2. 年金の繰上げ受給は「損」なのか?!

結論として、繰上げ受給が得か損かは、その人の「寿命」によって大きく左右されます。

たとえば、年金を早く受け取り始めたことで金額が減っても、もし66歳で亡くなった場合には、結果的に繰上げたほうが総受給額は多くなります。

一方で、長生きして85歳を超えるようなケースでは、通常どおり65歳から年金を受け取り始めたほうが、結果として総受給額が多くなります。

もちろん寿命には個人差がありますが、厚生労働省のデータでは、男性の平均寿命は「81.09歳」、女性は「87.14歳」とされています。

とはいえ、これは「平均寿命」であり、病気や介護を必要とする期間も含まれており、元気に自立した生活を送れる「健康寿命」は、それよりも短い傾向があります。

そのため、年金の受給時期を考える際には、単に平均寿命を基準にするのではなく、自分の健康状態や生活の見通しを踏まえて検討することが大切です。

では具体的に、繰上げ受給を選択した場合、どのタイミングまで「総受給額」がお得になるのでしょうか。

3. 「60歳 vs 65歳」それぞれの損益分岐点は?

次に、「60歳」と「65歳」で年金の受給を開始した場合のシミュレーションを見ていきましょう。

厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均月額は約14万円とされているため、今回はこの金額を基に試算を行います。

65歳から90歳までの期間において、「繰上げ受給」と「本来の受給」を選んだ場合に受け取る総額は、以下のようになります(表2)。

(表2)「繰上げ受給」と「本来の受給」

「繰上げ受給」と「本来の受給」

厚生労働省・日本年金機構の資料を参考に筆者作成

80歳の時点では、「繰上げ受給」の方が受け取る年金額が多く、この時点では繰上げ受給が「お得」と言えます。

しかし、85歳に達した時点では、65歳から受給を開始した場合が最も多く、85歳以降も「本来の受給開始」が最もお得な選択となります。

これらを踏まえ、自分のライフプランに合わせて最も有利な受給開始時期を選ぶことが重要です。