日本の財政赤字は巨額だけれども、日本の財政が破綻することはない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
財政破綻の定義が必要
日本政府の借金は円建てなので、絶対に破産することはありません。日銀に紙幣を印刷させて全ての借金を返済してしまえば良いからです。したがって、「日本の財政は破綻する」と言っている人々は、理論的に完璧に間違えています(笑)。
しかし、それではハイパーインフレになってしまいますから、本稿ではその選択肢は自粛しておきましょう。
日本政府の借金は1000兆円しかないが、日本の家計金融資産は1800兆円もあるから、家計金融資産の6割を財産税として徴収すれば、やはり政府の財政赤字問題は消えてしまいます。しかし、それでは革命が起きるといけませんから、やはり本稿ではその選択肢は自粛しておきましょう。
それならば、「1%の財産税を60年間徴収する」のはいかがでしょうか。それならば、革命もハイパーインフレも起きず、日本政府の現時点の借金はすべて消せますね。今後新たに発生する財政赤字については別途考えるということで、本稿は以上終わり、でも良いのですが、今少し色々と考えてみましょう。
世代間不公平は存在しない
頭を整理するために、極端なケースを考えてみましょう。一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を生んでいくと、数千年後には日本人が1人になります。その人は家計金融資産の1800兆円をすべて相続し、1700兆円くらいを使い残して他界するでしょう。そうなれば、1700兆円は国庫にはいりますから、日本政府の財政赤字問題は一気に解決します。
ここでわかることは、「財政赤字は、我々の負債を将来世代に負わせる世代間不公平だ」と意気込む必要はない、ということです。財政赤字のことだけを考えればそうですが、遺産のことも考えれば、世代間の不公平など存在しないのです。
存在しているのは、遺産が相続できる子とできない子の「世代内不公平」だけなのです。そこで筆者は相続税の増税を提唱していますが、その話は後述します。
ここで明らかなことは、数千年後にはすべての問題が解決する、ということです。もっとも、数千年も待たずに問題が解決した方が良いに決まっていますから、それについても後述します。
財政破綻論者は、数千年の間に何が起きるのか、具体的に示す必要があります。「最後の2人になった時に、金持ちと貧乏人が殺しあうかもしれない」という可能性はありますが、今少し現実的な破綻シナリオを示す必要があるでしょう。
少子高齢化で労働力不足の時代になり、増税が容易になる
現在の財政赤字が大きい一因は、「増税をすると景気が悪化して失業者が増えてしまうため、増税が難しい」ということです。しかし、今後は少子高齢化により労働力不足が深刻化し、「好況時は猛烈な労働力不足、不況時は軽い労働力不足」という時代になるかもしれません。そうなれば、失業を気にすることなく「気楽に」増税できるようになるでしょう。
もしかすると、「景気が過熱してインフレが心配な時に、金融引き締めをする代わりに増税で景気を抑制してインフレを抑える」ということも検討されるかもしれません。そうなれば、増税は財政再建とインフレ対策の一石二鳥ということになるでしょう。
筆者としては、上記のように相続税の増税を主張しています。特に、配偶者も子も親もいない被相続人の財産は、兄弟姉妹が相続するわけですから、これには高い相続税率を課しましょう。広く国民から消費税を徴収するよりは、兄弟姉妹の相続分を徴収した方が、痛税感の観点からも公平の観点からも優れているでしょう。
最近は、結婚しない人や結婚しても子供がいない夫婦が増えています。そうした人々が他界するまで数十年待てば、莫大な相続税が入り、財政は一気に改善するはずです。
投資家が国債を買うので国債は消化される
日本政府が将来は破産するかもしれない、と思っている投資家は多いでしょう。しかし、そうした投資家も、日本国債を買っています。なぜでしょうか。
「日銀がいつでも買ってくれるから」というのは理由にはなりません。日銀に国債を売りつけて、代わりに受け取るのは、破産が見込まれる日本政府の子会社が発行した「日本銀行券」という紙切れですから(笑)。
投資家は、10年国債を買う時に考えます。「10年後のことはわからない。でも、明日までに日本政府が破産する可能性は高くなさそうだ。それなら、明日以降のことは明日に考えるとして、今日から明日までは日本国債で運用しよう」と。
「明日までに日本政府が破産する可能性は、ゼロではない。しかし、日本国債を買わないとすると、外貨を買うしかない。日本銀行券を持っていてもメガバンクに預金しても、日本政府が破産すれば意味がないからだ」
「外貨を持つと、為替リスクがある。明日までに外貨が値下がりする可能性の方が、日本政府が破産するリスクより大きそうだ。それなら、とりあえず1日だけは日本国債で運用しよう」と。
明日になっても、同じことを考えて日本国債で明後日まで運用することになるでしょう。こうして、数千年の間、日本国債は暴落せずに最後の時を無事に迎えるのです。
読者のなかには、「それでも国債が暴落する場合もある」と考える人がいるでしょうが、国債の流通価格が暴落しても、所有者が損をするだけで、政府の財政赤字が増えるわけではありませんから、大丈夫です。
国債の新規発行ができなくなるのは困りますが、相場が落ち着くまでの辛抱ですから、一時的に日銀に融資をしてもらえば乗り切れるでしょう。
それより、国債が大暴落すると、多くの読者が想像もしていないようなことが起きると筆者は考えています。それについては、次回ご紹介します。
本稿は以上です。なお、本稿は拙著『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』の内容の一部をご紹介したものです。また、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。
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塚崎 公義