モノをインターネットに接続することですべてがスマート化できる。それは工業、農業、運輸、施設設備、環境、医療、介護、警備、宇宙環境計測、構造物計測、生態計測、動体計測などに多岐にわたる展開が期待できるのだ。2020年までには240億のIoTデバイスがインターネットに接続されていくという。
IoTシステムに必要なワイヤレスセンサーデバイスは無線IC、データ保存用メモリー、制御用CPU、検出回路、電池・キャパシタ、電源回路、環境発電デバイス、充電回路、各種センサーで構成されている。これらのデバイスに要求されているのは、圧倒的な低消費電力化、低電圧動作、高性能化、多機能化、パッケージ小型化、高密度実装技術だ。
最近では一般的なパソコン、スマホなどの端末ではなく、エッジコンピューティングデバイスといわれるモジュールにおいても様々な無線通信やIoT環境が作られてきた。IoTシステム向けゲートウェイではボードコンピューター並みの各種モジュールが出てきており、数千円~数万円で買える手軽さで、ほとんどパソコン並みの機能を超小型でやってのけてしまう。ソフトの多様化により自分だけのエッジコンピューティングも可能になってきている。
グーグルの「Edge TPU」が10月から販売開始
さて、ここに来て注目を集めるのはグーグルによるエッジデバイス向けTPU「Edge TPU」である。エッジでTensor Flow Lite MLモデルを実行するように設計された専用のASICチップであり、10月から外販も開始される。何とグーグルは今やファブレスの半導体メーカーと化してしまったのだ。初代のTPUはコンセプトができてからわずか15カ月後には生産に持ち込まれている。驚きは最初にテストされたシリコンから22日以内に、速やかにデータセンター内でアプリケーションを起動し実行していたことだ。
周知のようにクラウドサービスはアマゾン、Azure、グーグルの3者によって事実上支配されている。アマゾンは最大の存在であり、2017年の年間収益は174億ドル、クラウドコンピューティングの市場シェアは34%を持ちトップをひた走る。Azureは年間収益ではアマゾンより上であり186億ドル、同シェアは11%。グーグルの年間収益は29億ドル、同シェアは8%と上位2社に比べ低いものの、エッジデバイスそのものに深く入り込んでいることでひときわ異彩を放っている。
グーグルが作り上げたエッジ専用半導体は、最近のベンチマークでは従来のCPU/GPUに比べて処理速度が15~30倍とバカ速く、エネルギー効率も30~80倍に向上している。今や機械学習やAI技術(音声認識やスマートホームなど)のブームが到来しているが、現在まではクラウドサービスで実現しているものが多く、とにもかくにもインターネットに接続が必要となる。しかし、エッジ処理技術の拡大により、さらなるIoTサービスの展開が期待されており、グーグルのTPUはこうした時代を切り拓くフロントランナーのひとつであるといえるのだ。
インテルは「NERVANA」を19年末までに出荷予定
グーグル以外にもインテルは「NERVANA」というデバイスを開発中であり、2019年末までに出荷予定となっている。アームもまた一般的なAIベースアプリケーションにおける機械学習と画像処理および認識のためのオブジェクト検出の2つのプロセッサーを発表している。エヌビディアは評価キットを販売中であり、アップルはSiRiとタスクの自動化および学習を組み合わせた新たな機能をiOSに導入している。
IoT時代における無線通信システムではおそらく国内No.1の評価を得ているアーズ㈱の取締役 漆原育子氏は、グーグルのTPUをかなり評価した上で「クラウドではなくエッジ側の処理でIoTを実現する半導体は、TPUを筆頭にここ半年で急ピッチで開発が加速している。新しい時代がやってきたと思えてならない。そしてまた、グーグルが半導体に本格参入してきたことも次のIoT時代を象徴する出来事かもしれない」と述べている。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉