日本的経営には、それなりのメリットがあるから、今後も続くと久留米大学商学部の塚崎公義教授が説きます。
日本的経営は終身雇用、年功序列、企業別組合
日本企業の多くは株式会社で、法的には米国企業と似ています。「株主が金儲けのために作った会社であり、社長も社員も株主の金儲けのために雇われている」というわけです。しかし、実態は大きく異なります。
バブルの頃までの日本企業は、「従業員の共同体」であり「会社は家族」でした。株主には「資本金のお礼」をするだけで、会社が儲かったら社員に報いるのが当然だったのです。
その後、グローバルスタンダード信奉者(後述)が増えたことなどから、利益配分に関しては「会社が儲かったら株主に配当する」ようになりましたが、それ以外の点では、引き続き日本的経営が続いています。
日本的経営とは、終身雇用、年功序列、企業別組合のことです。学校を卒業して就職した会社で定年まで働くのが終身雇用、その間は同期入社の間であまり差を付けず、勤続年数に応じて処遇が上がっていくのが年功序列、労働組合が企業ごとに組成されているのが企業別組合です。
多くの日本人にとって重要なのは終身雇用
終身雇用は、会社にも社員にもメリットがあるシステムです。最大のメリットは社員の安心感でしょう。日本人はリスクを嫌う傾向が強いので、「クビになるかも知れないが、給料が高い外資系」よりも「給料は高くないが雇用が保証されている日本企業」を選ぶ人が多いのです。
会社としては、社員が一生勤めてくれるとなれば、金をかけて社員教育をすることができます。社員が会社に忠誠心(または愛情でも愛着でも可)を持ってくれるという期待も持てます。
もっとも、終身雇用が機能するのは日本だからだ、という人もいます。外国で終身雇用を採用したら、「サボってもクビにならないからサボる」という社員ばかりになってしまう、というわけです。日本でも、確信犯的に仕事をサボっている人は存在しますが、決して多数派ではないのは、日本人の真面目さのゆえなのかもしれませんね。
余談ですが、筆者は日本人の恥の文化が影響していると思っています。「サボっていると窓際族にさせられて恥ずかしいからサボらない」というわけですね。恥の意識がない人ならば、「仕事をせずに給料がもらえる窓際族って最高だ」と思うかもしれませんから(笑)。
時代に合わせた変化は必要だが
終身雇用も、人生100年時代には維持できないでしょう。企業の栄枯盛衰がありますから。加えて、年功序列との併用も難しいでしょう。70歳定年制に移行すると高い給料の高齢社員の人件費が大変ですから。
そこで、定年は60歳のままで定年後再雇用する、という企業が増えてくるのでしょうが、定年後再雇用として安い給料で昔の部下にこき使われるくらいなら、転職した方がマシだ、という人も多いでしょうし、少子高齢化による労働力不足が深刻化すれば、転職してくる高齢者を受け入れる会社も増えてくるでしょう。
年功序列も次第にフラットになり、給料や地位が先輩と逆転するケースも増えてくるはずです。もっとも、極端な成果主義にはならないと思います。日本的な先輩を敬う文化もありますが、それより成果主義だと同僚は敵ですから、協力してチームプレーをすることが難しくなりますから。
企業別組合は残るでしょうが、組合の力は落ちていますし、組合のない会社も増えていますから、企業別組合の重要性は落ちていくでしょうね。
日本的経営はグローバルスタンダードに劣らない
1990年代、日本経済が「失われた10年」に苦しむ一方で、米国は「ニューエコノミー」と呼ばれる長期好況を謳歌していました。そこへ、旧東側諸国が経済体制を学びにきていたため、米国的な経済体制が「グローバルスタンダード」だと考える人が増えてきました。
「日本経済が不振なのは、日本的な経済システムに問題があるのだから、日本も米国の真似をしてグローバルスタンダードを採用すれば良いのだ」と考える人が増えてきたのです。その考え方を推進したのが小泉内閣でした。
しかし、こうした場合に筆者が不思議に思うのは、戦後の復興から高度成長を遂げ、バブル期には「日本経済は世界一だ」と言われるようになったのはなぜか、ということです。それほど日本の経済システムに問題があるのであれば、日本経済が世界一になったはずがないでしょう。
グローバルスタンダード信奉者は、「バブル期まで非常にうまくいっていた日本経済が、その後急にダメになった理由」を説明する必要があったのですが、筆者が耳にしたのは、せいぜい「日本的システムはキャッチアップの過程で効果があるが、キャッチアップ後は邪魔だ」といったものだけでした。バブルの崩壊と同時に「本日でキャッチアップが終了しました」と宣言されたわけでもないのに(笑)。
筆者は、今でも日本的経営はグローバルスタンダードに劣っていないと思っています。もちろん、グローバルスタンダードの良いところは採用し、時代の変化に応じて変化していくべきところは変えていく必要がありますが。
本稿は以上です。なお、本稿は拙著『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』の内容の一部をご紹介したものです。また、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義