半導体ファブレスのトレックス・セミコンダクター㈱は、HiSAT-COT制御の超小型600mA DC/DCコンバーターの新製品「XC9281/XC9282シリーズ」(写真)を開発した。サンプル価格は税別200円。主に電池駆動IoT/ウエアラブル機器のセンサーや通信部分向けに10月から量産出荷を開始する。
新シリーズは「0603(0.6×0.3mm)のセラミックコンデンサー(MLCC)で動作できる電源IC」をコンセプトに開発した。発振周波数を従来品の3MHzから6MHzへ高周波化し、コイルに0.47μHの1005サイズ(1.0×0.5mm)、入力容量(CIN)と出力容量(CL)には0603サイズのMLCCを使用できるようにした。
ちなみに、HiSAT-COT制御はトレックスの独自技術。一般的なCOT(Constant of Time)制御に比べて、負荷と入力電圧による周波数の変動を少なく抑えることができる。
また、新シリーズはチップの製造プロセスを従来品の0.6μmルールから0.35μmルールに微細化して小型化するとともに、回路設計の改良でオン抵抗を0.32Ω(従来品は0.42Ω)、消費電流を11μA(同21μA)へ高性能化した。
これによってパッケージサイズ(WLP-5-06=0.96×0.88mm)を従来品比で約37%小さくすることができたため、MLCCなどの周辺部品を含めた実装面積を6.6mm2に抑えることができる。
村田製作所のMLCC受注残は3年前の5倍
トレックスが0603のMLCCをターゲットにしてDC/DCコンバーターを開発したのは、現在MLCCが深刻な供給不足に陥っているためだ。MLCCは、ハイエンドのスマートフォン1台あたりに約1000個、一般的な自動車1台あたりには1000~2000個が搭載されている。だが、自動運転の実現に向けた近年の自動車の電動化によって、自動車1台あたりのMLCC搭載個数が増加の一途をたどっており、最新の電気自動車(EV)は1台あたり1万~2万個のMLCCが必要になっている。
加えて、自動車向けにはスマートフォンなどよりも大きなサイズのMLCCを使う。これにより、製造プロセス1回あたりに製造できるMLCCの個数が少なくなり、MLCCメーカーの生産キャパシティーを圧迫している。MLCC各社は積極的に増産を進めているが、増産に必要な製造設備の納期が長くなっていることもあって、まだ需要に追い付いていないのが現状だ。
事実、MLCC世界首位の村田製作所は、18年4~6月期のコンデンサー受注残が1891億円となり、過去最高を更新した。これは3年前の水準(372億円)の5倍である。これを解消するため、村田製作所は18年度中にMLCCの生産能力を10%増強する予定であるほか、岡山村田製作所、出雲村田製作所、福井村田製作所に総額約800億円を投じて新工場を建設し、19年中に稼働させる投資計画を矢継ぎ早に発表した。
小型MLCCへの切り替え促進がIC開発のターゲットに
それでも、当面はMLCCのタイトな供給が解消しない見通しであるため、MLCC各社は生産数量を上げるため従来よりも小型のMLCCを増産することに注力し、ユーザー各社に従来使用していたサイズから一段小さいMLCCへ切り替えることを促している。すでに生産量ベースでは、17年に従来の主流だった1005の生産量を0603が上回ったといわれており、さらに小さい0402の生産量も伸びている。
トレックスが0603 MLCCを意識して新シリーズを開発したのには、このようなMLCCのかつてないタイト感がある。トレックスによると、MLCCが従来より小型になると実容量値が小さくなり、既存のICでは動作が不安定になるケースがあったといい、新シリーズの開発に至った。
小型MLCCが増える今後は、DC/DCコンバーターをはじめとする電源ICにより高精度な電流制御が求められるようになる。これまで、MLCCをはじめとする電子部品は、半導体の仕様に合わせて使用されるものだったが、MLCCの仕様に応じて半導体を商品化するという「逆転現象」がしばらく続くかもしれない。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏