全くもって異常とさえいえるCO2規制が加速している。欧州を先頭にこの運動はとどまるところを知らず、2030年には自動車の燃費値は38km/L(つまりは65kg/km)まで規制されるというのだから驚きだ。EV、燃料電池車、次世代マイルドハイブリッド車など様々なエコカーの拡大が叫ばれているものの、現実的には2030年段階ではやはり従来のエンジン車が市場の大半を占めているだろう。
そうなれば、エンジン自動車の燃費を良くして、かつCO2を出さないような工夫がどうしても必要になる。世界一のエコ民族である日本人は、当然のことながらこの対策に手をこまねいてはいない。NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)が打ち出している「革新的新構造材料」の研究開発プロジェクトは、まさに目を見張るものがある。すなわち、世界に冠たる「ニッポンの素材力」をフル稼働させ、画期的新材料で車体軽量化を進めていこうというわけだ。
ちなみに現在の日本国内のCO2排出総量は約12億トン。うち運輸部門は約17.4%を排出、自動車はそのうち86%を占めているだけに、日本全体の約15%を排出しているのだ。また国内のエネルギー消費量1.35万PJのうち、運輸部門は約23%を消費しており、ガソリン、軽油、LPガスなど石油系エネルギーが96%を占めている。こうした状況下にあって、自動車の燃費改善技術の向上は最重要かつ待ったなしであるといえよう。
日本の材料企業がクルマの軽量化に総力
NEDOの音頭とりに応じ、日本の材料企業が一気に動き出した。神戸製鋼所はレアメタル添加量を10wt%以下に削減し軽元素を活用することで、高強度、高延性の超高張力銅板(超ハイテン)を開発した。従来材料に比べ何と30%の軽量化効果を達成したのだ。
東邦チタニウム、新日鉄住金はチタン薄板の低コスト化技術を開発している。溶解工程(インゴット)を省力した低コストプロセスを開発し、高品質スポンジチタンを製造し工程改善でかなりの軽量化を実現できる。また名古屋大学は熱可塑性CFRPを用いた自動車用大型部品の開発に取り組んでいる。LFT-D成形設備、マテハンシステムを完成させ、CFRP製のターゲット車のシャシー作成に成功している。
この開発には島津製作所、トヨタ自動車、ホンダ、スズキ、東レ、帝人、アイシン精機、共和工業、スバル、福井ファイバーテック、カドコーポレーションなどが参画している。その他にも革新的マグネシウムの材料の開発には川崎重工業、三協立山、権田金属工業、住友電工、不二ライトメタル、大日本塗料などのそうそうたるメンバーが一致協力してプロジェクトを推進している。
またマツダは、独自にマルチマテリアルに向けた異材接合技術の確立に取り組んでいる。これはリベットやスクリューなどの副資材を必要としない直接接合技術を目指すものだ。ポイントは抵抗スポット溶接を用いたアルミ/銅板の点接合と、摩擦攪拌接合をベースとしたアルミ/CFRPの点接合にあるという。
実現可能な材料開発で2030年に目標達成へ
NEDOによれば、2030年までの軽量化目標は「-37%」であり、これが実現すれば従来ガソリン車であっても72g-CO2/kmとなり、画期的なCO2削減を達成することになる。まだまだ本当には確立できないEVや燃料電池車の技術促進をあてにしないで、実現可能な材料開発でエコを図る。これぞ、ニッポンの離れ業といえるのではないか。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉