皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

市場が不安的な状況に陥って、半月以上が過ぎました。このような局面であるからこそ、雰囲気に流されず、冷静に市場を見つめ続ける必要があると考えます。

さて、今週の記事のポイントは以下の通りです。

  • 米株式市場は、10月下旬以降も不安定な状況にある。この理由のひとつとしては、米景気、及び企業業績に対する不安感が大きくなっていることにあると思われる。
  • 米中貿易問題の米国への影響については、今後、顕在化する場合、どの程度まで、そして、どの時期から(貿易問題が)景気や企業業績を悪化させるかは難しい問題。
  • 米中貿易問題は、製造業の国内回帰を通じて雇用にプラスに働くものと考えることもできると思われることから、貿易問題によって個人消費が減速するかは予測が難しい。一方で、中国にビジネスを展開している企業などでは、投資を躊躇させる原因になる可能性。
  • 今後については、まず、企業部門の動向に留意が必要。

 

米国の株式市場では、米景気、及び企業業績に対する不安感が大きくなっているようです。10月下旬以降も不安定な状況にありますが、この理由としては、米新築住宅販売が予想比下振れしたことや一部の銘柄の決算発表の影響があると思われます。米景気や企業業績の悪化を懸念する理由としては、米中貿易問題の影響が顕在化したという記事を見かけることが多いように思います。どの程度まで、そして、どの時期から、貿易問題が景気や企業業績を悪化させるかは難しい問題です。

まず、最初に米国のGDPで約7割を占める個人消費について、考えてみましょう。関税措置が発動されることにより、モノの値段が上昇し(インフレ)、消費が抑制されるという考え方があります。一見その通りだと思ってしまいますが、モノの値段が上昇すると、皆さんは節約しますか(消費するお金を抑制しますか)? 逆に考えると、我が国のデフレ的な局面で、皆さんは消費支出を増加させましたか? むしろ、お金を節約し、将来への備え(貯蓄)を増やした方も多いのではないでしょうか。

収入や税金などが一定と仮定した場合、原則、消費は貯蓄の反対側と考えることができます。一般的には、貯蓄は、将来への不安が大きいときに増やされる傾向にあると思われます。インフレという観点で考えた場合、「生活の安定が保てなくなると人々が考えてしまうほどの(政府・中央銀行がコントロールできない)持続的な物価上昇に対する懸念」がある場合、将来への不安が大きくなると私は考えます。

この点、今回は、物価上昇率は限定的であり(9月の米消費者物価指数は前年同月比+2.3%)、また、関税措置による物価上昇は政府・中央銀行がコントロールできない持続的な物価上昇には、該当しないと思われます。

消費者のもうひとつの心配事である雇用について考えると、足元(9月)の失業率は3.7%と極めて低い水準まで低下しており、(将来はともかく)足元の雇用が好調なことに疑いを持つ方は、きわめて少数派であると思われます。加えて、米中貿易問題について考えてみても、この問題は製造業の国内回帰を通じて雇用にプラスに働くものと考えることもできると思われます。

たとえば、3月に制裁措置が発動された鉄鋼分野について、最近の動向をみてみましょう。10月24日に発表された世界の粗鋼生産量(9月)をみると、米国で前年比+9.0%と米国内での生産が増加しており、鉄鋼業という製造業が米国に回帰する兆しと考えることもできそうです(なお、将来はともかく、現状ではグローバルベースでも前年比+4.4%と堅調です)。したがって、米中貿易問題が米国の消費を抑制すると、一足とびに結論づけることはできないと考えています。

次に、企業部門について考えてみましょう。中国にビジネスを展開している企業などにとっては、関税措置、知財への措置に対する中国の報復措置により、ビジネスが不安定化する分野があることは自然なことであると思われます。加えて、環境の不透明感は、投資を企業に躊躇させる原因になるかもしれません。

10月26日に発表された米国7~9月期のGDPは、前期比年率+3.5%とブルームバーグの集計した市場予想比上振れしました。内訳をみると、個人消費は+4.0%(4~6月期は+3.8%)と、14年以来で最大の伸びを示しました。その一方で、設備投資は+0.8%と、約2年で最も低い伸びとなりました。

今後については、まず、企業部門の動向に留意する必要があると考えます。

図表1:実質国内民間総投資:設備投資(非住宅)
2013年3月31日~2018年9月30日:四半期:単位は前期比年率%

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

(2018年10月29日 9:30頃執筆)

柏原 延行