10月11日、アップルは欧州半導体メーカーのダイアログ・セミコンダクターから、電源管理に関わる技術および資産の一部を総額6億ドルで取得したと発表した。アップルは3億ドルの現金支払いに加え、向こう3年間の製品前払金として、3億ドルをダイアログに支払う予定だ。
アップルはダイアログと電源管理技術にかかわるライセンス契約を締結したほか、ダイアログ全体の16%に相当する300人強のエンジニアも受け入れる方針。従業員引き受けに伴い、アップルはダイアログのイタリア、英国、ドイツの設計・開発拠点も引き継ぐ。一連の作業は2019年前半に完了する見通し。
売り上げのアップル比率は7割に達する
ダイアログはPMIC(Power Management IC)を主力とする半導体メーカーで、ここ数年急成長を遂げてきた。とりわけ、アップルのiPhoneでの採用を契機に売り上げを伸ばしてきており、18年(暦年)通年でもアップルの売り上げ比率は約7割に達する見通しだ。
過度にアップルに依存する経営体質は以前から危ぶまれてきたが、ここ最近はアップルがiPhoneならびにアップル製品に搭載するPMICを自社開発品に切り替える方針が打ち出されており、業界内でも懸念する声が高まっていた。スマートフォンなどモバイル製品にとって、PMICはキーデバイスの1つ。PMICの性能が、バッテリーの駆動時間を大きく左右するといわれているほか、昨今はプロセッサーのマルチコア化によって、スマホ1台におけるPMICの搭載員数も増加していた。
PMICの内製化方針が業界内で認知されるなか、ダイアログは18年5月末にiPhoneの18年モデルにおいて、自らの供給シェアが減る見通しだと公表。複数社購買(具体的に内製品とは言及していない)になり、これに伴い18年の全社売上高は5%引き下がる見通しだと説明していた。
被害を最小限に食い止めた
以前からダイアログはアップルへの依存体質を改めるべく、M&Aなどを模索してきたが、成功に至らずここまで来ている経緯がある。このままでは、売り上げの7割を占めるアップルビジネスを消失してしまう危機に直面するなか、ダイアログとアップルは今回の新契約に至った。内製品に切り替えられる前に、対価を得ることで被害を最小限に食い止めたようにも見える内容だ。アップルとしても今後の製品開発に重要な電源管理技術をわずか3億ドルで得られたのは、お得な買い物だったともいえる。
アップルに一部技術・資産を売却する一方、オーディオサブシステム、充電関係をはじめとするサブPMICの分野において、同社と新たな契約を締結。この契約に伴う売り上げは19年から貢献が始まり、20~21年から大きく加速していく見通しだという。
ダイアログは今回のアップルとの取引を通じ、18年の売り上げ見通しをアップデートした。18年通年売り上げ見通し14億ドルに変更はないものの、アップル向けのメーンPMIC事業(売り上げ規模8.75億ドル)は19年後半から減少し始め、22年までにほぼ収束するという。なお、ダイアログによれば、19年のiPhoneのメーンPMIC、ならびに20年のiPad/Apple Watchからの売り上げは見込んでおらず、このタイミングで完全に内製品に切り替えるかたちとなりそうだ。
一方、先述のサブPMICの事業は現状、1.5億ドルにとどまっているが、22年までに年平均成長率30~35%のペースで成長を遂げると予想する。加えて、アップル以外のコネクティビティー、車載・産業機器、ミックスドシグナル分野での事業も拡大させ、アップルへの依存度を減らしていく。これにより、22年にはアップル向けの売り上げ比率は35~40%にまで減少する計画だ。
過去にも同じ事例が
アップルとの取引は他では見込めない相当のボリュームならびに、先端技術を採用してくれることもあり、半導体・電子部品各社にとっては今も重要顧客であることに変わりはない。しかし、アップルはデバイスからセット、さらにはOSなどソフトウエアとの垂直統合意識を従来以上に強めており、同業のスマホメーカーに比べても、内製化志向が強い会社だ。
過去にも、GPUコアをライセンス提供していたImagination TechnologiesがアップルのGPUコア自社開発の影響で、大きく売り上げを減らして窮地に立たされたケースもある。ダイアログも稼ぎ頭であったメーンPMICのビジネスを失うことは痛手だが、影響を最小限に食い止めたこと、そして特定顧客への依存体質を是正する意味でも、今回の大きな変化は良薬となる可能性が高そうだ。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳