「国益」優先の効用。敢えてトランプ大統領を絶賛してみる

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トランプ大統領は問題も多いが、米国大統領としては優れた点も多い、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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米国で中間選挙が行われます。与党が議席を減らすのは米国人のバランス感覚の表れとも言われており、珍しいことではないので、今回もそうなりそうです。しかし、2年前にトランプ大統領が当選した時に「これで米国も世界もメチャクチャになるから、中間選挙で惨敗するだろう」と考えていた人は、予想が外れたわけですね。

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トランプ大統領に問題が多いことは、多くの人が認めるでしょうし、もちろん筆者も認めます。しかし、いまさらトランプ大統領の問題点を指摘しても二番煎じになるだけですから、本稿では敢えてトランプ大統領を絶賛してみることとしました。日本人の視点からではなく、世界のリーダーとしてではなく、米国の大統領として米国の国益に資しているか、という観点からです。

景気が拡大し、株価が上昇した2年間

一国の大統領にとって、経済がうまく行くということは、非常に重要な評価項目です。その点、米国は景気が順調に拡大を続け、失業率が低下し、株価が上昇しているということで、トランプ大統領は大変高い評価となるでしょう。

もちろん、トランプ大統領だけのおかげではありませんが、大統領選挙でトランプ候補の当選が決まってから株価が大幅に上昇したことを忘れてはなりません。当選と同時に「米国経済にとってトランプ大統領は大きな貢献をするだろう」という投資家たちの期待が表明され、それが2年経っても続いているのです。これは素晴らしいことです。

トランプ大統領は移民の制限に熱心です。それにより、企業は安い労働力が調達できずに困るかもしれませんが、労働者にとっては失業が減り賃金が上がり、まさに素晴らしい政策なわけです。どこかの国で「労働力が足りないから外国人を受け入れよう」といった議論がなされているようですが、企業寄りの政策で自国の労働者が困ることがないように慎重な対応を期待したいですね。

他国を犠牲にしても米国の利益は増えている

地球温暖化を防止するためのパリ協定(二酸化炭素などの排出量を各国が制限する協定)から、米国は離脱する意向のようです。それによって離脱が相次いでパリ協定が崩壊し、地球の温暖化が一気に進むようであれば、トランプ大統領の失政と言えたでしょうが、実際には他の諸国は離脱せず、米国だけが離脱することになりそうです。

そうなれば、「世界全体としては小幅な温暖化の進展によって損をするが、米国は得をし、他の諸国が大きく損をする」ということになりますから、米国の大統領としては「上手くやった」との評価となり得ましょう。

しかも、「米国に不利な内容だから離脱する」と表明することで内容の見直しの交渉を求めているわけですから、交渉によって内容が米国に有利なものに改定され、米国が離脱しないこととなる可能性もあるわけです。そうなれば、地球は温暖化せず、米国は他国とのゼロサムゲームに勝利した、という結果となるでしょう。

トランプ大統領は世界の貿易を拡大している

ケンカにはふた通りあります。一つはガキ大将が「オモチャをよこさないと殴るぞ」と言って欲しいものを脅し取る場合です。実際に殴ると自分も手が痛いから、殴ると脅すだけで相手がオモチャを差し出すことを期待しているのです。

トランプ大統領が「日欧等からの自動車輸入等に関税を課す」と脅して来たのは、これです。「世界貿易を縮小させ、米国自身も悪影響を受ける愚策だ」との批判を世界中から浴びていましたが、蓋を開けてみたら高率関税は課されていません。

それどころか、日本も欧州も「関税ゼロ等を目指した大がかりな貿易交渉を行う」ことで合意したのが現状です。当然ながら「米国は少し輸入を増やすから、日欧は大幅に対米輸入を増やす」ということで決着するのでしょう。メキシコ、カナダ等との交渉も、似たようなものとなるでしょう。

そうなれば、トランプ大統領は「世界の貿易を拡大させて世界経済を発展させたと同時に、米国の輸出を増やし、米国に雇用をもたらした大功労者」ということになるでしょう。

トランプ大統領は商売人ですから、取引が破談になってしまえば両者が損をすることを知りながら、破談にならないようにハッタリで相手の譲歩を引き出すのが上手なのです。さすがです。

対中国は、経済より安全保障の問題

ケンカのふた通り目は、相手を叩くことが目的となっている場合です。副社長派閥が台頭してきて社長を追い落とそうとしている場合、社長派閥は副社長派閥を叩き潰すために、いかなる犠牲も厭わないで戦うでしょう。米中関係は、これに当たります。

中国が米国の覇権を脅かそうとしていること、しかもそれが米国の技術を盗む等の不公正な手段によって成し遂げられようとしていることが米国で広く認識されるようになり、中国を叩く必要があるとの認識が米国で広がりつつあります。

したがって、もはや米中は貿易摩擦でも貿易戦争でもなく、覇権を懸けた冷戦状態と捉えるべきです。「相手を殴ると自分の手も痛い」「相手に殴り返されたら自分も痛い」などと言っている場合ではありません。「肉を切らせて骨を断つ」覚悟での戦いですから、経済の論理より安全保障の論理が優先しているのです。

したがって、米中冷戦はトランプ大統領だけの勝手な暴走ではなく、超党派の支持を受けた米国の大方針だと考えてよいでしょう。そして、本気で戦えば米国の圧勝は目に見えています。

超党派の大方針だとは言っても、やはり中国との戦い方に違いが出てくるのは当然です。トランプ大統領が積極的に戦い、勝利を収めれば、「米国の覇権を守った大統領」として歴史に名を残すことになるでしょう。

本稿は、以上です。冒頭で記したように、敢えてトランプ大統領を絶賛したものであって、筆者が全面的にトランプ大統領を支持しているということではありませんので、あしからず。

なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

参考記事

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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