3. 国民負担率から想定される日本経済の課題

日本は世界と比べると国民負担率が高いとはいえません。しかし、内閣府の「2023年度(令和5年度)国民経済計算年次推計(フロー編)」によれば、2023年度の名目GDPが4兆2137億ドルなのに対し、同年度の1人あたりGDPは3万3849ドルでOECD加盟国中第22位と、経済状況は改善しません。なぜ国民負担率以上に私たちの生活は苦しさを感じるのでしょうか。

3.1 要因のひとつは実質賃金の低下

要因のひとつとして、実質賃金の低下が挙げられます。実質賃金とは、労働者が受け取る給与(名目賃金)から物価変動の影響を除いたものです。OECDの「OECD雇用見通し2024」によれば、日本は実質賃金がマイナスとなっており、OECDの平均実質賃金を下回っています。

世界の実質賃金

世界の実質賃金

出所:OECD「OECD Employment Outlook 2024: The Net-Zero Transition and the Labour Market」をもとに筆者作成

国内の統計もチェックしてみましょう。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」を見てみると、2024年度平均の名目賃金は2.8%ですが、実質賃金は▲0.3%となっています。物価の上昇が賃金の伸びを上回っており、実際に消費に使えるお金は減っています。食料費やエネルギー費といった生活に必要なモノの価格も上がっており、私たちの生活はなかなか改善されない状況なのです。

3.2 国民負担率は今後も増加の可能性あり

国民負担率は今後さらに増えると考えられます。後期高齢者医療保険への加入者が増えるためです。

2025年は、団塊世代が全員75歳以上になるため、それまでの健康保険から後期高齢者医療保険へ移行します。後期高齢者医療保険の被保険者は医療費の負担が原則1割です。高齢により病院を利用する機会も増え、医療給付がこれまでよりも増える可能性があるのです。

医療給付が増えれば、社会保障への財源に充てている消費税や健康保険料の徴収額も増えると考えられます。よって、国民負担率がさらに上昇し、現役世代の可処分所得を圧迫しかねないのです。

4. まとめ

日本の国民負担率は世界に比べると決して高くはありませんが、経済状況を考慮すると割合以上の負担を感じるものとなっています。今後国民負担率や物価がさらに上昇すれば、私たちの生活はますます苦しくなるでしょう。

一時的な賃上げだけでは、社会保険料の増加などに効果をかき消され、なかなか経済の回復が見込めないでしょう。国の財政だけを意識した施策ではなく、国民の生活に寄り添った施策が求められます。

参考資料

石上 ユウキ