がっていました。

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そんな「けもなれ」にどうしてこうも惹かれているのかというと、新垣結衣さん演じる主人公の深海昌に心揺さぶられてしまうから。そして、現代女性が観るべきポイントがあらゆるところに散りばめられているからです。

「けもなれ」の最終回が目前に迫った今、筆者を夢中にさせる理由を考えてみます。

晶は現代女性が社会から固定観念を押し付けられている姿そのもの

「けもなれ」の主人公である晶は、周りに気を遣い、常に笑顔でいるため精神的にすり減ってしまう30歳。ECサイト制作会社の営業アシスタントのはずが、やる気や能力のない同僚やパワハラ社長から次々と仕事を押し付けられますが、強い責任感と細やかな気遣いで完璧にこなしていきます。彼氏の京谷のだらしなさや嘘も、許してしまうのです。

晶は見る人によっては、優柔不断で流されやすく、周囲に良い顔をしたいだけのお人良しに映るかもしれません。実際に、「晶のような人が周りにいたらイライラする」という声もちらほら聞こえます。

しかし、晶は社会が「女性はこうあるべき」と指し示してきた姿の集大成なのではないでしょうか。「女は愛嬌」「気遣い上手」「良妻賢母」「浮気を許すのがイイ女」など、これらの言葉はまさに晶に当てはまります。

晶が自分の殻を破って自分らしさを取り戻そうとしている本作は、そんな社会全体や男性から押し付けられている理想の女性像に対して、女性自身が反発して自分の人生を取り戻してほしいといったメッセージが暗に込められているような気がしてしまうのです。

単純なラブストーリーへの「NO」

ドラマでも映画でも、世の中に溢れる胸きゅんラブストーリー。確かに、壁ドンや頭ポンポンなど、好きな人にとってはたまらないドキドキを与えてくれるかもしれません。しかし、筆者のように胸きゅんに対して興味がない人間からすると、「もう、胸きゅんはいらないよ!」と声を大にして言いたくなります。あまりにもコンテンツとして世の中に多すぎて、「女子ってこういうの好きでしょ?」と決めつけられているかのように感じてしまいます。

「けもなれ」は「ラブストーリー」ではなく、「ラブかもしれないストーリー」。晶と、もう一人の主人公である恒星は、バーで出会ってしばらく経っているのに恋愛モードになかなか入っていきません。ここまでのストーリーでは、この二人の恋愛よりも、お互いが抱えてきた過去や人間関係の清算などに長い時間を割いてきました。

「けもなれ」には、出会って恋をして喧嘩をしてトラブルを二人で乗り越えて…といった単純明快なラブストーリーに、真っ向から「NO」を突きつけている潔さを感じます。恋愛する余裕がない現代人の生きづらさ、そしてそこからもしかしたら奇跡的に生まれるかもしれない恋。「恋愛なんて、人生においてはそれくらいの位置づけだよね」という本作のスタンスは、“胸きゅんラブストーリー疲れ”をしている筆者には、心地良さをもたらしてくれるのです。

安易な女の対立がない安心感

参考記事

ニュースレター

秋山 悠紀

早稲田大学文化構想学部出身。女子高でサッカー部、フリーター、演劇活動、編集プロダクションなどを経て独立。
子育てへの不安から1年半の保育園勤務の後、第一子を出産。
現在、長男を育てながら女性の生き方、子育て、ジェンダー、社会、旅、ドラマ、映画について執筆中。