メインバンク制は日本的慣習だから滅びていくのか

メインバンク制は合理的だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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メインバンクというシステムは、日本的なウエットなシステムですから、グローバルスタンダード信奉者には受けが悪いようですが、筆者はメインバンク制に大きなメリットを感じています。

メインバンクは、かかりつけの主治医のようなもの

ほとんどの日本企業は「メインバンク」を持っていて、借入も預金も外貨両替も、取引は主にメインバンクで行います。海外進出のアドバイスが欲しい時などは、メインバンクの紹介でメガバンクのアドバイスを受けたりしますが。これは、「かかりつけ医」と似ています。難しい案件の時は紹介状を書いてもらって大病院に行く、といったイメージですね。

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「借入のたびに各銀行に声をかけて、一番安い金利で貸してくれる銀行から借りる」ということも可能なのですが、それは二つの理由で行われていません。一つは万国共通の理由で、銀行は融資に際して借り手の返済能力を詳しく調べるので、毎回同じ銀行から借りる方が手間がかからないのです。

今ひとつが「メインバンクに恩を売る」という理由です。「借入も預金も外貨両替もメインバンクで行うことで、メインバンクの収益に貢献しておけば、いざという時に助けてくれるだろう」と期待しているわけです。苦境に陥った時に、「契約どおり担保を競売します」と言われるのと「返済は待つから、頑張って立ち直って下さい」と言われるのでは、天と地ですから。

メインバンクが借り手を助ける理由は「評判」

メインバンクとしては、借り手が苦境に陥った時、返済を待つ理由が二つあります。一つは、単純に「その方が銀行の利益になるから」です。競売するより生かしておいて少しずつ返済させる方が回収額が多くなる場合も多い、といった理由ですが、詳しいメカニズムについては、拙稿『なぜ銀行は債務超過の借り手を支えるのか?』をご覧ください。

返済を待つ今ひとつの理由は、返済を待たないと「あの銀行は冷たい」という悪評が立つからです。当該借り手だけとの関係を考えるのではなく、他の多くの借り手との関係を考えるわけです。

他の多くの借り手がメインバンクに恩を売るのは、いざという時に助けて欲しいからです。それならば、「あの銀行は冷たい。メインバンクなのに簡単に借り手の資産を競売する」という噂が立った銀行ではなく、「あの銀行は優しい。借り手の資産を競売せず、回復を見守ってくれる」という噂が立った銀行をメインバンクに選ぶでしょうから。

これにより、メインバンクが返済を待つので不況期の倒産が減り、雇用が守られます。不況期に雇用が守られれば景気の底割れが防げ、結果としてすべての銀行が「貸し倒れの減少」というメリットを受けることができます。

仮に個別行にとって競売が正しいとしても、すべての銀行が競売に走ると景気が悪化してすべての銀行が酷い目に遭います。「合成の誤謬」です。メインバンクシステムは、こうした合成の誤謬を防いでくれているのです。

余談ですが、日本が外国から攻められた時、米国は日米安保条約を守って参戦してくれるのでしょうか。筆者は楽観的です。米国にとっては、日本だけのことを考えれば参戦しない方が得ですが、ここで参戦しなかったら世界中の同盟国が米国を信頼しなくなり、同盟関係を破棄してしまうかもしれませんから。

財務部長の派遣も合理的

銀行員は、50歳を過ぎて出世のポストが得られないと、多くの場合、取引先に財務部長等として出向し、そのまま転籍することになります。これは、銀行にとって大きなメリットです。

すぐに思いつくメリットは、サラリーマンの出世ピラミッドから脱落した人の処遇ができることですが、取引先の情報が入手できるメリットも非常に大きなものがあります。借り手が提出する帳簿だけから与信判断をするより、財務部長として送り込んだOB/OGを通じて得た情報を用いた方が遥かに正確で迅速な判断ができますから。

借り手にとっても、銀行から財務部長が来るメリットは大きなものがあります。銀行に恩を売っておけば、「まさか財務部長を受け入れている企業を見殺しにはしないだろう」という安心感が得られます。

粉飾をしていないことを証明することもできます。これは意外と重要なことで、一般論として嘘をついていないことを相手に信じてもらうのは大変なことなのです。だからこそ「私は英語が得意です」という代わりに「私は英語検定1級です」という必要があるわけですね。

もちろん、銀行から来た人は「どうやったら銀行が好む書類が作れるか」を知っているでしょうから、これもメリットですね。銀行員が優秀な人材であるか否かは、ケースバイケースでしょうが(笑)。

時代とともに微修正されつつ、今後もシステム自体は続くはず

このように、メインバンク・システムは銀行にも借り手にも日本経済にもメリットがあるわけで、今後も続いて行くと考えられます。もちろん、時代とともに微修正はされていくでしょう。

たとえば、「借り手を見守り、場合によっては追加融資も行う」「借り手が破綻したら、準メイン銀行等の貸出の回収をメインバンクの回収より優先させる」といったことは、次第に少なくなって行くのでしょう。

こうした慣例は、「他行がメインバンクの時もやっているから、自行もやらなければ」と皆が思っている場合に続くわけですが、バブル崩壊後の金融危機以降、いずれの銀行も「ない袖は触れない」ということで、メインバンクとしての責任を少しずつ小さく認識していきました。その流れは、その後も続いているのかも知れません。

今ひとつ、企業と銀行の「株の持ち合い」は減少しています。お互いの会社の株を持って、株主総会で「異議なし」と言い合う、というのは、企業統治の面から問題がある、ということのようです。

一部には、「不稼働資産は売るべきだから、持ち合いは解消すべきだ」という人もいますが、上場会社の株式を不稼働資産と呼ぶのは賛成できませんね。持ち合い相手以外の株式投資家全員から反発を受けるでしょうから(笑)。

本稿は以上です。なお、本稿は拙著『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』の内容の一部をご紹介したものです。また、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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