ちょうど1年ほど前、フィリピン経済が構造改革で変化し始めていることをお伝えしました(『アセアン内の競争激化の中、岐路に立つフィリピン』)。今月初めにマニラに入り、現地の状況を見る機会を得ましたので、再度取り上げます。

アセアンでは「出遅れ組」だったが…

フィリピンについて改めて振り返ってみると、財閥や地主などによる経済の寡占化が進んだことや、国内産業保護政策によって外資の参入障壁が高かったこともあり、産業振興や工業化政策でアセアンの国々の中でも出遅れました。1980年代は実質GDP成長率で年平均2.0%、1990年代に入っても同2.8%と低成長にとどまり、アセアンの中では劣等生的な位置づけに甘んじてきました。

そして、フィリピン国内では産業が育たず、雇用機会も増加しなかったことから、英語を話せる点を生かして海外に職を求めるフィリピン人が年々増加し、国外で雇用されるフィリピン人(OWF)人口は2013年には1,024 万人(人口の約1割)に達しています。また、OWFがフィリピンに送金する総額は2015年には256 億ドルと、GDPの1割弱に相当するに至りました。

フィリピンBPO産業の現在

そうした経済の構造を変えつつあるのが、2000年代に入ってから成長著しいBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業でした。主に米国やオーストラリアなどの国で業務を展開するさまざまな業種の企業が、フィリピンをBPO先として、各種のプロセシングを外部委託するようになったのです。

背景としては、フィリピンの人口が2014年に1億人を突破した上に、平均年齢は24.2歳と若く、①若年労働力を豊富に確保できること、②人件費が相対的に低いこと、③英語を話せる労働人口が豊富であることが挙げられます。BPOのファンクションとしては、コールセンターやトランスクリプションが主流ですが、ゲームやアニメーション制作、音楽やカラオケコンテンツの開発など、多種多様に拡大しています。

IBPAP(IT & Business Process Association Philippines)によると、2014年には業界全体の売上高は184億米ドル、雇用者数は約103万人でしたが、2016年には売上高230億米ドルに達し、雇用者数も120万人に拡大しました。つまり毎年10万人の雇用を新たに産んでいるのです。今後、2022年には、BPO業界で180万人を雇用することになると予想されています。

年率成長ベースでは、これまでは年15%成長してきましたが、2022年時点で年8%成長を見込んでおり、規模の拡大に伴って年率ベースでの成長は小さくなるように見えるものの、まだまだ業界全体の成長余地はあるとのことでした。また、IBPAPの試算ではBPO業務での1雇用は、周辺業務で3ないし4の雇用を生んでいるそうです。そして、近年では、マニラ都市圏以外にも分散してBPOセンターが稼働し始めており、フィリピン全域への波及効果がみられるとのことでした。

今後の成長に対するリスク要因は?

もちろん、世界レベルでは競合環境は厳しくなりつつあります。皆さんも、英語のコールセンターというとインドが思い浮かぶのではないでしょうか? BPOの受け皿になろうとする国はいくつもあります。しかし、サービス水準や現地通貨の安定、雇用コストの差、 IT環境やセンターが立地する場所のグランドデザインなどの要因を比較すると、引き続きフィリピンへの移転を進める理由は多いようです。

アウトソースする企業の側の目線で見ると、フィリピンは母国に似た環境であるという点も、大きな理由かもしれないと感じました。米国人から見るとマニラの環境は、米国本土と大きく変わるかというとギャップは小さいという印象でした。実際に、BPO元企業の7割程度は米国企業です。オセアニア企業も20%、アジア企業10%とシェアはありますが、米国企業がBPOアウトソースを戦略的に推し進めているという事情が反映されています。

他のリスク要因としては、米国内の保護主義的な動きに関連して、BPO業務に関連する法案として米国にはアウトソーシング法案というものがあるそうです。これは米国内の雇用にも関わるものだけに、フィリピンの政府も業界も、その行くへには神経をとがらせているようです。

データ出所:IBPAP - IT & Business Process Association Philippines

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一