国民年金や厚生年金は、減額されることはあっても、制度が破綻することはない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。
少子高齢化だから減額は当然だが
国民年金や厚生年金は、公的年金であり、現役世代が高齢者の老後の生活を支える制度です。したがって、少子高齢化によって現役世代と高齢者の人数比が変化していけば、高齢者が受け取れる年金額が減っていくのは当然のことです。
しかし、現役世代がゼロにならない限り、年金が受け取れなくなることはあり得ません。
厚生労働省は、将来の年金額の試算を公表しています。様々なケース分けをしていますが、それによると、悲観的なケースでも将来の高齢者は現在の高齢者の2割減となっています。
これは、インフレ分を調整した実質ベースの数字ですから、つまり年金だけで生活する高齢者の生活水準が2割低下する、ということですね。
厚生労働省の試算は、悲観的なケースでも、まだ若干甘い前提が置かれていますが、大まかなイメージはお持ちいただけたと思います。
この程度の減額であれば、年金受給開始を70歳まで待つことで、毎回の受給額を42%増やすことができますから、公的年金が老後の生活の頼もしい存在であることは疑いありません。
政府は必死に年金を支払うはず
厚生労働省の予測が大幅に狂って、年金が大幅に減額されるという可能性も皆無ではありません。しかし、それでも筆者は比較的楽観しています。理由は「シルバー民主主義」と「生活保護」です。
高齢化で、高齢の有権者は増加する一方です。しかも彼らは選挙の投票に行きます。一方で、少子化ですから現役世代の人口は減少していきますし、しかも彼らの投票率は低いです。
そうなると、政治家が考えることは「高齢者への年金支払いを減らすと、次の選挙が怖い」「若者向けの歳出をカットしてでも高齢者向けの年金はしっかり支払おう」ということでしょう。「シルバー民主主義」です。
今ひとつ、年金の支給額を減らすと、生活保護を申請する高齢者が増加し、かえって財政の負担が増える可能性も考える必要があります。
こうしたことを考えると、政治家は年金支給を最優先に考えるはずです。高齢者にとっては安心材料ですが、若者にとっては困った話ですね。
高齢者も70歳まで働こう
「年金が減額される」と聞くと、政府を批判したくなる人も多いでしょうが、皆が長生きするようになったのですから、これは仕方のないことです。毎回の受け取り金額が減っても、長生きすれば一生の間に受け取れる年金額自体は増えるかも知れませんし。
それでも、どうしても誰かを批判したいのであれば、皆が長生きしてしまうような良い薬を開発してしまった医者を批判しましょう(笑)。その上で、生涯所得に関する考え方を根本から見直してみましょう。
高度成長期、サラリーマンは15歳から55歳まで40年間働きました。自営業者はさらに長く働きました。人生の半分以上を働いていたのです。
これからは人生100年時代が来るわけですから、今の若者は20歳から70歳まで人生の半分を働くことになるでしょう。それが個々人の生涯所得と生涯消費の関係を健全なものに保つと同時に、日本経済全体としても生産者と消費者の人数比率を健全に保ち、納税者と年金保険料納付者の比率を健全に保つのです。
ここで重要なことは、単に長生きをするだけではなく、今の高齢者は元気だ、ということです。サザエさんに登場する波平氏は、54歳との設定らしいのですが、今の70歳で波平氏より元気な人は大勢います。そうした人には大いに働いてもらいましょう。
サラリーマンに限らず、子育てを終えた主婦にも、大いに働いてもらいましょう。幸いなことに、今後は少子高齢化による労働力不足の時代ですから、高齢者でも仕事を探せば比較的容易に見つかるはずです。
それが高齢者の社会との繋がりを保ち、老後の最大の問題の一つである孤独を緩和するならば、一石二鳥にも三鳥にもなると期待しましょう。
皆が人生の半分働けば、従来と何も変わらない
高度成長期と比べて寿命が20年延びた一方、働く期間も10年延びて、「人生の半分を働いて過ごす」という基本的なバランスが維持されるとすれば、年金もそれに応じて変更すれば良いのです。
制度を変更しても良いですが、人々が70歳まで働いて年金受給開始を70歳まで待つように仕向ければ良いでしょう。もちろん、健康上の理由等々で70歳まで働けない人については、別途の措置を検討する必要があります。
なお、「そもそも財政が破綻してしまえば、年金も支払えないはずだ」と考える読者は、拙稿『財政は破綻しないし、世代間不公平も存在しない』『日本政府が破産する瞬間、大逆転が起きる』も併せてお読みいただければ幸いです。
本稿は以上です。なお、本稿は拙著『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』の内容の一部をご紹介したものです。
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塚崎 公義